文・構成/タカザワケンジ
【祝!発売日に大重版!】謎は謎のままに、世界観の魅力を深める。
大人気アニメ『モノノ怪』のスピンオフ小説『モノノ怪 執』、著者の仁木英之インタビュー!
和製ホラーアニメ『モノノ怪』に登場する謎多き「薬売り」の初めてのスピンオフ小説『モノノ怪 執』。「形」「真」「理」の3つが揃うとき――薬売りの持つ”退魔の剣”の封印が解かれ、モノノ怪を斬る!
今回は、中村監督が帯に推薦文を寄せ、本文もカバー絵も監修したスピンオフ小説『モノノケ怪 執』を手掛けた仁木英之(@NikiHideyuki_2)さんに、インタビューに答えていただきました。人気イラストレーターのおく(@2964_KO)さんがカバーを手掛けた、発売前から話題沸騰の初スピンオフ小説の魅力に迫ります。
▼『モノノ怪 執』発売!謎多き薬売りの物語・全6話の登場人物・内容紹介はこちら
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▼『モノノ怪 執』カバー絵を担当した"神絵師"おくさんのメールインタビュー
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薬売りさんをどう描くかに苦心
――『モノノ怪 執』の執筆を依頼された時にどうお感じでしたか。
仁木:KADOKAWAさんで『黄泉坂案内人』という妖怪たちが住む村のシリーズを書いていたので、「モノノ怪」的な世界観とも共通点があるんじゃないか。だったら書けるんじゃないかと思ってお引き受けしました。
アニメは放映時に見ていましたが、お話をいただいてからもう一回見直しました。映像的、絵画的な熱量がすごい。小説を書くという前提で見ると、文字にするのはすごく難しいな、と思いましたね。これを小説にするとしたら、という像が自分の中でできあがるまで時間がかかりました。
――監督の中村健治さんから、小説を書く上での注文はあったんですか。
仁木:中村監督からのお話で印象に残っているのは、薬売りさんの背景は書き込まないでほしいということと、薬売りさんが力を発揮するためにクリアしなければならない「形・真・理」を大切にしてほしいということですね。
ノベライズは僕にとっては二回目で、以前「文豪とアルケミスト」という文豪をモティーフにしたスマホゲームの作品のノベライズ(『君に勧む杯 文豪とアルケミスト』)を書いたことがあります。井伏鱒二が主人公だったんですが、実在の人物をもとにしているので情報をたぐり寄せやすい。キャラクターの肉付けがしやすかったんです。
でも、『モノノ怪』では薬売りさんというキャラクターが外面でしかわからない。彼がモノローグで内面を語るわけではないですし、キャラクターとの会話の中で自分をさらけ出すこともほとんどない。どうしたらキャラクターが際立つのか。周りの登場人物を光らせることで、薬売りさんの影がくっきりする、像ができていくんじゃないか、と考えました。
――今回、六つの物語が収録されています。それぞれ物語がきっちり作られていて、登場するモノノ怪も、井上円了や小泉八雲、『神明鏡』、『百器徒然袋』、『神異経』などさまざま。モノノ怪はどのように選んだのですか。
仁木:薬売りさんが自分から少し遠かったので、僕の中で身近なモノノ怪を選ぼうと思いました。一話目の鎌鼬は飯綱とも言って、長野県に住んでいた頃、飯縄権現を祀っている飯綱山が近かったんです。
ぬっぺらほふや玉藻前はもともと中国の妖怪。僕は『僕僕先生』という中国ファンタジーから小説を書き始めたので、中国の伝承をもとにした妖怪は身近に感じるんです。
――第一話の「鎌鼬」は三河万歳、熊野神人、傀儡師、角兵衛獅子が登場し、門付け芸人のバトルロワイヤルみたいですよね。
仁木:鎌鼬を出そうと思った時に、鎌鼬は管狐とも言いますから、管家──管狐が住み着いた富裕な家ですね──を出そうと。三河地方の伝承、管家となれば、門付けがいっぱい集まってくるだろう、と連想ゲームのようにつながっていった感じですね。
もともと僕は民俗学で言う客人神、よそからやってくる神様がすごく好きなんです。若い頃、中国に留学していた時にバックパッカーとしてあちこちに行って、僕自身が客人を経験しているので、門付けの芸人さんたちの気持ちがわかるし、薬売りさんもそういう存在だと理解を深めていったところはありましたね。
キーワードは「執(とらわれ)」
――第二話の「亀姫」は会津の奇談集「老媼茶話」に登場するモノノ怪ですね。
仁木:会津ってとても魅力のある町なんですよ。人もそうですし、自然や伝承も。歴史的には治めるのが難しい土地でもあったみたいで、とくに江戸時代初期は領主が何度か入れ替わっているんですね。有能と言われる武将でも難しかったみたいで。その苦労の背景にモノノ怪的なものがあったら面白いな、と。そこで調べてみたら亀姫が出てきたんです。
――若者の秘めた恋という要素もあって、一話からはまた世界が広がっています。
仁木:今回、僕のほうで『モノノ怪 執』とタイトルに「執」をつけたんですけど、執念の執なんです。つまり「執(とらわれ)」がキーワードなのかなと。男女間の心のやりとりにも執着心が中心にあるなと。
――第三話の「玉藻前」は少女二人が鞠をついて遊んでいるところから始まり、のどかな始まり方なんですけど、やがて大人の世界のどろどろに巻き込まれてしまいます。
仁木:子供が親の秘め事を知ってしまうって、いちばんキツいところではありますよね。そういう経験を乗り越えて大人になっていくのかもしれないけれど、知ってしまっても最後に残るきれいな部分があるのかな、と。
――江戸時代の造花職人「つくり花師」の話でもありますね。
仁木:これもこの話を考えていて知った仕事ですね。今回、何か一つこういうことを書きたいな、と引き出していくとずるずる面白いものが見つかって、ということが多かったんです。
――玉藻前もかなり古い妖怪ですよね。
仁木:いわゆる九尾の狐ですね。アジア各地に広く同じような伝承があるんですが、中国で一度退治されたものが日本に飛んできて、というのが定説みたいですね。
――第四話「文車妖妃」には、江戸時代に実在した戯作者、為永春水が登場します。
仁木:『文豪とアルケミスト』で作家のことを読んだり書いたりしていたので、一篇は作家を主人公に書きたいな、と。
――為永春水って、紆余曲折あった人みたいですね。この中でも書かれていますが、講釈師でもあり、作家でもあった。
仁木:そうですね。為永さんって人は、柳亭種彦っていう戯作者とほぼ同時代で、当時の評価では柳亭さんのほうが上。為永さんは柳亭さんを複雑な思いで見ていたと思うんです。僕もきらきらしている作家さんを見て、もやっとすることがあるんですよ(笑)。
執ということで言えば、芸事で成功したい人って、情念とか執念がすごいじゃないですか。為永さんを通じてそういう「執」をモノノ怪の世界でもやってみたいな、と。
――為永さんは講釈師としても戯作者としてもくすぶっている時に、手紙を代筆して一人の女性に影響を与えていく。そのくだりはゾッとするほど怖かったですね。
仁木:書き手から見ると、それって実は快感だと思うんです。自分の書くものによって人がおかしくなっていくわけですから。
作家って、狂ってほしいとまでは思いませんけど、自分の書くもので読者の感情を揺さぶりたいんですよ。自分が書いたもので読者が別の方向を向いてくれたら作家冥利に尽きるんです。
――今回、登場するモノノ怪の中でも文車妖妃は異色ですよね。かわいげがある。失敗作や悪口を書いた屑紙を食べてくれるし。為永さんも不気味に感じながら放っておいているんですよね(笑)。
仁木:作家って文車妖妃みたいなものを心に飼っていると思うんですよ。ただ、そこはモノノ怪なんで最終的には人の心を侵していくわけですけど。
――第六話の「ぬっぺらほふ」。この中でもっとも有名なモノノ怪ですよね。
仁木:オリジナルのアニメでも出てくるし、世間でもいろいろな伝承がある。自分だったら、と考えて、こういうのはどうだろう、と。最終話で、『モノノ怪』というアニメに対する僕なりのアンサーとして書かせてもらいました。
「モノノ怪」には無数の物語がある
――アニメでは薬売りというキャラクターはルックスが個性的で印象に残ります。でも、仁木さんが言われているようにどんな人かはよくわからない。どう書こうと思われましたか。
仁木:書かれていなくても、感じるように書けたらなと。きっとこの場面を見ているんだろうなとか、機会をうかがっているんだろうなとか。セリフも絞りに絞って。薬売りさんがふだんは表に出さないものがのぞければいいなと思いました。初稿ではそれをやりすぎて、もうちょと薬売りを出してくださいと言われたんですけど(笑)。
――「形・真・理」が揃わないと退魔の剣が抜けないという縛りがありますけど、それを物語に織り込むのに苦労しませんでしたか。
仁木:修験道をはじめ世界各地には激しい苦行や制約を己に課すことによって強い力を得られる、という考え方があります。何かを禁ずることで力を引き出す。
「形・真・理」は、禁じているわけではないですが、条件が揃わなければ力が発揮できない。制約を与えることで、力、強大な力が発揮されるんだ、と捉えています。
――今回、六話お書きになって、書いていて気持ちよかった場面はありましたか。
仁木:それぞれの話の最後ですね。最終的には薬売りさんが恨みつらみや、悩み、執着心みたいなものをぜんぶ引き受けてくれる。「形・真・理」があるものを一刀両断して、一気に昇華してくれる爽快感はありましたね。
――今回は「執」ということですけど、また別のキーワードで続けて書く可能性はあるでしょうか。
仁木:『モノノ怪』はすごく魅力的な世界観だと思います。薬売りさんという最後にはすべてを引き受けてくれる存在があることで、そこにつながる無数の物語を書くことができると思います。 また書いてみたいですね。
著者プロフィール
仁木英之(にきひでゆき)
1973年大阪府生まれ。信州大学人文学部に入学後、北京に留学、2年間を海外で過ごす。2006年『夕陽の梨─五代英雄伝』で第12回歴史群像大賞最優秀賞、同年『僕僕先生』で第18回日本ファンタジーノベル大賞を受賞。「僕僕先生」シリーズは読者の圧倒的支持を集め、ベストセラーとなる。著書に「千里伝」シリーズ、「くるすの残光」シリーズ、「黄泉坂案内人」シリーズ、「立川忍びより」シリーズ、『撲撲少年』『真田を云て、毛利を云わず 大坂将星伝』『三舟、奔る!』など多数。
作品紹介・あらすじ
仁木英之『モノノ怪 執』
モノノ怪 執
著者 仁木英之
定価: 726円(本体660円+税)
発売日:2022年06月10日
斬新な世界観で多くのファンを魅了した『モノノ怪』の世界が小説で蘇る
15年経った今でもノイタミナ全70作中第1位(※「あなたが選ぶ思い出の3作品」2005年―2009年制作部門1位)という人気を誇る和製ホラーアニメ作品『モノノ怪』。その作品世界を踏襲したスピンオフ小説を「僕僕先生」「黄泉坂案内人」 シリーズで人気の仁木英之が書下ろす。
猪苗代湖畔の天守に夜になると現れる姫、深川の長屋住まいのつくり花師を取り込んだ妖狐、古戦場に現れる獰猛な妖怪、本郷前田藩の屋敷近くに出る顔をはぐ怪物など、モノノ怪あるところに現れる妖しき薬売り。「形」「真」「理」の3つが揃うとき、薬売りの持つ”退魔の剣”の封印が解かれ、モノノ怪を斬る! 斬新な世界観で多くのファンを魅了した和製ホラーアニメ『モノノ怪』に登場する謎多き薬売りのスピンオフ小説、全6話。帯推薦文は、中村健治監督!
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『モノノ怪 執』発売!謎多き薬売りの物語・全6話の登場人物・内容紹介
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『モノノ怪 執』カバー絵を担当した"神絵師"おくさんのメールインタビュー
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