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特集

『ミシュランガイド東京2020』に二つ星で初掲載! 「散歩するように楽しい発見をして欲しい」 レストラン「INUA(イヌア)」が目指すこと

撮影:小嶋 淑子  構成:アンチェイン 

ドラマ「グランメゾン東京」でレシピ提供・料理監修をしているレストラン「INUA(イヌア)」のヘッドシェフであるトーマス・フレベル氏にインタビュー。先日発表された『ミシュランガイド東京2020』に、新店として唯一二つ星で掲載されたことでも話題のINUA。そのコンセプトや、お店が目指すビジョンについて伺いました。

「世界でもっとも予約の取れないレストラン」として有名なデンマークの「noma(ノーマ)」。ここでリサーチ&開発を担当していたトーマス・フレベル氏が、ヘッドシェフを務めるのは、東京・飯田橋に2018年6月オープンしたレストランINUA。木の温もりを感じる日本と北欧を融合させたスタイルの店内で、国内の厳選食材を使い、日本古来の発酵、燻製、熟成などの方法で新たな味わいを引き出す独特な料理で話題のレストランだ。料理だけでなく、インテリアや食器、カトラリーにも気を配り、常に五感に新しい刺激をもたらしてくれる。
 お店のプロデュースや料理開発を手掛けるヘッドシェフのフレベル氏(以下、トーマス)は、ドイツ生まれ。2009年からnomaで働き、2014年に初来日。その後、日本全国を巡り、日本の食材や文化に魅せられ、日本へ移住することを決意。INUAでは、世界中から集まった仲間たちとともに日々新しい料理を生み出す研究を重ねている。野生の果実、ハーブ、海藻などを、トーマスならではの観点でアレンジし、料理に落とし込む。そのこだわりは話題となり、いまでは東京でもっとも注目されるレストランとして話題を集めている。



――ドラマ「グランメゾン東京」の料理監修でも話題です。最初は、オープンして間もないお店が引き受けられたことに驚きました。

トーマス:お話をいただいたとき、INUAが選ばれて光栄だと思いましたが、INUAはフレンチレストランではないので、驚きもありました。ただ、オープンして1年以上経ったINUAを、日本のみなさんにテレビを通してもっと知ってもらういい機会なのではないか、と思いお引き受けしたんです。

 もちろん、思った以上に大変なこともありましたが、TBSの制作サイドもレストランの世界観を作り上げることの大変さを十分理解していました。プロジェクトが動き出してからは、お互いに少しずつ世界観を共有していくことで、私たちもINUAのスタイルを守りつつTBS側の期待にできるだけ応えようとやっています。


――ドラマの監修に携わることで、トーマスさん自身、なにか学びや発見はありましたか。

トーマス:それは……忍耐でしょうか(笑)。普段は5分や10分で済むような簡単な作業も、ドラマの撮影となると1時間、ときには3時間くらいかかってしまうこともあります。それには少し驚きました。
 それから、劇中のフレンチレストラン「gaku」のシェフ丹後役を務める尾上菊之助さんは、俳優としてもプロフェッショナルですが、料理関係の飲み込みもとても早い方でした。少し堅い部分もあるのですが、そこがいかにもフレンチの料理人らしくて(笑)。この役にとても向いていると思いました。



――INUAの料理には昆布出汁(だし)や山椒など、日本の料理文化を活かしたものが多いのが印象的ですが、トーマスさんが考えているINUAの料理のコンセプトを教えてください。

トーマス:メニューを考えるときは、いつも“プログレッション”を考えています。通常は何かに辿り着くまでのプログレッション(進行)だと考えがちですが、それはゴールが見えている場合。INUAでは、お客様に食べてもらう過程で色々なところに様々な発見を見出して、まるで道を散歩しているかのような楽しい体験をしてもらいたいと思っています。コースを一覧したときに、テーブルの上で全く同じ位置にお皿が置かれることがないように(*編集部注:INUAではサーブされる器も、手前だったり奥の方だったり、鮟鱇のあごの骨の中に入っていたり、と置かれる場所にも趣向が凝らされている)、ほかにも熱いもの、冷たいもの、手で食べるもの、箸を使うもの、ナイフとフォークを使うものなど、料理の一つひとつになにか異なるポイントがあるように仕上げています。


Photo by Jason Loucas


――なるほど。お皿を置く位置にもこだわっているんですね。そういえば、INUAの料理は食べ方はもちろんですが、日本人が知らなかったり、普段口にしないような食材の提案もしていますよね。

トーマス:はい。食べ方だけでなく食材のことも同時に考えないと、新しい料理は生まれないと思っています。それに、ただ変わった食材を集めただけでは、一度目はおもしろいなと感じるかもしれないですが、美味しくなかったらそのお客様は二度と戻ってきてくれません。最終的には、どれだけ斬新な料理でも美味しくないと意味がないのです。



――日本は調味料も多種多様。味噌ひとつとっても、様々な種類のものが売られています。でも、INUAでは敢えて味噌なども自家製のものを一から作っています。大変な作業ではないですか。

トーマス:日本の調味料の作り方を自分たちで習得することで、既存の調理方法や組み合わせを変えるヒントになります。たとえば、味噌の作り方を知って味噌とじっくり向き合うと、どこに自分たちの手や考えを加えたらどういうところまでもっていけるだろうかと、発想が広がっていく。そうすることで、料理を新しい次元に押し上げることができると思っています。


――日本の食材や料理文化の枠そのものを壊したい、という思いがあるのでしょうか。

トーマス:そういう思いもありますが、もともと私は、INUAを始める前に世界中の料理を食べ歩きました。そのときに、他の国でもよく食べられている調味料や発酵食品など、どういうものがその国で好まれて食べられているのかをリサーチしたんです。たとえば、オーストラリアのベジマイトやイギリスのマーマイト、日本のとんかつソースなどは、作り方を見ると共通点が多かったりします。なぜこれが美味しいと思われるのかを考え、研究しました。



――では、みんなが美味しいと思う究極の味を追求することが最終目標ですか。

トーマス:それは私たちには不可能ですし、とても退屈なことです。仮にお客様の99%が美味しいと思うものができたとしても、実際にそれを提供しているお店はすでにありますよね。万人に受け入れられる味を目指すという目的は、せっかくのINUAのポテンシャルを違う方向に向けてしまいます。それよりも、いままで食べたことがない、自分が好きか嫌いかすらも知らない、わからないようなものを作り出したいんです。
 たとえば、スティーブ・ジョブズが開発したiPhoneは、最初、みんなこんなものを必要だとは思っていなかった。しかし今では、不可欠なものになっていますよね。決してそこを目指しているわけではないのですが、食べたことがないものをINUAで食べて、美味しかったという経験をしてほしいんです。




――日本のコンビニやファミレスも美味しさのレベルが日々向上していますが、INUAはこういったラインと少し違っていて、新しい経験や発見をもたらしてくれるレストランとして存在しているように思えます。先程も、美味しいだけでは退屈だとおっしゃいましたが、そこに居続けるバランス感覚やそのモチベーションはどこからくるのでしょうか。

トーマス:これから先は、なにが出てくるのか予測できるようなわかりやすいレストランばかりではなく、予測不可能だったり、常に新しいことをやっていたり、といったオリジナリティで、自分の居場所を作っていかなくてはならないと僕は思っています。もちろん、サービスやおもてなしも感じてほしいけれど、ひとつの料理の背景にどれだけの人の苦労があるか、そこを理解してくださっているお客様に、INUAをより知ってもらいたい。とくに食材については、日本全国からこだわって集めています。時間と労力をかけても、いいものを提供しようという気持ちで頑張ってくれている生産者さんがたくさんいるのです。


Photo by Jason Loucas


――日本人のお客さんを意識するというよりは、より広く世界のお客さんを意識しているのでしょうか。

トーマス:もちろん、日本人のお客様に理解してもらいたいと思っていますが、それ以上に、INUAで出している料理にどれだけの努力がかけられているのかを多くの方に知ってほしいです。世界にも、INUAのようにテストキッチンがあり、オペレーションで料理を作っているところはありますが、とくにINUAでは、日本の農家さんや生産者さんが研究し尽くして作り上げた食材を選び抜き、それがお皿にのるまでにたくさんの過程がある。そこをもっと知ってほしいのです。
 日本に初めて来て和食を知ったとき、当然、日本人に愛される日本料理を作るのはどうかという考えも生まれたのですが、それだけでは自分が正直に働けないと感じました。なぜなら、何十年も続いている伝統の懐石料理を僕は作れないから。だったら、僕らが作る“日本人が体験したことのない料理”を味わってほしいなと。海外から来たシェフが日本の食材を使ってどうやって新しい味に辿り着けるか、そこにチャレンジしたいと思ったんです。



――なるほど。その食材や生産者さんへの愛とあくなき研究の姿勢が、今回の快挙につながったのでしょうね。あらためまして、『ミシュランガイド東京』への二つ星での初掲載、おめでとうございます!新店では唯一の二つ星だそうですね。

トーマス:こんなにも高い評価を、こんな短期間でいただけるとは思っていなかったのでとてもびっくりしました。これまでの道のりを支えてくれ、常に全力で頑張ってくれているINUAのスタッフ、そして何よりも私たちのお客様に大きな感謝を伝えたいです。でも、二つ星の評価をいただいた事で、大きく意識が変わることはありません。自分自身が幸せであれば、お客様にも心からのおもてなしができます。ですから、レストランで働くスタッフにとってベストな環境を作ること、来るのが楽しい、刺激に溢れる職場にすることをこれからも変わらず大切にしていきたいです。


撮影:島本絵梨佳


――あらためてINUAがこれから目指すところを教えてください。

トーマス:目指すところはオープン当初から変わっていません。食材と調理方法に関して、知っているものと知らないものを組み合わせて提供することを心掛けています。たとえば、食材は知っているけれど、こういう食べ方は知らないとか、その逆もしかり。必ずおもしろいアイディアを取り入れるようにしています。アイディアがありつつ美味しいものを追究しながら、INUA自体も成長していきたいですね。
 最近、僕が仲間たちとよく話しているのが、ベジタリアンレストランもいいな、ということです。今は、肉や魚を使ったメニューも提供していますが、いつか挑戦してみたいです。
 ベジタリアンのレストランとしてどうやったら世界に通用するか。そして、どうやったら日本のお客様から驚きとリスペクトを得られるか。これからはもっと植物や海藻などのポテンシャルを調べて、美味しさを求めてINUAを進化させていきたいですね。



Thomas Frebel(トーマス・フレベル)
1984年生まれ、35歳。ドイツ・マクデブルク出身。2009年noma入店以来、リサーチ&開発のトップとしてレゼピ氏の信頼を築き、東京、シドニー、メキシコでのポップアップ店舗でも腕をふるい、レゼピ氏の右腕としてnomaをリード。2018年6月に開業したレストランINUAのヘッドシェフに就任。


Photo by Jason Loucas

INUA
所在地:東京都千代田区富士見 2-13-12 KADOKAWA富士見ビル 9F
営業日時:毎週火~土曜日 18時~(ディナーのみ)/日曜ランチ(月数回、不定期)
公式サイト:inua.jp


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