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特集

『ミシュランガイド東京』二つ星掲載レストラン「INUA」×ドラマ「グランメゾン東京」「面白くて美味しい」を追求するINUAの料理哲学とは?

撮影:小嶋淑子/編集部  構成:アンチェイン 

ドラマ「グランメゾン東京」でレシピ提供・料理監修をしているレストラン「INUA(イヌア)」。先日発表された『ミシュランガイド東京2020』に新店として唯一二つ星で掲載されたことでも話題を呼んでいます。ドラマの料理監修の舞台裏から、INUAが大事にしている料理哲学まで、INUAスタッフにお話を伺いました。


Photo by Jason Loucas


 現在放映中の連続テレビドラマ「グランメゾン東京」は、フランスである事件を起こしたことがきっかけで全てを失ったカリスマシェフ・尾花夏樹(木村拓哉)が様々な人との出会いをきっかけに東京で再出発。仲間たちと三つ星レストランを目指してふたたびシェフとして奮闘する姿を描いた物語だ。
 ドラマはいよいよ最終章へと向かっていくが、劇中で目を楽しませてくれる料理にも注目したいところ。今回は、尾花とライバル関係にある丹後学(尾上菊之助)がシェフを務める「gaku」の料理監修を担ったレストラン「INUA」の魅力を紹介する。
 INUAは、世界のトップと言われるデンマークの「noma(ノーマ)」のDNAを受け継いだ、東京でいま話題のレストラン。INUAという名前は、“生きとし生けるものに内在する精神”というグリーンランドのイヌイットの言葉から来ているといい、“命をいただき、それを食べて生きる。それは自然への敬意であり、文化そのもの”という理念のもと、ローカルの食材を駆使した新しい料理を発信する。また、料理だけでなくインテリアや器、カトラリーなどにも独特のこだわりを持ち、ここでしか味わえない空間を楽しめる。
 そのINUAがこのたび、どのように「グランメゾン東京」の料理監修に加わったのか。撮影現場の様子とともに、INUAの新規メニュー開発担当で、ドラマの撮影にも深く関わっているジュニアスーシェフ・石坂秀威(以下、秀威)氏に話を聞いた。

レシピだけでなく「料理」をトータルで監修


――毎日営業しているレストランが、ドラマの料理監修に入るのは極めて異例のことだそうですね。ドラマにはどのように関わっているのですか。

秀威:まず、料理の撮影がある場合は、シェフのトーマス・フレベルと僕が必ず現場に立ち会っています。僕たちは、料理そのものだけでなく器やカトラリー、テーブルフラワーなども含めてINUAだと思っているんです。だから、撮影のたびに食材だけでなく、器やカトラリーまで現場に運び込む。毎回、ものすごく大荷物になってしまいますね。下準備はすべてINUAの厨房で行ない、現場で火入れや盛り付けをしています。また、ドラマのスタッフの方が撮影の手順を考えやすいよう、事前に料理のプロセス動画を撮って送ったりもしました。


石坂秀威さん


――1回の撮影にどのくらいの分量を準備するのですか。

秀威:第1話の放送で、尾花と早見倫子(鈴木京香)が丹後のレストランgakuを訪ねてコース料理を食べるシーンがありました。そのときは大掛かりな撮影だったので、バックヤードのスタッフも含めて総勢6人で現場に入り、すべてのセッティングを行ないました。シーンでは、主役のお2人の料理のほかに、ミシュランの調査員役のテーブルや、その他のテーブルに座るお客様すべてのお料理を準備しなければいけなかったので、トータルで30人分くらいの準備が必要だったんです。それと、撮影はひとつのシーンをいろいろな角度で何回も撮るので、食材を余分に用意する必要もあります。


――具体的に大変だったエピソードがあれば教えてください。

秀威:先ほどの、30人分のコース料理の撮影ですが、実は撮影スケジュールの都合で急きょ別の日に変更になったんです。通常営業であれば、その日手に入った食材次第でコース内容を変更したりすることもできますが、ドラマではそうはいきません。時期的にも季節の変わり目で、台風シーズンということもあって海が荒れていたので、いい金目鯛がもう一度人数分仕入れられるか、食べられるお花やハーブを大量に使ったメニューについても同じものがもう一度手に入るのかなど、食材の再調達には苦労しました。でも、普段僕らがお世話になっている契約農家さんや鮮魚店さんに頑張っていただいて、最終的にはいいものを揃えることができました。


       黙々と下ごしらえをするスタッフ。Photo by Jason Loucas


――確かに、それは通常のレストラン営業とは大きく異なる点ですね。

秀威:それから、丹後シェフがメニューを試行錯誤する場面などで、途中段階の試作例を考えるのは難しかったですね。料理としてはかなり完成されているけれど、丹後が採用したものには一歩及ばないものってどんな一皿だろう、と。


――内容に関わる部分まで深く携わっているんですね。

秀威:そうなんです。試作例の料理をなぜ丹後がNGだと思ったのか、その理由や具体的な調理方法まで考えたり。これも、普段のレストラン営業ではないことなので、面白くもあり挑戦でもありました。

撮影の舞台裏では


レストランの下の階にあるテストキッチン。新メニューはここから生まれる


――ドラマの撮影現場はいかがでしたか。

秀威:僕らは主に菊之助さんがいらっしゃる現場に立ち会うことが多いのですが、菊之助さんがわざわざ僕らのところに足を運んで、細かいことまで聞いてくれるのが嬉しかったですね。やると決めたら徹底的に突き詰める。食材の切り方やピンセットの使い方、盛り付け、アシスタントが仕上げたものを確認するときのチェックポイント、料理を出す直前にどういうところを調整するのかなど、細かいところまで知ろうとするところがプロだなと思いました。ですから、僕らも料理だけではなく「料理人」としてのディテールもお伝えしました。菊之助さんのプロ意識は、行き届いた所作を通してきっとドラマの画面にも出ていると思います。


――制作サイドからはどのような要望があったのですか。

秀威:最初は「フレンチっぽく」と言われていたのですが、だんだん自由にやっていいと言われるようになりました(笑)。でも食材や盛り付けなどは少しフレンチを意識するようにしています。制作サイドからも「通常のフレンチではあまり登場しない、和食を代表するような食材は避けてほしい」というオーダーがありました。INUAはフレンチレストランではないですし、日本の食材を活かしたメニューばかりなので、gakuの料理では、あえて付け合わせや盛り付けなどで“フレンチっぽさ”を出すようにしています。INUAならコースの最後にお米のメニューを出すところを、gakuではパンを合せたり。キノコを使うような場面(第3話)でも、日本のものではなく、ヨーロッパで使われる香り高いセップ茸を使用したり、といった具合です。


――ドラマのために作り出したメニューもありますか。

秀威:先ほどお話しした第3話の「麹漬けの鹿肉のタルタル、ゆっくりキャラメライズしたビーツ、マリーゴールドとローズゼラニウムのペスト、生セップ茸とヘーゼルナッツ」はドラマのためのオリジナルレシピです。それから「鮟肝のテリーヌ」や「アンコウのパピヨット(紙に包んでオーブンで焼いた料理)」などは、INUAでも実際にお出ししているメニューですが、ドラマのために、少しフレンチっぽく見えるようにアレンジしました。これらを作りながら、トーマスは「このメニューなら、(INUAらしさを失わず)ドラマスタッフにも絶対気に入られるよ!」と言っていました(笑)。



――INUAらしさにこだわりつつ、ドラマに合わせたレシピを提供しているという絶対の自信があるんですね。

秀威:そこはやっぱりこだわりたいところですね。INUAでは、レシピだけでなく、その料理に合わせたお皿、空間などすべてをトータルでコーディネイトして「一皿」を提供しています。ですから、ドラマであっても手は抜けない。すべてをトータルで表現することでINUAの料理が完成するのですから。これからラストへ向けてgakuがどのように進化していくのか、俳優さんたちのお芝居はもちろんのこと、gakuの料理にもぜひ注目していただきたいですね。

INUAの果てしない探究心


――2018年6月にオープンしてから1年半が経ちます。世界中からお越しになるお客様に向けて、日々新しいメニューを開発し、提供されていますが、日本という土地の魅力はどこにあるのでしょうか。

秀威:日本は世界から見てもとても小さな国なのに、沖縄から北海道まで気候が大きく異なっていて、それぞれに豊かな食材を生み出している。沖縄のエキゾチックな果物と北海道の寒い海や山の食材を同時に使えるのは、料理人として楽しいし、魅力的です。日本食の場合は旬の食材をそのまま使いますよね。それももちろん素晴らしいのですが、僕らは“貯蔵”や“発酵”や、様々な技術を駆使して、いろいろな形で料理を提供しています。春の食材に秋から熟成させていた食材を合わせたり、完熟の実以外の部分を試してみたり。例えばカシスという食材を例にあげると、未熟な状態、完熟のときの味、枝や葉、新芽などそれぞれにまったく違う美味しさがあります。こうやって調理したら美味しく食べられそう、あれと組み合わせたら面白そうなど、あらゆることを試しながら“面白くて美味しいもの”を追求していきます。生きものとして、全てを使いきろうとすることで料理の世界も広がるんです。


Photo by Jason Loucas


――秀威さんは、研究開発も担当していますが、メニューはどのようにして決まるのですか。

秀威:メニューは必ず、みんなで意見を交わしながら作っています。トーマスは、いつも「メニューの開発は、1人では限界がある。1人で考えていると目の前に見えているものしか見えない。仲間と共有すると、アイディアが鏡のように反射していろいろな角度から見える」と言います。一度、トーマスが怒ったことがありました。トーマスの作った料理を試食しても、みんな「美味しい」以外の意見を言わなかったんです。そのときトーマスは「そんな気遣いは求めてない。周りの人の意見を聞いて考え方が変わるのがいいんだから」と。トーマスほどの料理人でも、自分の意見だけで料理を出したことは一度もないんですよ。



――先ほどお話に出てきました“貯蔵”と “発酵”ですが、どのように料理に活かしているのでしょうか。

秀威:例えば、豆腐のカマンベールチーズです。自家製の豆腐にカマンベール菌を付けて発酵させ、チーズのように仕上げたものになります。豆腐も発酵すると全く違う味や香りになるので、見極めが難しいんです。温度を変えてみたり、豆腐の大きさや固さを変えてみたり、菌の分量を変えてみたり……。お客様にお出しできる状態になるまでに、試作品を60種類は作りましたし、完成まで約3ヶ月かかりました。


発酵中の豆腐チーズ


豆腐のカマンベール仕立て、銀杏とイチジクの葉


――一口に発酵と言ってもとても広く、奥深いものなんですね。

秀威:はい。可能性が無限にあって、飽きませんね。逆にどこで納得するかを自分で決めないと迷ってしまいます。温度や湿度などの微妙な違いで結果が大きく変わるので、とても時間がかかりますし、その全ての試行錯誤の過程が大切になってきます。


――今後、挑戦してみたい食材はありますか。

秀威:僕は外国で生まれ育って、料理人として初めて日本に来たので、日本の食材のなにもかもが面白いですね。日本ではあまり使われていない食材や部位を食べられるように工夫するのも面白いですが、普段みんなが食べ慣れている食材を「INUAでしか食べられないもの」に変身させるのも楽しいです。まだまだ時間が足りません(笑)。



――秀威さんの思うINUAの魅力は?

秀威:食べるものに対して奥深く考えているところでしょうか。ひとつひとつの食材を細かくリサーチし、デベロップメントする。それができるのはnomaとINUAくらいだと思います。お客様には、これまでの料理の概念が変わるような料理と出会っていただき、ワンダーランドに来たような感覚を味わっていただけたらいいなと思っています。



INUA
所在地:東京都千代田区富士見 2-13-12 KADOKAWA富士見ビル 9F
営業日時:毎週火~土曜日 18時~(ディナーのみ)/日曜ランチ(月数回、不定期)
公式サイトinua.jp



石坂秀威(いしざかしゅうい)
オーストラリア出身。INUAのジュニアスーシェフ。開発部門でヘッドシェフ・トーマスの右腕を務める。ドラマ「グランメゾン東京」の撮影では、トーマスとスタッフの間の通訳を務めたり、料理の手元の吹き替えを務めたり、と裏方のメインとして活躍。


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