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特集

「若手には間違いなくチャンス」開幕延期のプロ野球で今、注目すべきは?

新型コロナウイルスの感染者は増加の一途をたどり、プロ野球は両リーグともにオープン戦を無観客試合として開催するだけでなく、公式戦の開幕自体を延期しました。例年通りの開幕にあわせて調整を続けてきた選手のコンディションにはどのような影響が出るのでしょうか。2月の発売直後に重版が決定した『ザ・スコアラー』(角川新書)の著者で、読売巨人軍でスコアラーを22年にわたって務めた三井康浩さんにお話をうかがいました。

▶開幕延期によるコンディショニングの難しさ


――東京五輪の延期が決定しました。プロ野球も開幕を延期しています。各選手のコンディショニングという点では非常に難しい状況にありますよね?


三井:特にピッチャーは難しいでしょうね。開幕投手なんかも決まっていた球団もあるでしょうし、一度つくりあげたものを戻さなくてはいけない。野手なんかも、オープン戦の時期に一度あえて調子を「落とす」んですね。練習とオープン戦で自分を追い込んで、そこから開幕に向けて徐々に「上げて」いくのが通例です。「開幕をベストの状態で迎えたい」というのが選手の心理としてはあるでしょうから、いつ開幕なのか決まらないのはメンタル的にも厳しいでしょうね。


――「落とす」という表現をされましたが、その追い込むタイミングというのも、当然ながら人それぞれですよね?


三井:おっしゃる通りです。選手によっては二回「落とす」選手もいますね。一回目はキャンプ。そこで疲労の溜まった体を回復させてオープン戦に臨む。そして、さきほど言った二回目、ですね。やっぱり、プロで長く続けている選手ほどそのスケジュール感覚は身についているわけですから。練習試合も中止が決まった状態では余計に難しくなりますよね。


――この状況が逆にチャンスとなるようなタイプの選手はいるのでしょうか?


三井:うーん、なかなか難しいですけど……若手にとってチャンスであることは間違いないでしょう。私が40年在籍したジャイアンツなんかは、補強も積極的にするので若手に与えられるチャンスの数そのものが他球団よりも少ないんですね。その点では開幕までが長い現状はチャンスと捉えることはできます。たとえば、ジャイアンツから(北海道日本ハム)ファイターズに移籍して、昨年20本塁打を達成した大田泰示。彼なんかはファイターズでより多くのチャンスを与えられて、結果を残しましたよね。素晴らしい素質を持っているのは、皆がわかっていたわけで。


――今年のオープン戦を見ていて、目を引く球団はありますか?


三井:やっぱり(福岡ソフトバンク)ホークスは群を抜いているな、と感じます。個々の選手の質もチームとしての戦い方も他とは違うなという印象を覚えます。若い選手もどんどんと育ってきていますよね。こういうチームは他にはあまりないでしょう。三軍制もホークスはうまく活用できているように思います。

▶野球は「流れ」を強く感じる競技


――試合開催期間が短縮された場合、シーズンの試合数を減らすケースとクライマックスシリーズを短くするケースとが考えられますけど、どちらが現場としてはありがたいですか?


三井:正直、両方それぞれに難しさがありますよね。ただ、どちらかと言えば、143試合というシーズンの試合数はそのままにしてほしいという気持ちはあります。やっぱり、チームの編成でも「流れ」というか連続性がありますから。さきほどの「若手にとってはチャンス」という話ですけども、それは確かに事実なんですが、かといってすぐにレギュラーになれるかと問われればそんなことはないわけです。チーム編成においては前年や前々年からの連続性があって、その視点でもってドラフト指名もやっていますしね。


――さきほど「流れ」という言葉がありました。シーズン全体という観点だけでなく、一試合の中でも「流れ」というものは存在しますよね。三井さんはどのように捉えていらっしゃいますか?


三井:ゲームの流れってありますよね。「今、こっちに(流れが)来てる」っていうのは、雰囲気を含めてなんですが、間違いなく感じますよ。野球経験者であれば、その感覚は共有できるんじゃないかな。そして、そういう時ってやっぱり投手もテンポよく投げたがります。投手コーチがマウンドに向かうシーンをご覧になったことがあると思うんですが、すごく嫌がる投手いますもんね。「良いテンポで投げてるんだから、邪魔しないでくれよ」という感じで。


――そういう気質の投手は逆にその部分を攻略の糸口にもできそうです。


三井:プロでも投手を続けられるような選手って性格的にはそういう人が多いですから。もちろん、リズムはそれぞれだから、間の短い投手、間の長い投手というのはいます。私が同期入団だった江川卓さんはすごく間の短い投手でした。テンポが早いからなのか、大差がつくような試合展開にならないんですね。逆に間の長い投手が登板する試合ではエラーや四死球が互いに出ることが多い。そして、またそういうチームに限って細かい継投とかやってきます。


――じらし戦略ですね。


三井:故・仰木彬さんが得意でした。ああいうのは本当にやられる側は嫌でしたね。一球投げたら「タイム!」とか、ショートやセカンドを交代させたりしてね。でも、これも一種の駆け引きですし、野球を見て楽しむ上ではとても重要な視点です。「投げる」「打つ」「走る」という技術だけじゃなくて、打席に入った時の打者の目線を見て、どのコースを狙っているのかを考えてみたり。そういうスコアラーの視点を持って野球を見てもらったら、今よりも何倍も楽しめると思いますね。



三井康浩ザ・スコアラー』の詳細はこちら(KADOKAWAオフィシャルページ)
https://www.kadokawa.co.jp/product/321906000883/

【関連記事】
>>野村ID野球を倒すために苦闘した巨人軍スコアラーが伝える「奥深さ」『ザ・スコアラー』(評者:菊地高弘)


三井 康浩

1961年島根県生まれ。出雲西高等学校時代に強打で鳴らし、78年ドラフト外で読売巨人軍に入団。同期には、江川卓氏や鹿取義隆氏らがいる。1984年に現役を引退。引退後は、二軍マネージャーを経て、スコアラー、査定室長、編成統括ディレクター、編成本部参与等を歴任。2018年末の退団まで40年間にわたり巨人軍を支え続けた。2009年のWBC第2回大会では日本代表チームのチーフスコアラーを務め、世界一に貢献。現在は各メディアで野球解説をする傍ら、セミナーや野球教室なども行う。合同会社スリップストリーム所属。

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