インタビュー

生まれてすぐのあかちゃんに、世界はこう見えている。『あかちゃん研究からうまれた絵本 かお かお ばあ』が0歳0か月からおすすめな理由
撮影:島本 絵梨佳 取材・文:大和田 佳世
『あかちゃん研究からうまれた絵本 かお かお ばあ』が出版されます。著者は、顔認知のトップランナー山口真美先生(中央大学文学部心理学研究室教授)。絵本の実験を監修したのは金沢創先生(日本女子大学人間社会学部心理学科教授)。認知心理学と乳児の視覚発達についての専門家であるお二人に、この本の魅力を解説していただきました。
あかちゃんに見える世界って、どんな世界?
――『あかちゃん研究からうまれた絵本 かお かお ばあ』をなぜつくろうと思ったのでしょうか。
山口:
あかちゃんにはいくつか特徴があって、まず、生まれてすぐは目がよく見えないんですよね。視力が未熟なため、視界に霧がかかったように全体的にぼーっとかすんで見えていて、コントラストがはっきりしたものしか見えないんです。色も、見える色と見えにくい色があります。そして、あかちゃんは不思議なことに生まれたときから顔が大好きです。この3つの特徴を盛り込んだら、生まれてすぐのあかちゃんにも楽しめる絵本ができるんじゃないかなと。
――まさに0歳0か月からのあかちゃん絵本ですね。
山口:
はい。世の中の「あかちゃん絵本」と呼ばれるものは1、2、3歳までが対象なので、1歳未満には見えにくい絵本が多いなと、以前から思っていたんですよ。視覚認知は1歳までに発達するので、1歳未満は見えていない色もあります。1歳のお誕生日を過ぎてから読む絵本と、それより前のあかちゃん絵本は区別するべきだと思います。
――この絵本のどんなところが1歳未満のあかちゃんによいのですか?
山口:
あかちゃんが大好きな顔がたくさん出てくるところと、あかちゃんに見えやすい、コントラストがはっきりした色や模様で、刺激になる要素がたっぷり盛り込まれているところですね。
カラフルな顔の絵がかわいい!
――目がぱっちりしたカラフルな顔がかわいいですね。絵をミスミヨシコさんにお願いすることにしたのは?
山口:
ミスミヨシコさんの絵の、子どもの表情が豊かで、線がくっきりと太く、色もあざやかでコントラストがはっきりした図柄がぴったりだと思いました。しかも愛らしく、全体的にメリハリがあるところがよかった。ぜひミスミさんにとお願いしました。
――できあがった絵を見ていかがですか?
山口:
こうして原画ができあがってみると、1つ1つの図柄のテクスチャーの違い……、質感の異なる素材がいろんなところにあるのがすごくいいですね。大人にとっては1つ1つの質感が、ただの模様や背景で、意味のないものに見えて無視してしまうかもしれないけど、だんだん目が見えるようになってきたあかちゃんにとっては、1つ1つが興味を引かれて、おもしろくて、夢中になれるものなんです。切り絵でつくられているので、それぞれ違った塗り方や、立体的に重ねられているところが、いい意味で刺激的。とてもあかちゃんに適している絵だなと思います。
視覚発達が未熟なあかちゃんに見える色や模様
――金沢先生にお聞きしますが、あかちゃんにとって見えやすい、はっきりしたものとは、具体的にどんなものでしょうか。
金沢:
白と黒は、色のコントラストがいちばんはっきりしているので、コントラスト感度が弱いあかちゃんでも、白黒のシマの模様は見えます。『かお かお ばあ』は最初、目玉だけのページからはじまりますが、白目の部分がすごく大事なんですね。白目と黒目の強いコントラストで、あかちゃんの注意を引きつけるんです。
――色については?
金沢:
赤と緑は色を見る仕組みでは同系統なのですが、まず生後2か月くらいから赤や緑を認識できるようになります。生後4か月くらいから黄色や青。成長とともにいろんな色が認識できるようになります。同時に5、6か月頃からギザギザ模様や、顔の表情が認識できるようになっていきます。『かお かお ばあ』は、あかちゃんの認識発達順に沿ってデザインされた絵本です。
――あかちゃんとお母さんの反応を実験されたそうですが、具体的にはどんな実験を?
金沢:
あかちゃんとお母さんに絵本を読んでもらってビデオ撮影し、絵本を見ている時間の長さや、指をさしたり手を伸ばす回数、「あー」など喃語の発話の回数、笑う回数などをカウントしました。これらの反応の総計から「あかちゃんがちゃんと絵本を見ているか」を測る方法です。
――実験結果はいかがでしたか?
金沢:
目玉だけのページから「ばあ」と顔があらわれる場面や、「かお かお がおー」の場面は特に反応がよかったです。低月齢から12か月、14か月、16か月といった1歳前後のあかちゃんもよく反応していました。
「顔が大好き」って本当?
――ところで、あかちゃんは0歳0か月から顔が大好き!って、本当のことなのでしょうか。
山口:
本当です。不思議ですよね。1970年代からアメリカやイギリス、イタリアなどで新生児のあかちゃんに対する実験が行われてきました。もともとは生まれてすぐに親元を離れて歩き出す離巣性の動物の研究で、鶏のヒナが最初に見たものを親として後を追う“刷り込み”が、人間にも起こりうるかといった研究テーマがありました。哺乳類である人間のあかちゃんは生まれてすぐ動き回ることができないので、育ててもらうために、お母さんの顔を見ようとする習性が生得的にあるのではないかと。研究の結果、あかちゃんが生まれつき“顔らしきもの”を見るのは間違いないことがわかってきました。目がふたつあり、口があるという、顔のような特徴を示すものであれば、図形を並べた絵であってもあかちゃんが見つめることがわかってきたのです。
――“顔”を見る性質が生まれつきあるのですね。
山口:
0歳0か月のあかちゃんは生得的に持っている「反射」のような行動として、顔を見つめます。そこからお母さんと子どもの交流がはじまり、顔を見れば、抱っこやおっぱいといった“報酬(ご褒美)”があることがわかる。生後5か月6か月と脳の発達にしたがって、お母さん以外にも色々な人の顔があるという認識が育っていきます。人見知りがはじまるのがちょうど7、8か月頃です。正面ではなく横顔で人を区別できるようになるのもこの頃です。
『かお かお ばあ』を絵本の入り口に
――顔がいっぱいだからこそ、あかちゃんの目を引きつけるんですね。
山口:
顔があると顔を見てしまうのは、生物学的に当然のことなのです。顔が並んでいると、あかちゃんは「見たいものがたくさんある!」と目が離せなくなるんじゃないでしょうか(笑)。
――あかちゃんにいつから絵本を読んだらいいかわからない、読んでみたけど反応がないので読まなくなったという声を聞くこともありますが……。
山口:
初めての子を子育て中の親御さんが、「うちの子は絵本が好きじゃないみたいだし、私も下手なのかもしれないけど、読んでも楽しくなさそうだから絵本はもういいわ」となってしまったら悲しいですよね。そもそも、もしかしたらその絵本はあかちゃんに見えてないのかもしれない。だからこそ『かお かお ばあ』をつくりたかったのです。
――初めての絵本をあかちゃんにちゃんと見てもらえたら、嬉しいでしょうね。
山口:
親御さんにとっては、最初は赤ちゃんが見てくれるかどうかも不安なものですから。まずは確実にあかちゃんの目をとらえる“刺激”としてデザインされた絵本を試して、あかちゃんが見てくれるとわかったら、少しずついろんな絵本の楽しみ方を見つけていってもらえたら。『かお かお ばあ』が絵本への入り口になればいいなと。
――絵本というより最初はおもちゃのような感覚でもよいのでしょうか。
山口:
いいと思いますよ。これくらいのサイズなら寝転がっても見られますから、一緒にぺらぺらって見て。ただそばに置いてときどき眺めるだけで、読んであげなきゃと気負うことはないと思います。
金沢:
とにかく、あかちゃんが見てくれるようにつくったから!と(笑)。
山口:
はい(笑)。あとは、絵本の中であかちゃんがどんなものに興味を示すのかを観察しつつ、声かけのタイミングを学んでいったらいいと思います。じゃあ、ちょっと声に出して読んでみようかなと思ったときに、読んでもらえたら。
金沢:
実験結果では、お母さんが声をかけたときのほうが、あかちゃんの発話や指さしといった反応が増えます。絵本は親子のコミュニケーションツールで、あかちゃんのいろいろな行動や発達を引き出す力がありますから。まずは『かお かお ばあ』を体感して、自由にコミュニケーションを重ねてもらえたらと思います。
山口:
そうですね。この絵本であかちゃんの世界を知り、あかちゃんの成長を楽しんでみてください。
書籍情報
『あかちゃん研究からうまれた絵本 かお かお ばあ』
作:山口 真美 実験監修:金沢 創 絵:ミスミ ヨシコ
https://www.kadokawa.co.jp/product/321802000763/