インタビュー 「本の旅人」2014年4月号より
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長編小説第3弾、待望の文庫化! 加藤シゲアキ『Burn.-バーン-』インタビュー
取材・文:タカザワ ケンジ
〈加藤シゲアキさんの『Burn.-バーン-』が2017年7月25日に角川文庫より文庫化されました。単行本刊行時に「本の旅人」2014年4月号に掲載されたインタビューを「カドブン」に掲載します。〉
「魂を燃やせよ」——―人気アイドルと同時に
小説家としても自身の可能性に挑み続ける若き才能。
本作でまた新たな脱皮を遂げた加藤氏に密着インタヴュー!
感情を獲得することで失うものがある
── : 『ピンクとグレー』『閃光スクランブル』に続く三作目の長編小説ですね。一作目では純文学的、二作目はエンタメ、とインタヴューでおっしゃっていましたが、三作目はどうでしたか?
加藤: 今回はどっちもやろうと思ったんです。エンタメ的なスピーディーな展開と、テーマを静かに語るシーンとを両方。限られたページ数で欲ばったことをやろうとしたので、苦労しました。
── : 主人公のレイジはかつては人気子役で、いまは劇作家、演出家という設定です。どんな人物にしようと思いましたか。
加藤: 少年時代のパートでは、子どもがだんだん喜怒哀楽のようなはっきりとした感情を獲得していくまでを書きたかったんです。子どもって、大人の言うことを聞いていれば良い子、って思われがちですよね。子役だったら、言われたままのことができればいいお芝居って言われたりする。でも、大人になるにつれて、人間としての感情を身につけるうち、言われた通りの演技ができなくなることってままあると思う。感情を獲得することで失うものがある——そのことを書きたかった。一方で、大人になったレイジがこれから父になることで、また新しい感情を知っていく。その二つを並行して書くために、いまと少年時代の両方を書いたんです。
── : 少年時代のレイジが大人の世界を知るきっかけになるのが、渋谷の公園に住んでいるホームレスの徳さんと、渋谷で隠れ家的なショーパブを経営するドラッグクイーンのローズです。二人のキャラクターが印象的でした。
加藤: 子役、マジシャン、ドラッグクイーンを出そうということは最初から決めていました。マジシャンは子どもにとって魔法使いのような存在。ホームレスもドラッグクイーンもマイノリティーの存在で、差別されている人たちが集まるコミュニティとしてローズの店を出したんです。
── : 冒頭でレイジが受賞する演劇賞が「ウィッカー演劇大賞」。ドルイド教の人身御供を意味する「ウィッカーマン」とかけてあったり、意味深な道具立てがさりげなく入っているのも、これまでの加藤さんの作品に共通する特徴ですね。
加藤: 『閃光スクランブル』のときにはジャックオランタンを出しましたけど、宗教的なことを調べていたときにウィッカーマンのことを知って、いつか使いたいと思っていたんです。『ウィッカーマン』という一九七〇年代のホラー映画があるんですけど、強烈にヘンで、なんともいえない気持ちになる映画なんですよ(笑)。それもあって書いてみたかったんですけど、ちゃんと物語に混ざるように、その言葉が持つ空気感が物語の伏線になるようにとは考えていましたね。
── : 一九九〇年代に活躍したアメリカのロックバンド、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンも重要なアイテムになっています。
加藤: レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンのデビューアルバムのジャケット写真が焼身自殺している僧侶なんですよ。『Burn.』のイメージはそこから。ほかにも「燃える」ことにまつわることをいろいろと調べたことがヒントになっています。
三作目で挑戦した「家族」
── : 加藤さんはアイドルグループ・NEWSのメンバーであり、俳優でもあるわけですが、パフォーマンスをする、演じるという仕事と、小説を書くことにはどんな違いがありますか。
加藤: ジャニーズの仕事のときは、たくさんの人が笑顔になれるように、期待に応えられるようにと思っています。でも、舞台に上がる前の準備段階ではいろいろなことを考えるので、それは小説に生きていると思いますね。書くことについても、自分のことを書きたいというよりも、人が読んで面白いと思ってもらえるものを書きたい。どちらも同じような気持ちでやってはいるんですが、出発点がまったく違いますね。
── : スポットライトが当たる仕事ではお客さんに見えるのは光の部分だけ。一方、小説では影の部分まで書かれていますよね。それがステージの下で考えていることとつながっているというのは興味深いです。ただ、加藤さん自身が表に出る存在なので、どうしても小説の内容と加藤さんとを結びつけて読まれてしまいませんか?
加藤: そうですね。それは永遠の課題ですね(笑)。でも、それはそれで楽しんでもらえればと思っています。
── : 執筆方法ですが、前二作はストーリーを組み立てながら書き進めていって、一通り完成してからも何度か書き直す、というやり方でしたよね。
加藤: そうだったんですけど、今回、初めて書く前にプロット(物語のあらすじ)を立ててみたんです。やりたいことが多すぎて、短いプロットにまとまらない。難しかったですね。『Burn.』というタイトルが象徴するシーンを核にストーリーを組み立てるということはブレなかったんですけど。
── : 「お前も魂、燃やせよ」という印象的なセリフが出てきますが、『Burn.』というタイトルはすんなり出てきたんですか。
加藤: 『Burn.』はプロットを書くときにつけた仮タイトルだったんです。でも横文字のタイトルは難しいかもと悩んで、違うタイトルも考えたんですが、最後の最後で元のタイトルに戻しました。作中に出てくる舞台のタイトルと同じですけど、舞台のタイトルとしてすごくいいと思うんですよね。気に入ってます。
── : 今回の作品はレイジと母、レイジとこれから生まれてくる子どもという親子の関係が描かれています。振り返ってみると、前二作では家族のことがあまり書かれていませんでしたね。
加藤: 『ピンクとグレー』では友情、『閃光スクランブル』では男女の関係を書いたので、今回は家族に挑戦してみようと思ったんです。いままで家族を書いてこなかった理由は、僕の家族がすごく普通だからなんですよ。いまのところ平和なので、自分のテーマとして上がってこなかった。自分が一回も経験していないことを小説に書くのはなあ……と思っていたんです。でも、三作目では経験していないことを書くことに挑戦してみたいな、と思ってやってみることにしたんです。
── : 本当の親子だけでなく、レイジは徳さん、ローズと疑似家族的な関係を作っていきますよね。
加藤: レイジに父親がいないということもありますけど、男の子って、大人になる過程でいろいろな人の背中を追いかけていきますよね。こういう大人になりたい、と憧れる相手は父という存在に似ている。同じような意味で、少数派同士が集まって作った疑似家族が家族でないとは言えないんじゃないか、と思ったんです。
── : レイジがローズと再会したとき、ローズは死を宣告され、残りわずかな命の火を燃やそうとしています。生と死もテーマの一つになっていますね。
加藤: そうですね。僕はいつも対比的に書くところがあって、今回でいえば父と子、生と死。そう考えると、物語がすっと自分のなかに入ってくる。書いているときにはつねに意識していました。
── : 三作お書きになって、小説家として の方法論が完成されつつあるんですね。次回作はどうなりそうですか。
加藤: 渋谷サーガは三部作で、と前から言っていたので、今回が集大成。次は短編集とか、いままでにないかたちの本を作りたいですね。いままで作ってきた自分を壊したい。再構築するための破壊ができるといいなと思っています。