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特集

『Burn.-バーン-』刊行記念トークイベント 加藤シゲアキ×杉江松恋

加藤シゲアキさんの『Burn.-バーン-』が2017年7月25日に角川文庫より文庫化されました。
文庫『Burn.-バーン-』の巻末には、単行本刊行時に行われた加藤さんと文芸評論家・杉江松恋さんの対談を掲載しています(対談は2014年3月23日、アイビーホール青学会館にて開催された刊行記念イベントで行われました)。
カドブンでは、この対談の前半部分を掲載いたします。

 渋谷が舞台、実体験の割合は

杉江: 最初に書かれた『ピンクとグレー』は、ダブルと言われる小説の定型、分身に近い関係をもつ二人の話。次の『閃光スクランブル』はボーイ・ミーツ・ガールの小説です。今回の『Burn.-バーン-』に関して言うと、人間としての核がない、うつろなひとが、そこに自分自身で入れるべきものを見つけていく小説。うつろなひとが大事なものを見つける小説だと思って、そういった意味でいい青春小説だなと楽しく読ませていただきました。これらは〝渋谷サーガ〟シリーズと言われていて、渋谷と芸能界をテーマにした三作なんですが、この渋谷の街というのは加藤さんにとってどんな意味を持つ街なんでしょう。

加藤: 僕自身が青山学院に中学校から通っていて、大学四年間のうち二年は違うところでしたが、十年間渋谷に通っていました。それにジャニーズのタレントとしても土日NHKでお仕事させていただくことも多く、一週間ほぼ毎日通っているような生活を送っていたんです。大人になると渋谷に来る機会は減ったのですが、しばらくしてまた来たりすると、ほとんど景色が変わっている。僕が使っていた東横線は改札が塞がれていたり、ヒカリエができていたりとか。自分が馴染んでいた景色がすごい勢いで変わっていくというのは、便利という意味ではいいんですが、ちょっとさみしさもあったりして、ざわざわした気持ちになる。そういうこともあって毎回、僕自身が小説の題材として選んでしまうんだなぁと思いますね。

杉江: 今回は宮下公園が舞台です。何か思い出はありますか。

加藤: 僕は宮下公園でカツアゲにあったことがあって。中学一、二年の頃なんですが、それはそれは怖くて(笑)。違う学校のかただったんですが、本当に怖くて忌々しい記憶で、大嫌いな場所だったんです。それがいまではすごいキレイになって、景色が変わった。ちょっと前には「宮下NIKEパーク」に名称が変わるということで、いろんなところでデモが起きたりして。あるひとにとっては大事な場所、愛している場所であって、あたり前なんですけど、人によって思ってることが違うんですよね。宮下公園という場所を使ってそんなことを表現してみたいなと。

杉江: そういうことが書けるモチーフだったんですね。

加藤: あと、作中に登場するホームレスの徳さんにフィーチャーしたかったので、舞台としてピッタリだと思いました。

杉江: 学生の登場人物も多いですよね。青山学院での学生時代がベースになってるということもあるんでしょうか。

加藤: そうですね、やっぱりあると思います。それが一番色濃く出てくるのが『ピンクとグレー』で、実体験を膨らまして、それをずらして書いていった部分があるんですけど、想像で書くよりも実体験で書くほうがリアリティが増すとは思っていて、そういう意味ではついついやってしまうことが多いかもしれませんね。

杉江: フィクションを書く時は、どんな人でも自分の中にあるものをデフォルメしたり、あるときは拡大したり裏返したりして使います。加藤さんはご自分で実体験をどれくらい使っていると思いますか。

加藤: 割りと使ってると思いますね。感じたことはほとんどそうですが、それをまんま使うのは好きじゃなくて。ぜんぜん違う人を頭の中で連れてきたりとかすることは多いですね。ただ『Burn.-バーン-』の中にある金魚すくいをするエピソード、あれは本当にあった話です。これを書くきっかけ……今回家族をテーマにしたんですが、今まで家族というものを書いてこなかったのは、僕自身が特に家庭に難があったわけではなく、割りと平凡で。兄弟もいないので考えるきっかけがあまりなかったんですけど、この先そこを避けて通れないかな、と挑戦した部分がありました。想像ばかりでは薄っぺらくなると思い少し怖かったんですけど、友人同士が結婚して、妊娠して、出産したんです。すごく仲良くさせていただいているご夫婦だったので、横でずっと喧嘩したり何だりの成り行きも見ていたんです。その夫婦と実際にお祭りに行って金魚すくいをして。そういう実体験からエピソードに盛り込んでいくことはありますね。

杉江: 小説を書くときに、そういった実体験のストックみたいなものを引き出してくるのって、どんな感じがしましたか。

加藤: やっぱり必要なときだけ書くべきだと思っていて。物語のじゃまになるものを書く必要はないので、どちらかというと勝手にキャラクターたちが動いていってしまうということが多いです。「ああ、祭り行っちゃった!」みたいな感じでしたね(笑)。

杉江: 僕ね、加藤さんの小説って、一番の長所は読みやすいところだと思うんです。デビュー作の『ピンクとグレー』には才気走った要素があって、書評にも書きましたがいろいろと面白い表現がありました。そういうところは本当に加藤さんオリジナルのセンスが出てくるところだと思うんですけど、文章が読者のためを考えて、ユーザーフレンドリーな感じ、読みやすさ第一に考えているところがある。それがプロの作家としてとてもいいと思います。

加藤: 嬉しいです。

杉江: するする読めるでしょ? そこがすごい新人らしくない(笑)。

加藤: サービス精神が多いねって、いつも編集の人にも言われます。今回すごく時間がかかって、書き上げるのに十か月くらいかかってしまって。いつも三か月位でだいたい書けるんですけど、あいだにNEWSの仕事が入ったり、ツアーもあったので、集中できなくて全然書けなかったんですよね。それもそれで困っちゃったなと……。

杉江: もう一ついいのが、小説の中に噓がないこと。加藤さんらしくないものが入っていない。つまり全部が加藤さんの分身ではないけれど、加藤さんが感じたり体験したものが下敷きになっていたり、感覚であるとかそういうところで着飾ったところがないというのがすごくいいと思うんですよね。だから書けない時は書けない、でいいじゃないって思うし、本業のNEWSの活動が忙しいときは書けないというのがすごく自然なことだから、それはいいことなんじゃないかと。

 「自分に厳しく」プロとしての意識

加藤: 読みやすいって言われるのは、すごく嬉しいんですけど。それこそ今回十か月死に物狂いで、パソコンの縁に「自分に厳しく」って書いた付箋を貼って、そこだけ見たら本当にあぶないんじゃないかって思われそうですけど、そういうのを書いて貼ってたんですよ。それを「二時間で読みましたー!」って笑顔で言われると寂しい気持ちもちょっとだけある(笑)。本を読むって能動的なことなので体力も使うと僕は思っていますし、楽しんでいただけたら嬉しいんですけどね。

杉江: 今回で三作目になりますからプロとして書いてるという意識があると思うんです。好きなことを書けばよかった『ピンクとグレー』のときと、今とでは意識はどういうふうに変わりましたか。

加藤: それまで僕はそんなに本をたくさん読んできた人生ではなかったんです。書くのが好きで、いろんなタイミングがあって書けたのが『ピンクとグレー』だと思うんですけど、書いた後に本を読むのが好きになって、もっといろいろ読むようになったんですよ。書いてる分だけ読む時間が少なくなってしまったのが寂しいんですけど、本を読むのが好きになって、作家に対して以前よりもさらにリスペクトが生まれたんです。文学賞を取って本を書いているわけでなく、僕のような新人がこの世界に飛び入りするということは、それなりにちゃんとマナーとかが必要かなと思うし、何より読者の方に楽しんでもらうこと、そして作家さんからも「あいつはちゃんとやってるな」と思われる姿勢が大事かな、と変化していった部分はありますね。

杉江: たとえば自分で本を読んだ時に、どういうような感覚が味わえたら読者として満足すると思いますか。

加藤: 僕は映画もそうなんですが、もう一回思い出してしまうことでしょうか。読んでよかったなぁ、であまり思い出さない作品もある。でも逆にすごく読みづらい小説を読破した時に、結果すごく好きになってしまうということが多々あって。読んでいるときは「なんだこれ読みにくいな」と思うんですが、終わった後に、はぁ? ってなるような小説が好きで。僕は今のところエンタメを意識して書いてきたので、いつかはそういうものも少しやりたいです。きれいなものの中にある毒とかえぐみ、アクのようなものを大事にしていきたいと思っていますね。

(このつづきは、文庫『Burn.-バーン-』にてお楽しみ下さい)


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