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特集

百合小説を通じて現代的な青春の通過儀礼を提示したかった――森晶麿『キキ・ホリック』インタビュー

取材・文:編集部

デビュー以来毎年新しい作品を刊行している作家、森晶麿さん。2019年も3月に『毒よりもなお』、6月に『ホームレス・ホームズの優雅な0円推理』、そして7月に『キキ・ホリック』(7月31日発売)とKADOKAWAから3作品刊行。ミステリをベースに様々な作品を書き上げる森さんに、その原動力と創作秘話をうかがいました。

── : 2019年も7月31日発売の作品ですでに3作品目! さすが森さんという感じですが、2月に刊行された犯人の複雑な心理を斬新なタッチで描いた青春サイコサスペンス『毒よりもなお』は、驚きと衝撃のラストでした。実在の事件に着想を得たということですが、このラストは当初から決めていたのですか?

森: 題材を決める段階ではまだそこまでの発想はありませんでしたが、取材を進めつつプロットを練っている段階で、実際の事件の中にあるフィクションという形でしか伝えられない「痛み」のようなものを中心に据えたいと思うようになりました。「痛み」を普遍的なものとして「物語る」とはどういうことなのか、と突き詰めた結果ああいう形になったのかな、と。僕の中でもかなりの異色の作品になりました。

── : 物語と音楽が絶妙にリンクしていますよね。音楽から作品をイメージされることはありますか?

森: 作品の骨格ができてから、ふさわしい音楽を探すことのほうが多いです。執筆中はテーマ曲を勝手に決めて書きます。その時どの音楽を聴きながら(あるいはイメージしながら)書くかは作品の雰囲気に作用しますし、物語の動機ともつながってきます。とくに『毒よりもなお』は今まで以上にこの時代の人々に「わたしたちの物語」と感じてもらうために、曲選びが重要な役割を果たしました。新作の『ホームレス・ホームズの優雅な0円推理』や『キキ・ホリック』にもテーマ曲はじつはあります。

── : その音楽も気になります! その今月発売される『キキ・ホリック』もラストに驚きの仕掛けがありますね。森さん史上スーパーヘビィな青春小説と言わしめた『キキ・ホリック』は、百合小説でもありますが、百合小説を書こうと思ったきっかけを教えてください。また、森さんにとって「百合」ならではの魅力とはなんでしょう。

森: 百合小説を、というのはじつは編集部からの依頼だったのですが、ちょうど同時期に僕はAyaBambi(現在は活動休止中)という女性ユニットのダンスにハマっていて、この二人のような人物を主人公に据えた話を書けないかな、みたいなことはぼんやり考えていたんですね。  そこへ担当さんから百合小説はどうですかという話があったので、自分の考えているのが百合かどうか自信はなかったんですが、やってみよう、ということになりました。結果、AyaBambiにはかすりもしない内容になりましたが。  今、時代は「恋愛」をもっと手垢のつかない神聖なものへ還元したいという傾向があるような気がします。百合小説はその需要にマッチしていて、恋愛の中にある「崇高な感情」が強調されています。そういう意味で、百合小説を通じて「崇高な感情の維持とその挫折」を描くことは、現代的な青春の通過儀礼を提示するということでもあると思います。

── : その『キキ・ホリック』では温室植物の存在感がとても強いですね。植物を鍵とされたのはなぜでしょうか。

森: むかし、よくフラワーパークに遠足で行くたびに温室植物のコーナーが怖くて仕方なかったんですね。植物は動かないし怖い存在ではないと頭ではわかっていても恐れてしまう。静的であるのに動き出しそうな恐れ。「崇高な恋愛」とは真逆の恐れですね。「崇高な恋愛」は心はとても動的なのに、1ミリも動けない恐れがある。その意味で両者は逆ベクトルで組み合わせとしては面白いと思いました。

── : もう一作品、昨月6月に富士見L文庫から刊行された『ホームレス・ホームズの優雅な0円推理』は、打って変わって森さん史上スーパーライトな一冊ということですが、「シャーロック・ホームズ」をテーマにするにあたり、お気持ちはいかがでしたでしょうか。

森: 僕はデビュー以来、本来の事件はろくに考察せずに蘊蓄を語って無理やり謎を解体してしまう黒猫という美学教授を登場させてきました。ロジック重視のミステリ界からすればかなり異端ですね。男女バディが恋愛に進展するタブーにも抵抗がない。でもシャーロック・ホームズという大先輩の名を冠するからには、あえてこの二つは禁じ手にしてもいいかなと思ったんです。だから蘊蓄もなし、男女も恋愛進展はさせない。そこでどれだけの勝負ができるか、というハードルを設けてみました。その「ミソギ」のお陰で、スーパーライトな作品に仕上がりました。

── : 富士見L文庫はキャラクター文芸レーベルですね。森さんの中で「キャラクター文芸」というとどんなイメージがありますか? また、他の作品を書くときと違いなどはありますでしょうか。

森: 僕は2011年のデビューですが、実際に黒猫シリーズの原形を書いたのが2004年ですから、キャラクター文芸という言葉はまだありませんでした。ただ、当時、幻想小説めいた作品ばかり書いているなかで、さる編集の方からシリーズになりそうなものを書けと言われて書いたのが黒猫シリーズの原形だったので、意識の上でキャラを立たせる必要性は感じていたと思います。読後に登場人物たちの個性が煌いていればキャラ文芸で、読後に物語の顛末が印象に残っていれば一般文芸なのかな、と。キャラ文芸なら物語性が弱くていいとは思いませんし、一般文芸なら登場人物に魅力がなくていいとも思いません。両者は拮抗してこそ意味があると思っています。

── : 今回の3作品もそれぞれ違った魅力と面白さがあるので、読者さんにはそれぞれ読後の違いも楽しんでいただきたいですね。各作品で印象に残っていることはございますか?

森: 『毒よりもなお』は最後の数十ページを二校ゲラにも拘らず真っ赤に染め抜いたことですね。壮絶な大改稿で、オペを完遂した外科医のスペシャリストみたいな気分でした。 『ホームレス・ホームズの優雅な0円推理』は途中までライトになりすぎてどうしたもんかな……と悩んでいました。「俺の探偵小説って蘊蓄ないとこんな薄っぺらなのか!」と(笑)そこからあのラストを思いついて全面改稿して、それでようやく佇まいが決まりましたね。 『キキ・ホリック』は書いていくうちに自分の純文学魂がどんどん膨張していって、そういう意味ではかなり深いところまで書けたかなと思ったんですが、いざ入稿って時に長女に読ませたら「これ百合小説じゃない」って言われて、ハッとしましたね。物語や文体に厚みをもたせる作業をしてたんですが、「そうだ、依頼されたのは百合小説じゃん」って我に返ったんですよね。そこから登場人物の魅力を掘り下げる作業にシフトしました。かなりの滑り込み作業でしたが間に合ってよかったです。

── : 6月、7月の連続刊行を記念したキャンペーンがあります。森さんといえば読者さんには特典クイズがお馴染みですが、掛け替えカバープレゼントというのは珍しいですね。

森: 担当さんと相談しつつアイデアを出し合いながら、決めていった感じです。楽しんでいただけたらいいなと思っています。

── : それでは最後に、読者さんへのメッセージをお願いします。

森: 僕は作品数が多いので、時々どれを読んだらいいですかという相談まじりのメッセージをもらうことがあります。どうせなら作者のお薦めを読みたいということでしたら、新作から順に3作お読みいただくのが一番です。特典クイズへのご応募もお待ちしています。

森 晶麿(もり あきまろ)
1979年静岡県生まれ、香川県高松市在住。2011年『黒猫の遊歩あるいは美学講義』(早川書房)で第1回アガサ・クリスティー賞を受賞し、デビュー。代表作に「黒猫シリーズ」(早川書房)、『ホテル・モーリスの危険なおもてなし』(講談社)、「偽恋愛小説家シリーズ」(朝日新聞出版)、「花酔いロジックシリーズ」、『僕が恋したカフカな彼女』『文豪Aの時代錯誤な推理』(KADOKAWA)などがある。


ご購入はこちら▶森晶麿『キキ・ホリック』| KADOKAWA

『ホームレス・ホームズの優雅な0円推理』『キキ・ホリック』連続刊行記念!
2冊読んでクイズに答え、著者サイン入り掛け替えカバーを当てよう!

Q. それぞれの写真の中に、作中には出てこないモチーフが紛れ込んでいます。
5択の中から2つ選んで解答してください。

正解者の中から抽選で30名様に、著者直筆サイン入りオリジナル掛け替えカバーをプレゼントいたします。
①パイプ
②虫眼鏡
③アイマスク
④枝切り鋏
⑤お面


▼応募方法

富士見L文庫のTwitterアカウント(@fujimi_L_bunko)をフォローしてください。
(※すでにフォロー済みの方はそのままでOK)


富士見L文庫Twitterにハッシュタグ「#掛け替えカバークイズ」と解答番号を記入してツイートしてください。
例)#掛け替えカバークイズ①②


▼応募締切
2019年8月31日(土)23:59まで


▼当選発表 
当選者へのみ、Twitterのダイレクトメッセージ(以下、DM)でお知らせします(2019年9月9日頃を予定)。
※期日までに賞品送付先を登録いただく必要がありますので、かならず2019年9月13日までにDMをご確認ください。
※当選者以外へはDM通知は致しません。また、当落のお問い合わせには個別にお答えできません。


▼注意事項
◎応募には、Twitterへの登録(無料)が必要です。
◎おひとりで複数回のご応募が可能ですが、当選はおひとりにつき1口までとなります。
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 ・懸賞応募用アカウントやボット(bot)アカウントから応募した場合
◎投稿に際し発生する通信料・通話料などは、お客様のご負担となります。
◎賞品の発送は2019年10月中旬を予定しています。また、発送先は日本国内に限ります。
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○おすすめ
>>【新刊試し読み 森晶麿『毒よりもなお』】アガサ・クリスティー賞作家が描く、青春サイコサスペンス!


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