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特集

歴史小説が苦手な人も含め、万人が面白いと思うものを――松本清張賞受賞作『天地に燦たり』

島津、朝鮮、琉球。三つの場所と文化を書き分けながら、儒教をテーマに据えた歴史小説で松本清張賞を受賞した川越宗一さん。
選考委員の絶賛を受けてデビューした期待の新鋭にお話をうかがいました。

── : 小説を書き始めたきっかけはなんでしょうか。

川越: もともとは生活に余裕ができたのでなにかしよう、くらいの軽い気持ちで書き始めました。そうやって書き上がった作品を第二十四回の松本清張賞に初めて応募したのですが、一次選考で落選した。そのときが、一番「書こう」と思った瞬間だったかもしれません。作品のテーマに愛着があったので悔しくて、これを誰かに読んでもらうまでは自分は頑張らなあかん、と思ったんです。

── : なぜ応募先に松本清張賞を選んだのでしょうか。

川越: 私は歴史小説を書きますが、歴史小説が苦手な人も含め、万人が読んで面白いと思うものを書きたいと思っていました。そこで、ノンジャンルの賞をと考えて、清張賞を選びました。

── : 受賞作『天地にさんたり』の着想はどこから得たのでしょうか。

川越: 家族旅行で沖縄に行って、守礼門しゅれいもんを見たことです。守礼門の「礼」の字を見て、これはたしか儒教の「礼」だったな、と思い出した。そこから、琉球は島津氏の侵攻を受けたなとか、島津はその前に朝鮮と戦ってたなとか、朝鮮は儒学を重んじる国だったなとか、いろいろな要素が思い浮かびました。

── : 島津・朝鮮・琉球それぞれの場所で生まれ育った三人の物語です。

川越: ラストシーンを描きたくて、三つの異なる文化や風土が交錯するストーリーを、逆算して作っていきました。主人公たちには、それぞれ別のルーツを持たせたかったんです。

── : 主人公の一人、島津側の大野久高おおのひさたかは、戦に身を投じざるを得ない立場にいながら、「いつまで人を殺めるのか」という葛藤を抱えています。

川越: 認識や立場のズレみたいなものが、ドラマになりますよね。久高には、生きていくうえで一番つらい、理想と現実のズレを背負ってもらいました。その整合性を合わせていくことこそ、人生だったりすると思っています。

── : 朝鮮パートの主人公・明鍾めいしょう白丁はくていという、賤民せんみん階級が出自です。

川越: 当初は高い身分にするつもりだったのですが、どうしても話が動かなくて。もっとしんどいところからスタートさせようと変更したんです。身分を白丁にしたら、ものすごく元気に動き出しました。

── : 釜山プサン(日本)に攻められる場面の、明鍾の心境が印象的でした。

川越: 一番インスピレーションを受けたのは、阪神・淡路大震災で被災された方のブログ記事です。まだ被害状況が全く分からない時、多くの建物が倒壊している様子を見た瞬間は、非日常的なワクワク感を覚えた、と書いていた。もちろんその方もそれから大変な思いをされたのでしょうが、人にはそういう感性もある。悲しいことをきっかけに身分を変えるような人もいるだろうと思い、あの場面を書きました。

── : もう一人の主人公は琉球の官人・真市まいちです。

川越: シリアスで息苦しい展開が多くなるなかにも、ほっと一息つくような場面を作りたかった。それで、ひょうひょうとした、まぜっかえすようなキャラクターの真市が生まれました。日本・沖縄・中国の三つの文化がグラデーションのようになっている当時の琉球の文化も、調べてみると興味深くて刺激になりました。

── : 儒学の要素が作中にたくさん盛り込まれていますね。

川越: もともとの知識はなくて、この作品のために勉強しました。テーマに合う言葉、合わせたい言葉を組み合わせていった感じです。

── : 誰を通して読むかで、儒学は解釈も変わります。

川越: 三人はそれぞれ違う立場で生きる人物です。悩みや、考え方、環境などが異なると、同じ学問でも解釈が変わる。書き分けるのは難しかったですが、立場の違いに沿った解釈になるように心がけたつもりです。

── : 作品のテーマには、現代に通じる部分もあると感じました。

川越: 直接的に現実の政治的な問題に物申すような部分は意識して避けました。ただ、現代に生きている私が今に向けて書くので、現代の問題点や課題をテーマにしたいとは思っていました。ラストシーンも、現代につながるテーマになるように意識しています。

── : 今後のご予定を教えてください。

川越: しばらくは歴史小説を書いていきたいと思っていますが、一番関心が向いているのは「今」です。「今」というものを、「今」につながっている過去からの視点で見られたらと思っています。


川越 宗一

1978年大阪府生まれ、京都府在住。龍谷大学文学部史学科中退。2018年『天地に燦たり』で第25回松本清張賞を受賞し、デビュー。

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