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特集

広告業界出身の著者が描くリアル企業小説! 『帝王の誤算』刊行記念インタビュー

9月末に刊行された『帝王の誤算 小説 世界最大の広告代理店を創った男』は、元大手広告代理店に勤めていた著者が描いた、リアリティあふれる企業小説として、大きな話題を呼んでいます。作家デビュー作となった本作の創作秘話を伺いました。

── : 本書を書こうと思ったきっかけを教えてください。

鷹匠: 「広告界はこのままでいいのか」。ひとことで言うと、その思いからですね。 会社に在籍中から企業小説・経済小説を書いていたのですが、その頃舞台としてきたのは防衛産業や自動車など、自分の「外」の世界でした。自分のいた広告業界を書くことは無意識に避けてきました。  ところが、書いたものがなかなか世に出せない。2012年に「城山三郎経済小説大賞」の最終候補に『ファイター・ビズ』という自衛隊の次期主力戦闘機選びを描いた一作が残ったのが最高でした。正直、悶々としているところへ、ある日編集者の方に「いちばん詳しい、自分がいた業界のことをなぜ書かないのか」と問われました。目から鱗が落ちたような気がしましたね。 それは「自分もその一部だったドロドロの世界から逃げるんじゃない」という叱咤のようにも聞こえ、「そういう中に読者が求めているストーリーがきっとある」という励ましにも聞こえました。 折も折、日本最大の広告代理店の新入女子社員が自ら命を絶つという痛ましい事件が明るみに出ました。世間はその社の過重労働を激しく批判、ブラックの象徴として存在そのものが悪であるかのように騒ぎ立てました。  メディアに溢れる事件の報道を目にしながら、私は「何かが違う」と思っていました。確かに精神的にも限界が来るような過重労働が許されるわけはない。けれどもそれを、現在の経営者の責任に帰すのは、あるいはその社に特有のものとするのは、本質を見誤っているのではないか。 単純に残業を減らせばいいというようなことではない。変えるなら、ビジネスのあり方という根本的なところから見直さなければならない。けれどもそれは口で言うほど、簡単ではない。 そんな思いを小説の形で表現できないか。自分の業界人生の中で見聞きしてきたことや出逢った人物像を再編成して描けないか、と思ったのが、本書を書くきっかけでした。

── : ご自身も広告代理店に勤務していたわけですが、作中に出てくるエピソードはどのように取材したのでしょうか。

鷹匠: 取材というより、ほとんどは業界で毎日働いているうちに眼や耳に入ってきたことです。業界内では「公然の秘密」だったものもありますし、たまたま私が36年間の代理店人生の中でいくつかの職種を体験したために知れたこともあります。それを、業界のことを書いた既存の書やネット情報で補強・修正し、また多くの知人・先輩らに確認して回りました。  先ほど言ったようなスタンスで小説に書こうとしている、という意図を話したら、ほとんどの人は非常に協力的に情報提供してくれましたね。「このままでは広告界はよくない。何とかしなくては」という思いは共通だったのではないでしょうか。

── : 執筆する際、苦労した点はありますか?

鷹匠: 「フィクションほどリアリティが大切だ」という編集者さんの言葉を頭に刻み込んで執筆を進めました。まさにそれをどう小説の中で実現するかが難しかったですね。  具体的にはやはり、どこまで書いてよいか、という対象人物との距離感です。人を傷つけようと思って書いているわけではありませんし、かといって書くべきことを書かないことでかえって不正確な「嘘」になってしまう場合もあり得ます。  結果的に削った章、書き直した要素もたくさんあります。完成形になったのは書いた文章の半分ほどかもしれません。それでも、読んでいただいた方の「生々しい」「現実の問題を浮き彫りに」と言った感想を聞くと、苦労も報われた気がしますね。

── : 本書を通じて、どんなことを読者に感じていただきたいですか。

鷹匠: 広告業界がいかに人間臭く、善悪の二元論などでは片づけられない業界か、ということを感じ取っていただければ本望ですね。それが魅力でたまらない、という思いで私自身は長く仕事をしてきました。  業界内の方に読んでいただくことも多いと思います。「働き方改革」なんてどこの世界の話か、と仕事に忙殺されている読者には、「あるある」「やはりそう思っている人が同じ世界にいるのか」と共感してもらえるかもしれません。その上で「どうにもシンドイ毎日だけど、1ミリずつでも良くするためにがんばろうよ」とエールを送れれば、嬉しいと思います。

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『帝王の誤算 小説 世界最大の広告代理店を創った男』鷹匠 裕 KADOKAWA
https://www.kadokawa.co.jp/product/321707000546/

日本最大の広告代理店「連広」の常務に就任した城田毅は、その存在感を示すべく、さまざまな事業の指揮をとる。各業界のトップ企業の広告扱い独占、広告第二位「弘朋社」への圧力など、手段を選ばず強行した。一方、過労死した連広社員の妻だった真美は、「思いやり雇用」制度によって連広に入社し、城田の秘書となった。真美は「この会社に夫は殺されたのだ」と憎悪の心を持って、夫の死の真相解明に乗り出す。しかし城田の間近で働くうち、やがて彼の魅力にも惹かれていく。城田は「帝王」として君臨し、やがて社長に就任するが、後継者として育てた腹心の裏切りに直面する……。

鷹匠裕(たかじょう・ゆたか)1956年、兵庫県生まれ。東京大学文学部を卒業後、1980年、大手広告代理店入社。コピーライター、CMディレクター、デジタルプロデューサーなどを歴任し、2016年に退社。2012年、第4回城山三郎経済小説大賞最終候補、2016年、藤本義一文学賞・特別賞受賞など。東京大学大学院情報学環教育部の非常勤講師も務める。


鷹匠 裕

1956年、兵庫県生まれ。東京大学文学部を卒業後、1980年、大手広告代理店入社。コピーライター、CMディレクター、デジタルプロデューサーなどを歴任し、2016年に退社。

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