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特集

年末年始に世界のリアルを鷲掴み! まとめて読みたい、教養新書5選!!

 本は時の世を映す鏡と言われますが、古今の事象を扱う新書はその際たるモノと言えます。
 角川新書、気が付けば今年は「戦」を扱った作品が例年以上に多く刊行された年でした。
 今年はコロナの猖獗しょうけつに始まり、国外では香港での民主化運動の弾圧があり、新冷戦とも言われる米中対立の深刻化が取りざたされ、BLM運動からアメリカ大統領選では大国の深刻な分断状況が可視化されました。
 国内では、数々の疑惑に説明のないまま終わりを迎えた安倍長期政権に、後継の菅政権は学問の自由を侵犯し、大きな問題となっています。
 きな臭い世の中になっている、と多くの人が感じた結果でしょうか。
 企画は数年前から仕込んでいるのですが、「戦」に関する書籍が充実し、かつ話題となった年となったのです。
 その中でも多くの方に読まれてきた作品、2021年の世界と日本の行く末を考えるのにたいへん資する、現代の戦争、過去の戦争を扱った教養新書5冊を厳選しました! 各編集担当者が思い入れたっぷりに紹介します。
 フェイクニュースに振り回されない視座・視点を得ることのできる傑作ばかりです。
 年末年始、ぜひ世界最前線の知の領域を味わい、むさぼってください!!

『超限戦』

著者 喬 良、王 湘穂 監修 坂井 臣之助 翻訳 劉 琦


 2020年1月に刊行、7刷2万部を超える実績となっている本書『超限戦』。実は2001年に共同通信社から刊行された作品の復刊なのです。著者は現在、中国人民解放軍国防大学教授のきょうりょう氏と、同じく北京航空・宇宙航空大学で教授職にあり、戦略問題研究センター長を務めるおう湘穂しょうすい氏。二人が現役軍人だった1999年に中国で出版、本書はまず「9.11同時多発テロを予言していた本だ」として世界中に大きなインパクトを与えました。特に米国ではその後、軍の幹部養成学校で課題図書として設定されるほどになったといいます。
 書名の超限戦とは「あらゆるものが手段となり、あらゆるところに情報が伝わり、あらゆるところが戦場になりうる。すべての兵器と技術が組み合わされ、戦争と非戦争、軍事と非軍事という全く別の世界の間に横たわっていたすべての境界が打ち破られる」というものです。かつてのようにミサイルと戦車というイメージの戦争とは違う、新たな21世紀の戦争像を1999年時点で提示していたのです。時代は本書をなぞるように進んできました。貿易戦や金融戦、経済援助戦、宇宙空間を含んだサイバー戦、麻薬戦……本書で提示されている在り方でまだ現実に見られないのはエルニーニョを人工的に作って攻撃する「環境戦」くらいでしょうか(詳細は本書でどうぞ)。
 超限戦は著者による造語でしたが、今では「ハイブリッド戦」として広く浸透、日本の防衛省が編集する『令和2年版 防衛白書』にも詳細な解説まで掲載されるほどになりました。これからの世界情勢は、この超限戦(ハイブリッド戦)を知らずして語ることはできません。そう断言できる1冊です。

オフィシャルページ:https://www.kadokawa.co.jp/product/321802000143/
関連記事:
【書評】20年前の戦略書が日本と世界の「今」を解き明かしてくれる
復刊後ベストセラーに! 21世紀の戦争『超限戦』を知る4冊

『破壊戦 新冷戦時代の秘密工作』

著者 古川 英治


 突然ですが、推理小説やスパイ小説は好きですか。そういった方にもぜひお勧めしたいのがこちらです。小説のようにわくわくしながら、気づけば世界の最前線を知ることができるのが本書です。
『超限戦』が書かれたのが1999年。「あらゆるところが戦場になりうる」の記述通りに社会は進んできたようです。少し振り返っても、2020年8月にはロシアのアレクセイ・ナワルヌイの毒殺未遂事件がありました。身近なところでいえば、東京オリンピックの関連企業にサイバー攻撃が仕掛けられた、というニュースもありました。
 新聞記者である著者は、次々と世界を揺るがす事件の背後を探るため、国境を越えて駆け回ります。偽サイトのトロール(荒らし)工場を訪ね工作員に取材したり、元KGBやヨーロッパ情報機関の高官など、さまざまな人を直撃します。
 本書の魅力は、何といってもそういった人々とのやり取りです。
 取材のはずが議論になり相手が席を立ってしまったり、帰り道に「サイバー攻撃にあったらどうしよう」と心配になったり。
 ときには取材相手から、
「いいか覚えておけ。ここは無法な国だ。なんでもありだ」
 と警告されたりもします。
 本書を読むと、強権を発動する国家の行き着く先がどうなるのかに慄然とします。自発的に大本営発表を伝える記者、真実を覆い隠す目的の偽ニュースの生産工場、都合のいい法律の立法、“お友だち”への資金提供……行き着く先は、冒頭の毒殺未遂のような、都合の悪い人の排除です。
 遠い国の世界の話でしょうか。

オフィシャルページ:https://www.kadokawa.co.jp/product/322004000010/
関連記事:【試し読み】小説の先を行く現在の秘密工作。その最前線を活写した衝撃作

『砂戦争 知られざる資源争奪戦』

著者 石 弘之


「文明は、砂が進化させてきた」といってもピンと来ないかもしれません。実は、ビルや道路、パソコンの半導体などの原料は砂です。コンクリートの7割は砂なので、私たちはまさに砂上の楼閣に住んでいます。
 本書は今、世界で枯渇寸前となっている砂がテーマです。
「砂なんて、砂漠に大量にあるのでは?」
 いえいえ、砂漠の砂は細かすぎて使えず、有用なのは、河川が運ぶ砂なのだそうです。
 今、地球規模で都市化が進んでいます。中国や東南アジア、ドバイ、アフリカなどは特にすさまじく、ビルが乱立、砂の争奪戦の真っただ中です。シンガポールはこの50年で国土が25%も増えました。
 にもかかわらず国際的な条約はなく、違法採掘が横行。マフィアが暗躍し、殺人事件まで起きているというのには驚かされます。
 著者は『感染症の世界史』の石弘之さん。この本は2014年刊行ながら、2020年の新型コロナウイルスの流行を予言したような記述もあり話題となりました。歴史を丹念にひも解くと、近未来も予想できるようです。その石さんが着目したのが砂です。
 竹内薫さんには書評で、「今年のサイエンス書のトップ3は間違いなし!」と言っていただきました(涙)。一方で、「私が危惧するのは、こんなに面白く、頭にガツンと来る本でありながら、あまり読者が書店で手に取ってくれないのではないか、という点である」「『砂』というキーワードで人々が本を買うとは考えにくいからである」と心配いただいております。
 砂資源の現状とともに、人間が持つ果てしない欲望にも考えさせられる一冊です。ぜひお読みください!

オフィシャルページ:https://www.kadokawa.co.jp/product/321912000364/
関連記事:【評者:竹内薫】文明社会の闇に鋭く切り込んだ告発の書。今年のサイエンス書のトップ3は間違いなし!

『戦国の忍び』

著者 平山 優


「戦国時代は、この本を読んでからでないと語れない」。
 大げさに聞こえるかもしれませんが、本当にそう思える本が出来上がりました。
 著者は、大河ドラマ「真田丸」で時代考証を担当されていた平山優氏。2017年に刊行された角川選書『武田氏滅亡』では、750ページ超の厚さにもかかわらず累計1万3000部に達するなど、人気の歴史学者です。
 本書も発売以来3ヶ月で5刷、全国紙・地方紙合わせて7紙に書評が載り、注目を集め続けています。
 読むと驚くべきことが、次から次へと出てきます。忍者――より正確に言えば「戦国の忍び」――は、実際に合戦の裏で活躍していました。小説や漫画や映画やドラマ中の世界だと思われていたものは、本当だったのです。しかも当時の史料から読み解けたのです。これだけでも従来の戦国時代のイメージを変えるのに十分ですが、本書はさらにもう一歩踏み込みます。それは「夜」という時間帯でした。これまで夜に注目した研究もあったのですが、忍びの活動と夜の時間の研究が重なったことで、戦国時代の夜の実態が明らかになり始めています。夜の戦場には大変な緊張感がありました。本書を読んでいただければ、その雰囲気に触れることができると思います。
「別に『忍者』には興味ないしな……」という方にこそ、手にとって読んでいただきたい!歴史好きの担当編集者イチ押しの1冊です。

オフィシャルページ:https://www.kadokawa.co.jp/product/321911000009/
関連記事:勝敗を決する戦闘は夜に行われていた! 戦国合戦の驚きの実態とは? 平山優さんインタビュー

『帝国軍人 公文書、私文書、オーラルヒストリーからみる』

著者 戸高 一成 、 大木 毅


 公文書の改ざん、破棄に、資料の捏造、隠蔽、そして偽証と責任転嫁。
 2020年の令和の話と思われるでしょうが、昭和のアジア太平洋戦争下で、そして戦後も繰り返し行われていたことなのです。
 大和ミュージアム館長の戸高一成さんと『独ソ戦』著者の大木毅さん。戦史の専門家であり、多くの将校・下士官兵から直に証言を聞いてきた二人が、「いま」だからこそ語れる秘話を明かした、本書自体がのちに貴重な資料となること必至の対談です。発売早々に重版となり、版を重ねています。
 戦後も、陸軍はヤマタノオロチで海軍は双頭の蛇の組織構造だったという指摘から、瀬島龍三が情報を握りつぶした話が漏れた経緯に、松井石根の『陣中日記』改竄を突き止めた舞台裏をはじめ、日本軍の文書改竄問題から、証言者なき時代にどう史資料と向き合うかに至るまで、縦横無尽に話題が展開されます。
 お二人の話を読んでつくづく思うのは、史資料の取り扱いの難しさと、専門家による史料批判の重要性です。だからこそ、不都合な事実に目を背け、専門家の言を軽く見てきた結果が、公文書を粗雑に扱う国家となってしまった大きな要因ではないかと思わざるを得ません。事実を事実として直視し、それを踏まえて未来を展望する術を教授してくれる一冊です。
 今年は映画『ミッドウェイ』も公開されました。映画を見た方は、本書を読むと一層背景がわかります。映画未見の方は、本書を読んでから見ると一層面白く見ることができます。まさに、読んでから見るか、見てから読むか。ご堪能ください!

オフィシャルページ:https://www.kadokawa.co.jp/product/321906000880/
関連記事:【書評】一気読みの快感。あの戦争を知りたいと願う人たちにとって必読の書!


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