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特集

勝敗を決する戦闘は夜に行われていた! 戦国合戦の驚きの実態とは? 平山優さんインタビュー

「戦国時代の戦いは昼だけでなく、夜も休みなく続けられていました。城兵にとっては、夜の方がよほど怖かった。」「夜の戦場での主役は、間違いなく忍びだったのです」。
執筆を経て大きく変わったという戦国時代のイメージを、著者の平山優さんに伺いました。


書影

平山優『戦国の忍び』(角川新書) 発行:株式会社KADOKAWA


なぜ、いま「忍者」なのか


――「忍者」というテーマに挑戦した理由は何だったのでしょうか?


平山:大河ドラマ「真田丸」です。時代考証を担当していて、講演の依頼が当時かなりありました。真田十勇士や幸村のイメージが強いからでしょう。そのほとんどの会場で「忍者はいたのですか?」という質問を受けたのです。

 当時は「草」や「かまり」「素破すつぱ」「乱破らつぱ」と呼ばれた人々が、今の特殊部隊のような仕事をしていた。だが、現代の私たちが思い描く忍者とは違うみたいだ、とここまでは答えられました。でもそれ以上のことは、まともにお答えできなかったのです。

 たとえば「武田の『三ツ者』とは、どのような人ですか? なぜ『三ツ者』と呼ばれるのですか?」と聞かれても、まったく答えられなかったのです。歴史学者として、質問されてもわからないというのは、本当に悔しくて、それから少しずつ史料を集め始めました。


――「真田丸」にも、藤井隆さんが演じる「佐助」という忍びがいましたね。


平山:はい、「佐助」は架空の人物ですが、そうしたこともあってか、忍者に関する質問は多かったですね。忍者についての雑誌や書籍、テレビの話も来ましたが、データを持ち合わせていなかったので、基本的に断っていました。今思えば儲け時を逸したかもしれません(笑)。

 そもそも、先行研究がほとんどない。中世史で取り組まれていたのは、荒垣恒明さんという若手研究者くらいで、忍びに関する専論は、2つだけです。それでも、荒垣さんの研究は本当に貴重な成果でした。ですが、戦国の忍びは、依然として謎のベールに包まれたままの状態だったのです。


――史料収集は大変でしたか?


平山:仕事柄、史料集にはよく目を通します。最初は忍びの史料探しではなかったので、目についたらメモする程度でした。それでも読んでいくと、結構出てくるのです。武田、北条、今川、上杉……北関東からも拾えました。忍びのメモが溜まっていくうち、本格的に調べてみたら、面白いのではないかと思ったのです。

 本腰を入れるきっかけとなったのが、2019年の「国際忍者学会」大会での講演でした。前年の2018年12月に、三重大学の山田雄司先生から「次の大会の基調講演をお願いできますか?」と声をかけていただき、そこからもう1度、史料を調べ直すことにしたのです。


平山さん

第3回「国際忍者学会」大会で講演を行なった


 最初は結論がどうなるのか、見通すことができませんでした。ただ、藤木先生(藤木久志・立教大学名誉教授、故人)の研究から、出身母体は雑兵と同じと考えていましたが、それも確信を持つことはできずにいました。また、忍びの呼称の多さと任務の多様性をどう理解すべきか、見当がつかなかったのです。

 北条・武田・上杉・今川と、中部・関東の史料はしっかり押さえようと、「忍び」研究の視点で史料を調べ直しました。すると忍びに関する記述が、メモした以上に出てきたのです。
実は今回、島津についてはまったく触れていません。桐野きりの作人さくじんさん(作家、歴史学者)が、以前三重大学主催の市民講座で、島津の忍びについて講演されていました。そこで桐野さんにアドバイスを乞うたところ、島津だけでも結構な数の史料があるとわかったのです。私は、島津は桐野さんにお任せすることにしました。今後、その成果が発表されるのを、楽しみに待ちたいと思います。

 さて、どうやら各地に多数の忍びの史料があるようなので、関東だけでなく、他の地域も押さえなければならないと思い始めました。国際忍者学会での発表には間に合いませんでしたが、伊達をはじめとする東北の史料を一通り調べたところ、相当数出てきて、「関東・東北だけでも、1冊の本になる」という確信を持てたのです。出版が決まった後は、まだ手を付けていなかった西日本の史料をひたすら調べました。

 その結果、忍びは、伊賀や甲賀のような土豪(武士身分)の者もいましたが、そのほとんどが、悪党出身者だったということがわかってきました。彼らは、盗賊などで生活していましたので、夜間の活動は自家薬籠中のものであり、その腕を買われて、忍びとして戦国大名に雇用されていたのです。そもそも、忍びとは「窃盗しのび」と呼ばれていたものが、「忍」へと変化したものです。その呼称に、その出自の秘密が隠されていたといえるでしょう。

解き明かされる「夜の戦国史」


――驚くべき発見はありましたでしょうか?


平山:忍びが夜間の活動を得意とする悪党出身が最も多いというお話をしましたが、それと関連するのですけれども、一番驚いたというか、考えを改めたのは戦国の「夜」という時間帯です。これまで「昼=華々しい戦」と「夜=夜襲」という単純な見方がされてきました。藤木先生の研究以来、武士だけでなく、民衆も戦に参加したと知られるようになりましたが、ある意味、国民軍のようなイメージで語られがちでした。けれど、実態は違いました。おそらく兵の半数以上は、非正規雇用の雑兵です。彼らを雇用することによって、戦いは昼だけでなく、夜も休みなく続けられました。むしろ、城や砦を守っている者にとっては、夜の方がよほど怖かったということがわかったのです。

 昼は見通しが利くので奇襲は難しい。けれど夜は違います。不意を襲われる、あるいは、潜り込んでいた者が動きだす、そういったことが起こりました。「水汲み」のフリをして城内に潜入するという事例が、史料にいくつも出てきます。

 何気ないところから騒ぎが起こって陣が崩壊する、または城が落ちるということが、実際にあったわけです。戦国時代には、夜も含めて非常に活発に戦いが行われていたのだとわかりました。


――手応えは十分だったということでしょうか。


平山:集めた史料だけで、200以上あります。今回本当は本書の巻末に史料集を付けたかったのですが、本文のページ数が予定よりも格段に増えてしまったので、できませんでした。


戦国の忍び

角川新書としては分厚い352ページ


 最上、岩城いわき、伊達、相馬、蘆名あしな、佐竹などの東北・北関東と房総、さらに北条、武田、上杉、今川、徳川、織田、三好、尼子、毛利……と、かなり広範囲に調べました。九州の史料を、もう少し確認したかったのですが、時間切れでした。

 史料を分類して気づいたのは、忍びの呼び方には、地域性があるということです。「草」という呼び方は、東北と東日本で見られます。西日本には「草」の事例がありません。一方で「ふせ」や「伏兵」という言葉は全国で出てきます。「かまり」は関東・甲信・東海限定で、他の地域では見られません。塙保己一を中心に編纂された『武家名目抄』でも、忍びの呼称に地域性があると指摘されていますが、あれは実によく史料を見ていますね。

歴史学が変わってきている


――そもそも、忍者の先行研究が少ないのは、どうしてなのでしょうか?


平山:10年以上前に『山本勘助』(講談社現代新書、2006年)という本を書きましたが、その当時、山本勘助は、歴史学ではキワモノ中のキワモノです。当時まだ実在が確定していなかったこともあり、執筆にはかなりの勇気が必要でした。

 歴史学には、ある種の不文律やタブーがあって、あまりにも有名な事件などは敬遠されがちです。研究者として、そのようなものを追いかけていると、周りから変な目で見られるというか……。それでも、私の若い頃に比べれば、そうした研究のハードルも下がってきていると感じます。以前より史料の状況が良くなっていることもあり、どのような結論になるか調べてみないとわからないじゃないか、という雰囲気があると感じます。


――忍びの者たちは、戦国時代以降、どのように変化していきますか?


平山:西日本、特に九州では朝鮮出兵(1592~93年、97~98年)があるので慶長期まで戦争がありますが、東日本は関ヶ原の戦い(1600年)、場所によっては小田原出兵(1590年)を最後に戦争が終息します。その後はもう大坂の陣(1614、15年)です。だから大名たちの中には、代替わりして戦争経験がないという当主もいました。


大坂冬の陣図屏風(模本)(部分)「ColBase」
(https://colbase.nich.go.jp/collection_items/tnm/A-9274?locale=ja)をもとに作成
なお『戦国の忍び』では、帯と本文の2箇所で、凸版印刷株式会社提供の「大坂冬の陣図屏風」デジタル想定復元を使用している


 戦が無いので、ほとんどの忍びは食えなくなり、再び身を持ち崩します。村から動員された者は、村に戻れば良い。けれども戦場を稼ぎ場としていた忍びは、雇用関係を切られると、新たな生活の糧を見つけなければなりません。

 その中で一番厄介なのが、悪党稼業になってしまうケースです。近世初期は、戦が無いにもかかわらず、治安が悪かったと言われています。それは盗賊が横行しているからです。

 幕府が悪党狩りを始めると、彼らは次第に姿を消します。戦もなくなり、忍びの任務や呼称も、人々の記憶から無くなっていきました。彼らが受け取っていたはずの、様々な文書もんじよも消えていきました。忍びの実態は、歴史の地層に埋もれてしまったのです。

 けれども、彼らの活動を記録した史料が残っていました。それらをできる限り拾ったのが本書です。戦国の忍びについてここまで網羅した本は、今のところ無いでしょう。お読みいただき、本当に忍者がいたのか、そして戦国合戦における夜とは何だったのか、ぜひ確かめていただきたいですね。


――忍者と戦国時代の新たな発見、今から読むのが本当に楽しみです。本日はありがとうございました。

平山優『戦国の忍び』詳細はこちら(KADOKAWAオフィシャルページ)
https://www.kadokawa.co.jp/product/321911000009/

【お知らせ】
『戦国の忍び』刊行を記念して、平山さんの講演会を開催します!
詳細は下記のページにてご確認ください。(オンライン受講もできます)
https://kadobun.jp/news/event/7ifb9whlw7c4.html


平山 優

1964年東京都生まれ。立教大学大学院文学研究科博士前期課程史学専攻(日本史)修了。2016年放送の大河ドラマ「真田丸」の時代考証を担当。著書に、『真田信繁 幸村と呼ばれた男の真実』『武田氏滅亡』『戦国大名と国衆』(角川選書)などがある。

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