SFを、藤井太洋を読むことは、未来への予行演習になる


駒崎:主人公の仮部かりべ諫牟いさむは、仕事に出てこなくなった外国人労働者を説得して、職場に連れ戻すのが仕事。彼はベトナム人の移民社会とうまくコミットできているというか、いい距離感で付き合えていますよね。仮部の言動を読んでいると、これからの共生社会にも希望が持てる気がします。

藤井:仮部はある理由から他人の戸籍を買い、別人として生きています。ルーツやアイデンティティに揺らぎがあり、自分の居場所を定めることができない。そんな主人公です。でも東京はどこかに隙間があり、居場所が見つけられる。それだけ巨大な町ですから。

駒崎:東京だからこそ成立する小説。まさに〝東京の子〟の物語なんですね。

藤井:そうです。今回触れられなかった地方の抱える問題については、現在「文芸カドカワ」に連載中の『第二開国』という作品で書いています。奄美大島に外国のクルーズ船が寄港することになって、という物語です。

駒崎:僕はSFを読むことが、近い将来起こりうるさまざまな問題への予行演習になると考えています。最近話題の遺伝子治療にしても人工知能にしても、「これはあの作品で読んだな」と思えるだけで、客観的な捉え方ができる気がします。

藤井:物事は名づけられないと対処のしようがない。SFはまだ名前のない問題に、うまく形を与えてくれるんです。

駒崎:さっき藤井さんは『東京の子』はSFじゃない、とおっしゃいましたが、東京デュアルをめぐる思考実験の面白さはSFそのものです。そのプラス面とマイナス面の両方を描きながら、あくまで希望を見せてくれる。僕らも想像力を駆使して、未来を描いていかないといけないな、とあらためて感じました。

藤井:私たちは未来に対して、それほど悲観的になる必要もないと思うんです。三〇年前と比べても、さまざまな面で世界はよくなっている。青臭い理想を語ることが恥ずかしくない雰囲気を、物語から生み出していけたらと思っています。


>>藤井太洋『東京の子』
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