駒崎:そうなんですか。コースがはっきり分かれているんですね。

藤井:これが格差の固定化を生んでいるという意見もあります。しかし日本だって表向き格差がないことになっていても、誰もが管理職を目指せるわけではない。大企業だと入社のタイミングで管理職候補が決まっていたりするわけで、その方が残酷ですよ。シンガポールの人たちにそういう話をすると身震いして怖がりますよ。
駒崎:なるほど、そこを可視化したのが東京デュアルなんですね。四万人の学生が労働力になってくれるわけで、企業にとってもメリットがありますよね。読んでいて、うちもサポーター企業になりたいと思いましたよ(笑)。

藤井:日本の企業には「従業員を解雇できない」という枷があります。戦争中に生まれた終身雇用という制度が、戦後になってもしぶとく生き残って、日本社会を縛り続けてきた。それを解き放ってみたらどうなるだろう、という実験の場が東京デュアルなんです。学生たちは適性に合わせてサポーター企業を替えられるし、企業も能力のない学生は解雇できる。フレキシブルなんですね。
駒崎:正社員を雇うとは、一生の責任を負うこと。僕も経営者として採用時には、かなり慎重になります。

藤井:本来はひとつの仕事が終わったら次の職場に移る、くらいの流動性があってもいいんです。日本は景気のいい時代、いくらでも改革するチャンスはあったはずなのに、ずるずると先延ばしにしてきた。
駒崎:バブル期に痛みを伴う改革を行っていたら、日本人の働き方も変わっていたでしょうね。東京デュアルの広大な敷地内には寮があって、通勤・通学時間はゼロ。学生の奨学金は、サポーター企業が福利厚生で肩代わりもしてくれる。非常によくできていて、実現してもおかしくないと思います。背景にはオリンピックの遺産があるわけですが、現実でも今度のオリンピックが日本の大きな転換点だった、と言われる年になる気がします。

藤井:個人的には、今度のオリンピックが「失われた二〇年」で得られなかった外国との交流を取り戻す機会になればいいと思っているんです。この二〇年、日本は半ば鎖国していたようなもの。ITの導入にも後れをとった。いまだに確定申告を紙の書類で行っているんですから。そうそう、今の日本語には「コミットする」の適切な訳語がないんですよ。
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駒崎:確かにそうですね。

藤井:コミットする現場を見ていないからです。日本国外の企業は、権限委譲が当たり前に行われます。スタッフはみな、それぞれの職階で決定権が与えられている。日本では未だにトップのサインと判子がなければ、物事が動かないでしょう。コミットする姿を見ていない。この差は決定的です。


書籍

『東京の子』

藤井 太洋

定価 1728円(本体1600円+税)

発売日:2019年02月08日

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    書籍

    「本の旅人2019年2月号」

    角川書店編集部

    定価 100円(本体93円+税)

    発売日:2019年01月26日

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