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レビュー

あの天才の母も、子育てに格闘した! 子どもに「どうして勉強しなければならないの?」と訊かれたら。『天才IT相オードリー・タンの母に聴く、子どもを伸ばす接し方』書評

書評家・作家・専門家が新刊をご紹介! 本選びにお役立てください。

『天才IT相オードリー・タンの母に聴く、子どもを伸ばす接し方』書評

評者:中江有里

 私の母は一度も「勉強をしなさい」と言ったことがなかった。友だちと話すうちに他の親は違う、と知り「どうして勉強をしろと言わないの?」と訊いてみた。母はこう答えた。
「自分が嫌なことを子どもに強制できない」
「これはまずいぞ。自分で勉強をしなければ」と焦った。
 誰に言われたわけでもないのに、勉強は強いられてやるものだと思っていた。学校へ行けば教師が指導してくれるものだし、何もかも受け身だった。
 本書の著者は台湾のデジタル担当相オードリー・タンの母。二人の子どもの学校教育に疑問を持ち、自ら実験小学校「種子学苑」を設立した。この学校は「自主学習」がモットー、自分から学びたいことを選ぶ。既存の学校とはずいぶん違うスタイルを貫いている。
 一番驚いたのは校内法廷があること。
 学校という閉鎖空間で、大人(教師)が子ども(生徒)を勝手に罰することはない。生徒の問題行為は法廷を通じて、指導や行動制限を受ける。
 こうした場があれば、自分の行動に責任を持つようになるだろうが、教師も絶対的な立場でなく、生徒と関わることになる。


天才IT相オードリー・タンの母に聴く、 子どもを伸ばす接し方
著者 李 雅卿訳者 岩瀬 和恵


 本書は親や教師、子どもたちからの質問に著者が答える構成だが、その具体性に唸った。質問は一筋縄でいかない。
 子どもが学校へ行かない、勉強をしない、友だちとうまくやれない……たとえばこんな親の悩みがある。
 これらは親の思うままにならない、つまり「いい子」でないということなんだろう。著者は「(いい子とは)それ自体に子どもを支配しようとする意味が含まれる」と言う。
「毒親」なんて言葉もあるが、親にその自覚はない。子どもの未来を案じるあまりに、子どもの考える力、成長する力を奪っていることに気付いていない。
 ハッとするのは、子ども自身からの質問。
どうして勉強しなければならないのか、授業を休んだ理由がうまく言えない、掃除をしなかったらどうなるか……最初の質問は、実際小一の甥っ子からされたことがある。
「将来、あなたがなりたい何かのために」と答えたが、本書をもっと早く読めばよかった。あとの二問は大人を試すような問いで、答えに詰まった。著者は決して押し付けることなく、子どもにもわかるように論理を説く。
 そして教師も悩んでいる。自信や実力のなさを嘆くのは、教師としての責任を感じている証だ。
 オードリー・タンの母ということで「天才」の育て方に興味を持って本を手にする方が多いかもしれないが、ここに書かれているのは子を持つ親の、教える側の普遍的な悩みだ。
「西洋民主主義国家の自由や独立にあこがれる一方で、上下関係を重んじる伝統的な考え方も守りたい」とある。台湾と日本は違う国だが、似たような価値観を持っている。
子どもには自由な職業選択をしてほしい、でも安定した従来の職種についてほしい。相反する願いは、どちらも子どもを思ってのこと。しかし子どもの人生は親のものではない。
 また、この本の通りにすれば天才が育つのではなく、天才とは、生きにくいこの世を渡るサポートがうまくいったところに生まれるのでは? そんな風に感じる。
 奇しくもコロナ禍でオンライン授業が当たり前になってきたが、これも「自主学習」の一種だ。誰が見ていなくても、自分が自分を見ている。自分が真面目に取り組んだかを知っている。「自主学習」は自分に責任を持つ勉強法だ。これは子どもだけに通用するわけじゃない。
 子を持つ親だけでなく、部下を持つ上司にも当てはまる。そして親自身を伸ばす「自分への接し方」のヒントにもなった。






書誌情報



『天才IT相オードリー・タンの母に聴く、子どもを伸ばす接し方』
著者 李雅卿 訳者 岩瀬和恵
定価:1870円(1700円+税)

「わからない」ばかりいう子、自信のない先生。そんな悩みと疑問に答えます
子どもが自分から学ぶために、大人ができることはなんだろう。著者は、天才IT相オードリー・タンの母にして、台湾の実験小学校の創設者。学校に行きたくないと言い出した子どものために、独学をサポート、転校と、苦労を重ねた経験から、台湾で小学校を作った著者。主宰した自主学習プログラムは、ユネスコから「アジア最高のオルタナティブ教育」と称された。
https://www.kadokawa.co.jp/product/322011000680/ 


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