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レビュー

【書評】日本は、「世界最悪の汚染」をいかに克服したのか。後世に希望を託すための貴重な書『環境再興史』

世界最悪と評された日本の自然環境ですが、今では空気が澄んで、はるか遠くから富士山が見え、絶滅危惧だったトキは自然界で繁殖し、群馬県まで飛来するほどになりました。
この劇的な変化を環境の専門家として見続けてきた石弘之さんの著書『環境再興史』を、水環境を専門にする企業人が読みました。

評者:釜田 陽介(かまたようすけ)
1972年生まれ。石川県金沢市出身。株式会社クボタ 水環境総合研究所に所属。家庭ごみ、もみ殻などのバイオマス、福島で発生した除染ごみなど、様々な廃棄物の高温熱処理、リサイクルに関する研究開発業務に従事している。

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 近年、地球環境に関するニュースとして、IPCC報告における地球の「温暖化は疑う余地がない」という調査結果、その影響と考えられる自然災害の頻発、気候変動対策を訴えるグレタ・トゥーンベリさんの「気候のための学校ストライキ」など、将来が懸念される報道が多い。

 しかし、その一方で、今の我が国の自然環境が戦後の公害による「世界最悪の汚染」を克服して劇的に回復し、世界に誇るべきレベルにあることやそのための先輩たちの努力を報じるものは少なく、若い世代にとっては公害問題が教科書で習った歴史上の出来事となってしまっているように思える。

 本書は、50年以上も環境問題に携わり、世界中の環境問題を見続けてきた環境ジャーナリストの石弘之氏が、今まで収集した膨大な取材情報やデータを元に、この「環境変化の時代」を生きた一人として、我が国における野鳥復活、水・大気環境再興の歴史を後世に継ぎ、希望を託すために執筆した貴重な一冊である。



 野鳥の復活については、タンチョウヅル、アホウドリ、ガン、トキが取りあげられている。いずれも、猟銃の導入、羽や毛の輸出品化に伴う乱獲と高度経済成長に伴う生息地(湿地、沼地)の埋立てなどにより絶滅寸前となったが、人生をかけて保護活動に取り組む研究者や地方自治体職員が現れ、周囲の反対にもめげずに保護、人工繁殖を続けた結果、生息数が回復し、タンチョウヅルは「文字通り千羽鶴になった」という。回復の鍵となったのは、個人の志、想いであった。

 水・大気環境の再興については、汚染が酷かった東京湾、多摩川、川崎市をモデルケースとして論じられている。戦後の高度経済成長の代償として、干潟埋立による生物減少、工業・家庭排水の増加、工場排ガスの増加により水質汚染・大気汚染が急速に進み、一時期は「死の海」、「七色の煙」と言われる状態となったが、志をもった自治体職員の努力、市民運動、企業の意識変化等により改善し、東京湾は潮干狩り場が15ヶ所、多摩川はアユが年間1000万匹遡上、川崎市は「最も住みたい町」にランクインするまでに回復した。

 さらに最近は、環境回復したコンビナート地帯では工場夜景を望むクルーズを楽しむ「工場萌え」が増え、瀬戸内海や有明海では海が浄化されすぎて栄養不足となり、養殖海苔の色落ちが広がったため、窒素やリンについて排水基準に下限を設けるという前代未聞の検討がなされているという。

 本書を読んで、我々の周りの現在のきれいな自然環境は、決して当たり前のものではないことを痛感した。水道の蛇口から出てきた水を、そのまま安心して飲める国は世界の中でもほとんどない。そのような現在の日本に誇りを感じるとともに、先輩たちの今までの努力に感謝したい。

 このきれいな環境を後世に引き継ぐためにも、読者の方々にも本書をぜひ読んでいただき、顕在化しつつある地球温暖化について、それぞれが自分の立場で何ができるかを、真剣に考えてみてほしい。鍵となるのは、個人の「志、想い」なのだから。



石弘之『環境再興史 よみがえる日本の自然』詳細はこちら(KADOKAWAオフィシャルページ)
https://www.kadokawa.co.jp/product/321802000139/


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