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レビュー

【7日連続!『AX』カドブンレビュー①】池内万作「ラストで号泣しました」

「カドブン」を訪れて下さっている皆様、こんにちは。
池内万作です。
カドブン編集部から「伊坂幸太郎さんの最新刊が出ます。渾身の一作です!」と連絡を頂きました。
しかも七人のレビュアーが同じ本のレビューを書くんだそうです。
暑さで頭がおかしくなってしまったのでしょうか?!
そう思ったのは自分だけではないでしょう。
だけど楽しそうなので参加させて頂くことにしました。
なんといっても伊坂さんの最新作がいち早く読めるわけですからね!
ということで、今回ご紹介するのは(すでにご存じでしょうけど)、『グラスホッパー』『マリアビートル』に続く<殺し屋シリーズ>第三弾、伊坂幸太郎著『AX アックス』となります!

主人公は、依頼を受けて人を殺めるのを生業としている、「兜」。
プロの殺し屋か!? と思いきや、普段はまさかの文房具会社の営業マン。
しかも最近は年齢と共にベテランの域に達しているとか。
こういうオフビートさが伊坂作品のたまらないところですね〜。
殺し屋像としてはこれだけでかなり異色ですが、さらに主人公の「兜」は超のつく恐妻家なのです。
格闘戦を得意とし、屈強な男と渡り合い、最後は後ろから首を締め上げ「仕事」を片付けてしまう兜ですが、家での会話は全て奥さんに追随し、決して異を唱えず、不機嫌になったら慌ててフォローし、深夜に帰宅したら妻を起こさぬよう息をひそめ、作る時にも食べる時にも音が出ないという「ある食べもの」をはむはむと食べるという……
なんとも涙ぐましい殺し屋なのです。
そんな兜が、副業(本業?)の殺しの仕事をこなし、家族を守り、殺し家業から足を洗おうとする、そんな五つの物語からなる短編集が本書『AX アックス』となります。

この『AX アックス』という物語のまさに核となるのが兜という人物であり、また兜の生き様なんですが、一体どんな風に生まれ育ったら外で人を殺めながら、家では奥さんの顔色を窺うような人物になるのか、真剣に考えてしまいました。
いや。本書を読み進めていくと、いやでも兜の事を考えずにはいられないのです。

「宇宙の生物が、人間の振る舞いをじっと観察し、その心のあり方を学ぶような、兜はそういった状況にいるようなものだった」(p119-p120)

兜のことを記した一文にこんなものがありました。
自分の身を守るため、荒々しい親の顔色を必死に窺い、裏社会に身を置き悪事を働き、そうやって必死に生き延びてきたけど、人の気持ちというものがキチンと理解出来ない。
どこかが欠損してしまっている、だからこそ必死に人の気持ちを理解したいと願う。
それが兜です。
そんな自分の在り方そのものが創り出す生き辛さを抱えながら、彼は妻のご機嫌を損ねないように恐々とし、高校生の息子のさりげない慰めの言葉に涙をこぼしそうになり、(そしてときおり人を殺しながら)毎日一生懸命生きている。
なんて哀しくて、不器用で、ひたむきなんだろう。
生きるって大変だけど、美しいぜ。
そう思って読んでいたらラストで号泣しました(笑)。

伊坂作品というのはどこか寓話のような優しい異世界感があって、それが現実の生々しさを打ち消している、そんな印象を持っていたんですが(そしてそれは凄く好きな要素なのですが)、今回はその寓話性に加えて、さらにリアルな、人が生きている重みのようなものを感じたような気がします。
もちろん気がつかないうちに種が蒔かれ、一面キレイに花が咲き、見事に刈り取られていくような軽快なストーリー展開や、軽妙なお喋りはいつも通り!
そんな兜は殺し屋稼業から足を洗えるのでしょうか?
気になった方は是非、本を開いて兜に会いに行って下さい!


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