「人生の悲喜の中、僕は振り返りそして、再び前を向くしかない」――2001年製作の『贅沢な骨』から、構想10年以上にして10月より公開される『ナラタージュ』まで、監督・行定勲が映画作りに懸けた想いを綴ったエッセイ13年分をまとめた『きょうも映画作りはつづく』(KADOKAWA 角川書店)。発売を記念して去る9月22日、西武池袋・池袋コミュニティ・カレッジにてファンを招いてのトーク&サイン会が開催された。
ゲストは監督と同郷・熊本県出身で、ドラマ『平成猿蟹合戦図』や映画『うつくしいひと』などで何度もタッグを組んでいる俳優・高良健吾さん。エッセイが連載されている『月刊タウン情報クマモト』に、高校時代スタッフとしてバイトしていたこともあるという。「行定さんは種を蒔いていく人。人と人との出会いをつくり、それが広がっていくことを期待している。そこに深い映画愛を感じるし、蒔かれた種が僕にも届いていたんだってことがこの本から伝わってきて、涙が出た。地元愛とかないというけど、誰よりも愛の深い人」と、冒頭から熱さ全開。
トークは内容の細部にまで及び、「休憩が必要だってよく書いてますけど、行定さんの現場、何度も組んでますが、ないですよね、休憩(笑)」と茶化す高良さんに対し「自分に言い聞かせてるんだよ」と監督。「このままじゃいけないな、ってことをさ。基本的に書いてるの」。高良さんが印象に残っているという行定さんの恐怖心霊体験や、松井秀喜さんとの出会い、東北や熊本の震災に対する想いなど、エピソード満載の本エッセイ。「行定さんの私生活を撮った映画の脚本を読んでいる気分でした」という高良さんの言葉に監督は「日常を撮っていれば映画は面白くなると思っている。なんだって映画にすればおもしろくできる」と“深い映画愛”を語った。
対談の熱気に巻き込まれ、来場したファンからもとぎれなく質問が飛び交い、そのたびに真摯に言葉を選びながら答えていた二人。「仕事をはじめて2年、やりがいが見つけられない。とくべつ楽しくも苦しくもない」という女性には「毎日違う道を歩くようにしたらどうかな。遠回りしたり、おもしろそうな道を通ってみたりすると、毎日歩いていた変わり映えのない道がいちばんいいんだって気づいたりするから。無駄なことをしてみると見つかるものがあると思いますよ」(監督)、「僕もずっとやめたかったし、人前に立つのも好きじゃないのになんでこんな仕事してるんだろうと思ってた。だけどやり続けていたら、昔より映画が好きになったし、やめたいとも思わなくなってきた。みんなきっと同じですよ」(高良)と返した。
最後に高良さんは「これは本当にいい本。映画作りってこんなに苦しくてこんなに体をぼろぼろにしながら人生を賭けなきゃいけないものなんだってわかるし、だけどそれでも生き生きしている監督の姿に勇気づけられる人も多いと思う。僕も勇気をもらいました。地方にまでもっともっと広がってほしい」と推薦。監督は12年の試行錯誤を経た『ナラタージュ』の製作裏話とともに「映画は作られるべきとき作られる」と強く語った。
映画作りを通じて得た、さまざまな名優、監督たちとの出会いと別れ。映画に懸けるすべての人たちの情熱を引き継ぎ、そして監督にしか生み出せない映画を作りあげていく。「私は私である。一人のちっぽけな演出家であっていいのだ。恐れることなく、今、向き合っているこの戯曲を素直にカタチにすればいいのだ」。本書に書かれたなかには、叶った夢も叶わなかった夢もある。幸福もあれば忸怩たる思いを抱くこともある。だが「まずは映画を作るところから始めようと思う」としめくくる監督の姿勢とこれからの作品に、希望と未来を託したくなる一冊である。
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『きょうも映画作りはつづく』
行定勲 KADOKAWA角川書店 定価:本体1600円+税
キネマ旬報で年間ベスト1をはじめ6冠をとった映画『GO』が公開された記念すべき2001年からはじまり、7年の想いが結実して製作された映画『パレード』や、1500万ダウンロードを果たした携帯配信ドラマ『女たちは二度遊ぶ』など、13年かけて作りあげてきた数々の作品の裏側で監督・行定勲は何を想い、何を考えてきたのかをまとめた初のエッセイ集。大竹しのぶ、中井貴一、吉田修一、井上雄彦など多くの才能と出会いを果たした反面、原田芳雄や森田芳光、蜷川幸雄ら敬愛すべき巨匠たちとの別れもあった。なぜ映画を作るのか。映画を通じてなにを伝えたいのか。行定勲の映画愛にあふれた歴史が、ここにある。
映画『ナラタージュ』公式サイト http://www.narratage.com/
映画『月と雷』公式サイト http://tsukitokaminari.com/
取材・文・写真=立花もも