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レビュー

明日の日本を予言するアメリカ事前捜査最前線 『犯罪「事前」捜査』

 ネットの普及と各地の紛争が引き金となって世界は変わりつつあり、新しい秩序の萌芽が散見されるようになった。「事前」捜査もそのひとつだ。
 本書ではこれまで語られることの少なかったアメリカの法執行機関の最新の捜査技術、特に「事前」捜査の実態についてまとめている。事前捜査とは犯罪が発生する前に行う捜査のことであり、犯罪を未然に防ぐことを目的としている。世界の法執行機関の捜査の最前線では、事後対応から事前対処への変化が起きている。主にテロなどの組織犯罪をターゲットにしたもので、先般日本で成立した通称テロ等準備罪法案もこの流れに沿うものだ。すでにアメリカでは事前捜査のための体制が整い、それを支える民間企業も存在しており、ツイッターやフェイスブックなどSNSの監視は当たり前になっている。二〇一二年から二〇一五年にかけてアメリカを揺るがした“Black Lives Matter”と呼ばれる黒人人権運動をきっかけに、全米各地の警察ではジオフィーディア、ゼロフォックス、デジタルステイクアウトといった民間企業のSNS監視分析アプリを導入し、SNSの監視を強化した。アメリカのバージニア州在住の女性は、「I love ISIS!」とツイッターに投稿したことからFBIの監視対象となり、その後逮捕された。
 通信の盗聴も強化された。携帯の通信基地局(セルフォンタワー)になりすまし、周囲の携帯端末の情報を収集し、特定の携帯端末を盗聴、現在地を突き止める装置をFBIは使用している。この装置はハリス社が販売している「スティングレイシリーズ」という製品だ。FBIはこの装置を車に載せ(なんと持ち運び可能!)、捜査対象がいる地域まで赴いて相手の通信内容を盗聴し、位置を特定する。
 事前捜査ならではの過激な手法もとられている。マルウェア(コンピューターウイルスのこと)はネット犯罪の代表的ツールだが、それをFBI自らが開発し使用している(政府機関が利用するマルウェアはガバメントマルウェアと呼ばれる)。捜査対象に感染させて情報を盗み出し、監視するのである。ガンマグループやハッキングチームなど民間企業からも政府向けのマルウェアを購入して、バックアップとして利用していた。
 ネット上の囮捜査も実施済みだ。児童ポルノサイト「プレイペン」の事件で、なんとFBIは一定期間、そのサイトを自ら運用し、利用者の情報を集めていた。
 こうした活動を支えるのは犯罪捜査のための各種データベースである。中でもFBIのFACEと呼ばれる部署はビザやパスポートのデータベースや国防総省の生体認証データベースと少なくとも十六の州の運転免許証データベース、合わせて四億人以上のデータにアクセスできる。そのほとんどはこれまでもこれからも罪を犯すことのない市民だ。
 これらは氷山の一角に過ぎない。二〇一三年、エドワード・スノーデンが、ベライゾンなどのインターネットプロバイダや、グーグル、アップル、マイクロソフト、フェイスブックなどのIT企業からNSA(アメリカ国家安全保障局)が情報提供を受けていたことを始めとする多岐にわたる盗聴活動を暴露して世界に衝撃を与えた。実はIT企業からの情報収集を行っていたのはNSAではなく、FBIのDITU(Data Intercept Technology Unit)で、そこからNSAに情報が渡されていたということはあまり知られていない。DITUは世界最強の盗聴組織と呼ばれることもあるが、公になっている情報は極めて限られており設立時期すらわかっていない。資料によれば、その大規模かつ強力な活動に比して外部に公開されている情報はきわめて少なく、議会証言で名前が出たことも五十年で数回に留まるという。
 アメリカの事前捜査は対岸の火事ではない。すでに日本の法執行機関も事前捜査へのシフトを始めている。この本に書いたことはアメリカの実態であるとともに、これからの日本の姿と言えるかもしれない。


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