冲方:あれ(『マルドゥック・スクランブル』)は出版社から、映画「レオン」に出てくるマチルダを主人公にしたような話が欲しい、というオーダーで書いたものでした。僕も最初は主人公を女の子にするというのは抵抗があったんです。女の子のことはよく分からないし、どう描いたらいいのかも分からない。ただ、自分にとって未知のものを描くというのは決して悪いことではないし、むしろやらなければいけないことでしたので、ちょっとチャレンジしよう、と。「オイレンシュピーゲル」の短編のオーダーは、『マルドゥック・スクランブル』がSF大賞をいただいた後に受けたものでしたので、僕の中では(女の子を主人公にしたのは)チャレンジの延長ということでもありました。少女像というものを考えると、社会的な外圧によって押し付けられたものと、少女の内面から出てくるもの――いや、いや、私たちはこうですよ、という本音――のせめぎ合いが、色々な物語に散見されたんです。だから、それをカテゴライズして包括的にできるような少女像を描けないかな、と。当初は、3人くらい出せば(少女像を)大体は網羅できると思ったんですけど、バリエーションを変えることを繰り返していくうちに――別のバリエーションも生まれてきますので――、どんどん増えていってしまう。とりあえず、オイレンサイド3人とスプライトサイド3人の6人に、プラス2人――ちょっと輪から外れてしまった螢と皇――の8人で、僕の中で、以後人物造形をして行く上での少女キャラクターの原型を作ろう、という意図はありました。

 オイレンの3人――涼月、陽炎、夕霧――も、スプライトの3人――鳳、乙、雛――も、機械化された肉体を持つに至った背景は、十代の少女としては、あまりに重い。

冲方: 彼女たちにあらかじめ沢山の傷をあたえているのは、そこに成長のきっかけがあるからなんです。トラウマや弱い心、自分自身で社会に絶望してしまう心というのは、成長の裏の面であって、その裏をひっくり返すことさえできれば、そこから芽生えていく心がある。そのことは、僕の中での少年、少女たちのテーマでもあります。

極上の成長&冒険小説は、感動の着地点へ

 「シュピーゲル」シリーズの中で成長していくのは、少女たちだけではない。彼女らをサポートする大人たちもまた、成長していく。そこがいい。

冲方:誰から聞いたのかは忘れてしまったのですが、何が大切か、大切じゃないか、ということを分からない状態が一番怖い、と。こんな酷いことがどうして起こってしまったのか、それをちゃんと子どもに教えさえすれば、(子どもは)現実に負けないんだ、と。逆に言えば、大人が怖がっていると、子どもが育たないということなんじゃないかと思うんです。ライトノベルを書いてきましたので、大人数を描くスキルはあったのですが、その大人数全員に成長する物語を付加する、というのは自分でもやりすぎだと思いました(笑)。

 でも、読む側にとってはそこが堪らない。そういう〝やりすぎ〟の積み重ねがあるからこそ、「テスタメント」3の下巻では、あの敵役の陸王と蛭雪にさえ、うっかりすると泣きそうに!なってしまうのだ。さらに、さらに、少女たちがみんな、自分の過去にケリをつけたところで物語が終わるのではなく、彼女たちがその先を、未来を選択していくところが、本当に素晴らしい。

冲方:十代の心って、どんなに大人になっても残るものだと思うんですよね。ライトノベルがここまでジャンルとして生き残った理由も、読者の中に、或いは書き手の中にも、ティーンエイジャー時代が刻まれているからだと思います。だからこそ、(登場人物たちの)彼らはきっといい大人になってくれるだろう、という予感が一番のハッピーエンドなのでは、と思いました。いくつになっても、乗り越えるといいことあるんだよ、というのは、書いていても気分がいいですし、読まれている方にも、自分の中の人生経験や物語があると思うのですが、それを綺麗に昇華していくきっかけになれるとしたら、エンターテイナーとしては一番の幸せだと。

 ライトノベルは、元来はティーンエイジャーへ向けて書かれたものではあるが、この「シュピーゲル」シリーズは是非とも大人の読者にも読んで欲しい。とびきりの少女たちの――涼月の、陽炎の、夕霧の、鳳の、乙の、雛の――、極上の成長小説であり、冒険小説、それが「シュピーゲル」シリーズだからだ。最後に、冲方さんから読者の方へのメッセージを。

書籍

『テスタメントシュピーゲル3 下』

冲方 丁

定価 950円(本体880円+税)

発売日:2017年07月01日

ネット書店で購入する

    書籍

    『オイレンシュピーゲル壱 Black&Red&White』

    冲方 丁

    定価 596円(本体552円+税)

    発売日:2007年01月31日

    ネット書店で購入する

      書籍

      『スプライトシュピーゲルI Butterfly&Dragonfly&Ho』

      冲方 丁

      定価 605円(本体560円+税)

      発売日:2007年01月31日

      ネット書店で購入する