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特集

的場文男「大井の帝王」――還暦で7000勝達成しても、がむしゃらに乗り続けます!

撮影:TCK(東京シティ競馬)  取材・文:斎藤 修(有限会社サイツ) 

60歳の還暦をすぎても、地方競馬のトップジョッキーとして活躍している競馬界のレジェンド・的場文男騎手。初めての単行本『還暦ジョッキー』発売を控えた5月17日、史上二人目となる念願の7000勝を達成した後、直撃インタビューしました。

── : 地方通算7000勝達成、おめでとうございます。初の単行本『還暦ジョッキー』執筆時は7000勝間近という段階で、達成されたのは発売日(5月26日)が迫った5月17日でした。

的場: ありがとうございます。44年近く騎手をやってきて、7000という数字は夢みたいで、競馬関係者のみなさま、ご声援くださったファンのみなさんに感謝の気持ちで一杯です。

── : 達成は川崎競馬場でした。

的場: 僕は大井競馬場で育ててもらったので、本当は大井で達成できればと思っていました。5月12日の大井開催の最終日、6999勝目を挙げた次のレースで、勝ったかなと思ったんですけど、ゴール前で差し返されて、ひとつ残してしまいました。達成したのは、その川崎競馬場でしたが、見に来てくれているファンの方々は地方競馬のファンに変わりはないですから。

── : 重賞レース(川崎マイラーズ)での7000勝達成となりました。

的場: 騎乗したリアライズリンクスは、大井でも同じ1600mの重賞(サンタアニタトロフィー)を勝っていますから、チャンスはあるだろうと思っていました。4コーナーを回ってからも手応え十分でした。これなら抜け出せると思いました。勝った時は本当にうれしくて、ゴールのあと自然にガッツポーズも出ちゃいましたし、ウイニングランもしました。ファンからの声援も嬉しかったですね。 (リアライズリンクスを管理している)小久保智調教師も喜んでいました。小久保調教師からは、大井の東京ダービー(6月7日)で、有力な1頭になるはずだったローズジュレップに乗ってもいいと言われていました。ところが、ローズジュレップは調教中の骨折で残念なことになってしまって、小久保調教師は落ち込んでいたと思うんですが、僕の7000勝達成が、重賞勝ちと重なって、吹っ切れたような感じでした。  表彰式には佐々木竹見さん(日本人騎手として地方競馬7151勝、中央競馬2勝の通算7153勝の最多勝記録を持つ。2001年に引退)が来てくれたのも嬉しかったです。竹見さんは、僕が騎手になったときの憧れの人で、初めのころは騎乗フォームの真似もしました。本当に僕の師匠みたいな方です。その竹見さんに、追いつけ、追い越せでやってきましたから。

── : 7000勝を達成した日は、どのように過ごしましたか。

的場: 普段は、あまり家ではお酒を飲まないのですが、この日は、レースの映像を何度も見返しながら、飲みましたね。7000勝と重賞勝ちのダブルですから。ちょっと飲みすぎちゃって、女房に怒られましたよ(笑)。騎手になって、この歳まで乗ることができて、一度きりの人生ですから、幸せな人生だと思います。

── : 新たな目標は、やはり佐々木竹見さんの記録ですか。

的場: 今までは7000勝が自分にとっての「宿題」でした。「宿題」はやらなきゃいけないものです。ファンのためにも、関係者のためにも、自分のためにもやらなきゃいけない。今度は竹見さんの7151勝という日本記録がありますが、これは「宿題」ではなく「目標」です。常に前に何かがあることで、それに向かって頑張って乗り続けることができます。レースに乗る以上は、ファンの方々はお金を賭けてくれていますから、自分も一生懸命乗って、勝てるように頑張っています。

── : 7000勝達成後の大井競馬場は、的場騎手の勝負服の、赤と白の星の柄に装飾されています。

的場: ありがたいことですね。本当かどうかわかりませんが、7000個の星を使っているらしいです。地面にある星ひとつひとつには、重賞勝ちの記録が書いてあって、7000勝のときの川崎マイラーズは金色の星になっているみたい。(大井競馬場最寄りの)立会川の商店街にも「7000勝おめでとう」という装飾がされていて、それにも感動しました。

── : 7000勝の中で、印象に残っているレースは。

的場: 『還暦ジョッキー』の本の中にも書きましたが、一番は、コンサートボーイで勝った大井の帝王賞(1997年)です。中央との交流レースでは、地方馬はなかなか勝てないなかで、武豊騎手が騎乗して断然人気になっていたバトルラインを負かしました。  先頭に立っていたバトルラインの直後、3番手につけられて、いい流れだと思っていました。最後の直線を向いて、バトルラインをとらえると、後ろから来た石崎隆之騎手のアブクマポーロと追い比べです。クビ差で勝ちました。ただ勝ったというだけでなく、当時は地方競馬のナンバーワンだった石崎さんとの競り合いとなって、地方のワン・ツーだったということが印象的でした。  石崎さん(7月2日現在、地方6256勝、中央74勝、今も現役)は僕の1歳上で、20年近く南関東のトップクラスで鎬を削ってきましたから。  帝王賞では、ボンネビルレコードで勝ったとき(2007年)も嬉しかったですね。このときは中央のブルーコンコルドという馬が断然人気で、まさかその馬を負かせるとは思っていませんでした。  帝王賞でのこの2回は、自分でもほんとうにいい騎乗ができたなと思いました。

── : 的場騎手といえば、常に東京ダービーのことが話題になります。

的場: 36回騎乗して、2着が9回です。この馬なら間違いなく勝てるだろうという馬もいましたが、東京ダービーを前にして怪我をしてしまったり、枠順に恵まれなかったり。なぜか勝てないんですよね。大井の七不思議なんていわれています(笑)。

── : 今年6月7日に行われた東京ダービーは3着でした。

的場: 昨年2歳の時から騎乗して期待していた馬、ブラウンレガートに乗りました。3番人気でした。4番手あたりを追走していって、自分では完璧なレースができたと思います。だから、あれで負けたのではしょうがない。勝った馬が強かった。  佐々木竹見さんの最多勝記録を更新という目標もありますし、来年か、再来年か、いつが最後になるかはわかりませんが、乗せてもらえる馬がいる以上はダービーを勝てるようにがんばります。

── : 騎手には常に危険がついてまわります。的場さんも大きな怪我を何度もされていますね。

的場: レース中や、調教中の落馬などで、骨折は何度も。左肩を複雑骨折して、骨が飛び出したこともあります。肋骨は10回以上。肋骨の骨折はたいしたことありません。かすり傷みたいなもんです(笑)。僕だけでなく、他の騎手でも、痛み止めの薬を飲んで、すぐに乗ります。  骨折であれば、ほとんど命にかかわることはありませんが、馬に蹴られて脾臓と腎臓が破裂したときは、意識が朦朧としてきて、「死ぬときはこうなるのか」と思いました。出血多量で、普通の人なら死んでいただろうとあとで医者が言っていました。体が鍛えられていたので助かったんだと思います。それでも40日くらいの入院で、怪我からちょうど2カ月後にはレースに復帰しました。

── : 『大井の帝王』と呼ばれるようになった的場さんですが、若い頃は苦労もしたようですね。

的場: 騎手としてデビューしてしばらくは、ほとんどレースに乗せてもらえないような時期もありました。僕は福岡の出身で、騎手になるため中学3年の夏休みに東京に出てきたのですが、福岡空港に見送りに来てくれた兄に「一人前の騎手になるまでは九州の土を踏むな」と言われて、覚悟を決めました。レースに乗せてもらえない頃は、騎手をやめて九州に帰ろうかと思ったこともありました。でも、ここでやめたら負け犬になってしまう。何度も兄に言われたことを思い出しました。とにかくがんばるんだ。努力、根性、一生懸命、どんなことがあっても諦めずにやってきました。この本には、そんな自分の人生のすべてが書いてあります。競馬ファンの方はもちろん、競馬には興味がないという方にも読んでいただきたいです。


的場 文男(まとば・ふみお)

1956年9月7日生まれ。大井競馬場東京都騎手会所属の騎手。「大井の帝王」の愛称で親しまれる。5月17日に史上二人目の7000勝を達成する。

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