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特集

総計5,502頁!本屋大賞作家・冲方丁の最長最熱シリーズ、「シュピーゲル」完結記念インタビュー!

撮影:阿部 岳人  取材・文:吉田 伸子 

 本屋大賞&日本SF大賞受賞作家・冲方丁さんの人気ライトノベル「シュピーゲル」シリーズの最終巻『テスタメントシュピーゲル3 下』が7月1日に刊行されました。
 国際都市〈ミリオポリス〉を舞台に機械化された少女たちの闘いを描いた<冲方丁、最後のライトノベル>。角川スニーカー文庫『オイレンシュピーゲル』シリーズ(全4冊)、富士見ファンタジア文庫『スプライトシュピーゲル』シリーズ(全4冊)、そして両シリーズが合流する角川スニーカー文庫『テスタメントシュピーゲル』シリーズ(全5冊)と続いた大河小説がついに完結となります。
 総ページ数はなんと5,502ページ! 冲方さんが10年がかりで書き上げた「シュピーゲル」シリーズの完結を記念して、シリーズの熱烈ファンである文芸評論家・吉田伸子さんによる激熱インタビューをお届けいたします。

 ライトノベル読者勢から、総ツッコミされることを承知で白状するが、私が「シュピーゲル」シリーズを手に取ったきっかけは、『天地明察』だった。2009年12月10日、Twitterでこんな風につぶやいている。

 そして、『オイレンシュピーゲル 壱』を読んだ後のつぶやきが、これ。

 以後の、「シュピーゲル」関連のツイートを拾って行くと、

 蛇足だが、このツイートを読んだ大森望氏から、「SF者の高齢者をなめてはいけません。水鏡子師匠(56歳)は確実に読んでるし、たぶん鏡明も読んでるから、40代のシュピーゲル読者はぜんぜん若造ですよ」というレスをいただく。そして、シュピーゲル関連のツイートはまだ続く。

 その後は、『スプライトシュピーゲル Ⅳ』まで辿り着いたので、「テスタメント」の完結を待ってから読むか、そのままの勢いで「テスタメント」の1巻に突入するかで迷い、2015.8.14のツイートでは、

 このツイートをした時点で、よもや完結巻である『テスタメントシュピーゲル 3』の下巻までに、それから約二年かかるとは!
 だが、遂に、遂に、2017年7月、『オイレンシュピーゲル 壱』から数えること十年! ここに「シュピーゲル」シリーズの完結を迎えたのである。個人的には、シュピーゲル記念日として祝日にして欲しいくらいである。

たくさんの傷を持つことで、成長していく少女たち

 それにしても、どうして「シュピーゲル」シリーズは、かくも読むものを魅了するのか。その秘密はどこにあるのか。シリーズ完結を機に、作者の冲方さんにお話をうかがってみた。まず最初にお聞きしたかったのは、どうして「少女」たちだったのか、ということだ。実は、「オイレンシュピーゲル」を書く以前に、冲方さんは『マルドゥック・スクランブル』でルーン=バロットという〝戦う少女〟を描いている。

冲方: あれ(『マルドゥック・スクランブル』)は出版社から、映画「レオン」に出てくるマチルダを主人公にしたような話が欲しい、というオーダーで書いたものでした。僕も最初は主人公を女の子にするというのは抵抗があったんです。女の子のことはよく分からないし、どう描いたらいいのかも分からない。ただ、自分にとって未知のものを描くというのは決して悪いことではないし、むしろやらなければいけないことでしたので、ちょっとチャレンジしよう、と。「オイレンシュピーゲル」の短編のオーダーは、『マルドゥック・スクランブル』がSF大賞をいただいた後に受けたものでしたので、僕の中では(女の子を主人公にしたのは)チャレンジの延長ということでもありました。少女像というものを考えると、社会的な外圧によって押し付けられたものと、少女の内面から出てくるもの――いや、いや、私たちはこうですよ、という本音――のせめぎ合いが、色々な物語に散見されたんです。だから、それをカテゴライズして包括的にできるような少女像を描けないかな、と。当初は、3人くらい出せば(少女像を)大体は網羅できると思ったんですけど、バリエーションを変えることを繰り返していくうちに――別のバリエーションも生まれてきますので――、どんどん増えていってしまう。とりあえず、オイレンサイド3人とスプライトサイド3人の6人に、プラス2人――ちょっと輪から外れてしまった螢と皇――の8人で、僕の中で、以後人物造形をして行く上での少女キャラクターの原型を作ろう、という意図はありました。

 オイレンの3人――涼月、陽炎、夕霧――も、スプライトの3人――鳳、乙、雛――も、機械化された肉体を持つに至った背景は、十代の少女としては、あまりに重い。

冲方:  彼女たちにあらかじめ沢山の傷をあたえているのは、そこに成長のきっかけがあるからなんです。トラウマや弱い心、自分自身で社会に絶望してしまう心というのは、成長の裏の面であって、その裏をひっくり返すことさえできれば、そこから芽生えていく心がある。そのことは、僕の中での少年、少女たちのテーマでもあります。

極上の成長&冒険小説は、感動の着地点へ

 「シュピーゲル」シリーズの中で成長していくのは、少女たちだけではない。彼女らをサポートする大人たちもまた、成長していく。そこがいい。

冲方: 誰から聞いたのかは忘れてしまったのですが、何が大切か、大切じゃないか、ということを分からない状態が一番怖い、と。こんな酷いことがどうして起こってしまったのか、それをちゃんと子どもに教えさえすれば、(子どもは)現実に負けないんだ、と。逆に言えば、大人が怖がっていると、子どもが育たないということなんじゃないかと思うんです。ライトノベルを書いてきましたので、大人数を描くスキルはあったのですが、その大人数全員に成長する物語を付加する、というのは自分でもやりすぎだと思いました(笑)。

 でも、読む側にとってはそこが堪らない。そういう〝やりすぎ〟の積み重ねがあるからこそ、「テスタメント」3の下巻では、あの敵役の陸王と蛭雪にさえ、うっかりすると泣きそうに!なってしまうのだ。さらに、さらに、少女たちがみんな、自分の過去にケリをつけたところで物語が終わるのではなく、彼女たちがその先を、未来を選択していくところが、本当に素晴らしい。

冲方: 十代の心って、どんなに大人になっても残るものだと思うんですよね。ライトノベルがここまでジャンルとして生き残った理由も、読者の中に、或いは書き手の中にも、ティーンエイジャー時代が刻まれているからだと思います。だからこそ、(登場人物たちの)彼らはきっといい大人になってくれるだろう、という予感が一番のハッピーエンドなのでは、と思いました。いくつになっても、乗り越えるといいことあるんだよ、というのは、書いていても気分がいいですし、読まれている方にも、自分の中の人生経験や物語があると思うのですが、それを綺麗に昇華していくきっかけになれるとしたら、エンターテイナーとしては一番の幸せだと。

 ライトノベルは、元来はティーンエイジャーへ向けて書かれたものではあるが、この「シュピーゲル」シリーズは是非とも大人の読者にも読んで欲しい。とびきりの少女たちの――涼月の、陽炎の、夕霧の、鳳の、乙の、雛の――、極上の成長小説であり、冒険小説、それが「シュピーゲル」シリーズだからだ。最後に、冲方さんから読者の方へのメッセージを。

冲方: (完結を)待っていてくださった方々に、ありがとう、です。待っていてくださったからこそ、書き終えることができました。なので、シリーズ未読の方には、「完結してます!」と自信を持ってお届けできます。『ゲーム・オブ・スローンズ』みたいに、原作よりドラマが進んでしまいました、とかそういうことはありません(笑)。ちゃんと、感動の着地点にまでお連れします。

<<「テスタメントシュピーゲル」特設サイト


冲方 丁

96年『黒い季節』でデビュー。2003年『マルドゥック・スクランブル』で第24回日本SF大賞、10年『天地明察』で第7回本屋大賞、12年『光圀伝』で第3回山田風太郎賞を受賞。

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