対談

やりがいがあれば、残業は許されるのか ――竹内謙礼×荒木源『深夜残業』刊行記念対談
取材・文:角川文庫編集部 主催:本屋B&B
経営コンサルタントと小説家の二足の草鞋を履き、3月には残業を減らしたい会社と残業を減らせない社員との闘いをコミカルに描く書き下ろし小説、『深夜残業』を刊行した竹内謙礼さん。『残業禁止』『早期退職』などのお仕事小説から『ちょんまげぷりん』などのファンタジー小説まで、幅広い分野で活躍する作家の荒木源さん。同じ「残業」という題材に注目したお二人が、下北沢の本屋B&Bさんでオンライン対談を行いました。それぞれ沢山の「職場」を目撃してきたお二人は、現代社会の「残業」と「働き方」をどう捉えるのか。小説よりも奇妙な「職場」のお話をお楽しみください。
竹内謙礼×荒木源『深夜残業』刊行記念対談
まさか、タイトルが被るなんて
竹内:『深夜残業』は当初、『残業禁止』というタイトルで執筆をしていたんです。
荒木:そうだったんですか。似ているとは思っていましたが。
竹内:『深夜残業』は執筆に3年くらいかかっているのですが、編集者から『残業禁止』というタイトルでいきましょうと言われていて。
荒木:それはKADOKAWAさんの情報共有ミスではないですか(笑)。
竹内:やっと書き上がったところで、「竹内さん、最後に言うのも申し訳ないんですけど、実は荒木さんが既に『残業禁止』を出されている」と。そういうことがあるんだと思って、結局『深夜残業』にしたんです。
荒木:「残業禁止」は使いたいですよね。先に取っておいて良かったです。
17、18時間労働が当たり前
竹内:荒木さんは新聞記者でいらっしゃいましたよね。新聞記者さんって仕事がめちゃくちゃ大変なんじゃないですか。
荒木:私がいたころはキツかったですね。
竹内:『残業禁止』に出てくるゼネコンもキツそうですが、新聞記者とどっちがキツいのかなって思いました。
荒木:私は1988年に入社したのですが、入社して最初の半年は会社の支局に住み込みで、プライベートはありませんでした。入社してアパートを借りようと思っていたら、「半年早い」みたいな感じでした。
竹内:丁稚奉公のようですね。
荒木:まさに丁稚奉公です。それで夜回りをした後に帰ってくると、先輩やデスクの飲みに付き合わされるわけです。時には朝まで飲んで、でも7時には警察署にいかないといけなくて。
竹内:寝ている間に事件が起きることもありますよね。
荒木:寝ていてもパトカーや消防車のサイレンが聞こえたら、とにかく追いかけろと言われるんですよね。車で追いかけるんです。そういう教育をされていました。
竹内:事件がない時はどうされていたんですか?
荒木:事件がない時は「町を歩いて心温まるような話を拾ってこい」とか言われるんですよ。
竹内:その辺に落ちている話ではないですね。
荒木:17、18時間労働が当たり前の時代でした。ポケベルが鳴る度に公衆電話を探し回って。
竹内:「なんだよこの仕事」みたいに思いませんでしたか?
荒木:その時にはそれが当たり前だったので。「眠いな」とか「フラフラするな」とかは思っていましたが、特段違和感は覚えませんでした。
竹内:新聞記者になった時に覚悟が決まっていたんですね。
荒木:新聞記者時代、「残業」という概念はなかったです。「仕事」という概念でもなかったです。「おまえは新聞記者という生き方を選んだのだ」と言われたような感じです。ウルトラセブンに取り憑かれて怪獣と闘うことになったみたいに。モロボシ・ダンも実は嫌だったんじゃないですか。竹内さんの出版社時代はどうでしたか?
竹内:まっくろくろすけってくらいブラックでした。オートバイ関係だったのですが、バイクを積んでサーキットに朝5時集合みたいな。それから出版社に帰るんですが、次の日も2時起きくらいで。
荒木:じゃあ私と変わりませんね。
やりがいがあれば、残業は許されるのか
竹内:僕の小説でも荒木さんの小説でも「やりがい」がテーマですよね。やりがいがあれば残業は長くて良いのか、という問題がありますね。
荒木:記者時代は特ダネを取るのが快感でした。朝刊に自分の特ダネが載って、次の日に記者クラブへ行った時の嫉妬の視線なんて堪らなく気持ち良いです。私の性格が悪いのかな。
竹内:いやいや。それを考えると、辛い仕事にはリターンがないとやっていられないですね。
荒木:やりがいもなく、面白くもなく、お金ももらえず、何もなかったら嫌ですよね。
竹内:僕らの時代は残業するのが当たり前みたいなところがありましたが、その時現場にいた人はいまどうなっているんでしょうね。
荒木:私も定年間際くらいの歳ですが、私が知っている限りは会社のなかでは偉くなった人が多いように思います。理不尽なことに対して鈍感になる力ができたのでしょう。一方でそれに付いてこられない犠牲者が出てしまうのも事実です。
竹内:その仕事に夢を描いてきた人も「残業」という理不尽なものによって、はじかれる人が出てしまいます。それをなんとか直そうというのが、いまの流れですね。前時代的な働き方と、どちらが良いのかということは、経営コンサルタントとしてよく相談されます。人間は矢面に立つ状況が多ければ多いほど成長するということを仰る方もいらっしゃって。
荒木:それは私も含め年寄りの言う、「経験値」ですね。それで育ってきた側からすると否めないものがあります。私は理不尽に耐える力が仕事をする力だと思い込んできたのだけど、最近は理不尽なところを仕事の中から減らすような流れがあると思うんです。
竹内:あります。あります。うちのお客さんであった話ですが、新入社員にストレスを与えてはいけないので、上司が先に営業先に行って、話をまとめてくるという会社がありました。それで新入社員が契約を結んで帰ってくると、みんなが拍手で迎えるという。
荒木:すごい良い会社じゃないですか(笑)。『深夜残業』もそういう働き方における新旧の葛藤をお書きになっていますよね。
竹内:『深夜残業』を書くとき、そこをどうやって解決するかという問題で悩みました。
荒木:コンサルタントとしての竹内さんにお伺いしたいのですが、働くモチベーションを高めるうえで「やりがい」というのは今でも大事ですか。
竹内:いまでも大事です。お金よりもやりがいが大事という方は多いみたいですね。僕も荒木さんもバブルを知っているじゃないですか。いまの20、30代はバブルを知らないので常に不安がっているんです。なので、僕らの世代よりももっと、大切なのはお金じゃなくなっている感覚があります。
小説家の労働時間
竹内:お互い「残業」をテーマに小説を書いていますが、小説家の労働時間って何時間くらいなんですかね。
荒木:佐藤正午さんは3時間しか働かないとインタビューで仰っていましたよ。
竹内:えー!?
荒木:小説を書くという行為は半端なく頭を使うので、私も一日10時間書き続けるとかは無理ですね。
竹内:仕事をやりたい人間がうちの会社にはたくさんいる、それを規制するのはおかしい。ということを言って、炎上した社長さんもいましたね。もしかしたら一日18時間くらい仕事をしたい人がいるかもしれない。そんな人は「仕事をするな」と言われると余計辛いですね。
荒木:そうですね。
竹内:ものを書く仕事を本職にしている人が働き方改革をやらされてしまうと、大変そうです。
荒木:時間で区切られると原稿が遅い人は困ります。でも締め切りに言い訳はできますね。「これ以上は書いちゃいけなかったんです」みたいに。
竹内:いまだったら許されそうな気もします。もう終わりの時間が来てしまいましたが、僕は小説を書くのが2冊目ということで、まだまだ荒木さんには聞きたいことがいっぱいあります。
荒木:また機会がありましたら、是非よろしくお願いいたします。
作品情報
深夜残業
著者 竹内 謙礼
定価: 748円(本体680円+税)
残業を減らして業績を上げろ? 働き方に悩んだ全ての人に贈るお仕事小説。
ハマヤ水産に勤める飯尾は、突如子会社の米菓メーカーに出向となる。命じられるがままに労働時間の改善に取り組むが、なんとしても残業をしようと画策する癖のある社員が立ちはだかって……。
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