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特集

『創作は「体質」。やめるという選択肢がない』――オカヤイヅミ×近藤聡乃 新刊刊行記念対談 後編

取材・文:門倉紫麻 

2021年にデビュー10周年を迎えるオカヤイヅミさん。今月に『いいとしを』(KADOKAWA)『白木蓮はきれいに散らない』(小学館)の2冊が同日刊行されることを記念して、同じく多摩美術大学の同級生で、昨年完結した『A子さんの恋人』が話題を博した近藤聡乃さんとの(画面越しの)初対面&初対談が実現しました。

>>「今こういう感じ」を、今、描きたかった――オカヤイヅミ×近藤聡乃 新刊刊行記念対談 前編

漫画は複製芸術。原稿は「出し殻」(オカヤ)
原稿はペインティングと同じく「作品」(近藤)


――先ほど(前編参照)お2人ともエンタメも描くようになってきた、というお話をされていましたが、もともとご自分の漫画のことを「どんな漫画」だと思っていらっしゃいますか?


オカヤ:ああ……どんな漫画なんでしょうね。


近藤:私は答えられないからオカヤさんに先に答えてもらおうと思っているところです(笑)。


オカヤ:あ、「どんな漫画描いてるの?」って飲み屋で隣の人に聞かれたりしたら「地味な漫画」とか「何も起きない漫画」って言うんじゃないですかね。


近藤:(笑)


オカヤ:この間、母親に映画の話をしていて「すごくおもしろいの。何も起きないんだけどさあ」って言ったら「あんたは何も起きないのが好きねえ」って言われたから、そういうのが好きなんだなと思いました。


近藤:確かに、大事件が起きる感じの漫画ではないですね(笑)。


オカヤ:成長譚が好きじゃないというか……基本的に野心がないんですよ、自分に(笑)。何かになってやる!とか世界を変えてやるとか思わなくてもいいんじゃないの?というか思ってない人もいるんじゃないの?と。でもそういう人にも生活はある、みたいことを言いたいのかもしれないですね。


近藤:なるほど。


オカヤ:それじゃあ、ドラマじゃないじゃないか!って言われたらそれまでなんですけど。だから『いいとしを』には500万円をもらう、というエピソードを入れたというのもあります(笑)。でも描きたいのはそこじゃないんですが。


――そうやって「500万円」を軽やかに取り入れるところに円熟味を感じます。お若い頃だったら「入れまい」としていらしたのではないかと……。


近藤:多摩美生の頃だったら、入れられないかも(笑)。


オカヤ:絶対入れてやるものか!みたいに思っているかもしれない(笑)。なんでしょうね。多摩美感があるんですかね。


近藤:美大生感かもしれないですね。


――近藤さんは「どんな漫画描いてるの?」と聞かれたらなんと答えますか?


近藤:その質問をされないように、決して漫画家だということは言いませんよ。ふふふ……。


オカヤ:(笑) 美容院とかもね。「お仕事は?」って聞かれると困ってしまう。


近藤:そうそう。でも日本で仕事場を借りた時は、一応「絵描きだ」みたいなことは言った気がします。


オカヤ:私は「イラストレーター」ということが多いかもです。イラストレーターだけでやっていたこともあるので。「漫画描いてます」って言うと、「オカヤさん、お話も作れるんですか!」って言われるんですけど、お話を作れると思われてなかったのか、と(笑)。


近藤:いや、お話を作るって、考えてみたら特殊なことだから……それは驚いちゃいますよ。


オカヤ:漫画家ってやること多すぎない?って思いますよね。


近藤:多すぎます。全部ひとりでやるのは大変ですよね。分業制にしたら作れる人や生まれる作品も増えるんじゃないかと思います。


――人に任せられそうですか?


近藤:私は1人でやるのが好きなので、任せることはないと思うんですけど(笑)。


オカヤ:ははは(笑)。任せるとめんどくさいみたいなこともありますしね……。近藤さんは、すごく丁寧に描いているんだろうなと思っていて。『ニューヨークで考え中』に、「トレース」をしている場面があって。ということは下描きをトレースするんだ、と思ったんですよ。


近藤:え、その作業がない人がいるんですか?


オカヤ:私はわりとわーっと描いて違うと思って捨てる、みたいなことを繰り返すので(笑)。


近藤:紙ですか? デジタル作画ですか?


オカヤ:『白木蓮』は、線画は紙に描いて、仕上げはデジタルです。『いいとしを』のほうはフルデジタルです。


近藤:デジタルだと減る作業もありそう……でもデジタルに慣れるまで時間がかかりそうですね。それと私の場合、紙で残したい気持ちがすごく強いんですよ。


オカヤ:やっぱり「作品」という感じが。


近藤:はい、そうなんです。原画展ができなくなっちゃいますし、紙で描くのはやめないと思います。


――漫画家さんによっては掲載が終わった原稿を捨ててしまったり、人にあげたりする方もいますが、近藤さんは残しておきたいというお気持ちなのですね。


近藤:そうですね……例えば、短編丸ごと作品として買ってくださる方がいたら、売るかもしれません。捨てはしないです。ペインティングなどの一点ものの作品と同じです。


――オカヤさんも紙で描いていた頃の原稿はそういう感覚ですか?


オカヤ:私は、原稿は「出し殻」みたいな気持ちですね(笑)。絵を売るということをしてこなかったので、自分の作品としての「生の絵」に対する気持ちが強くないのかもしれないです。複製芸術というか印刷されてこそ、みたいな。


近藤:そうなんですか。以前対談したイラストレーターさんは、原画は絶対に売りたくないとおっしゃっていましたし、人によって考え方が違いますよね。私は絵も販売してますし、漫画原稿も大切にしてくれそうな方には売る……かな?と。


オカヤ: 絵の価値みたいなものの置き方が人によって全然違うんですね。前にちらっと、大きいタブローでアートとして描きませんか?と言われたことがあったんですけど、それだとどこに投げていいかわからなくて。きっとうまく描けないなと。ペインティングは、その作品を買う人に向けて描くということですよね?


近藤:私の場合は、漫画もアニメーションも絵も、どれも自分のために制作していてターゲットは考えていないですね。


オカヤ:逆にシンプルですね。


近藤:そうですね。



創作は、やめるやめないのことではない(近藤)
創作するのは「体質」(オカヤ)


――『A子さんの恋人』のなかで、漫画の創作についてA子さんが「前からモヤモヤと考えていることを 少しずつ言葉にしてるんだと思う/時間はかかるけど」と言うシーンがあります。これは近藤さんご自身の感覚なのでしょうか。


近藤:その感覚はたぶんアニメーションとか絵画とかを描く時のほうに近いと思います。いや、でも漫画も結局は……うん、漫画もそうですね(笑)。先ほど(前編参照)東日本大震災のことは10年経ってもフィクションとしては描けないままという話をしましたけど、次のアニメーションのテーマは日本にいたころからモヤモヤ考えているものなんですよ。それを10年越しに作っていく、みたいな感覚です。


――オカヤさんもそれがわかる感じはありますか?


オカヤ:わかります、わかります。私はしゃべるのが得意ではないのと、感情がわくのが遅いんですよ。いやなことを言われてもその場で怒れなくて、3日後くらいに「ああっ!」ってなるほうで……だからそういうものを漫画に書き留めているところはあるかもしれないです。


近藤:すごくわかります。私も後から怒りがわいてくることがありますよ。10年以上前のことを思い出して「あの時私は若くて気づかなかったけど、あれは大変失礼なことを言われたのだ!」と急に怒りがわいてくる。


オカヤ:「あの時はヘラヘラしてしまった! もう!」みたいな感じですよね。私は根に持つタイプだと思います(笑)。あ、『A子さんの恋人』で、創作に関して「そうだよね」と思ったのが……A子さんは描けなくなったりすることはあるけど、漫画を描かなくなることはないんだろうな、というところなんです。恋とか、ライフイベントで漫画を捨てることはないだろうなと。


近藤:うん、そうですね。


オカヤ:人格と創作が一体化している感じですよね。ドラマとかで「仕事と私、どっちが大事?」みたいなセリフを聞くと「え? そういうことじゃなくない?」と思うんですけど、創作は生活することと同じというか……ごはんを食べる、みたいなことと同じじゃない?みたいな。


近藤:確かに。A子さんのなかに漫画を描くのをやめるという選択肢は、もうまったくゼロですよね。本当にそれはそうだと思います。私もやめるとか考えたことはまったくないですね。


オカヤ:そうですよね。


近藤:私はアニメーションも作っていて、最新作がもう10年前のものなんです。だから人によっては「漫画家になったんだな」と思っているかもしれないんですけど、私はそうは思っていなくて。「いや、今は漫画を描いているだけですよ」と。そのように、たぶんやめるやめないのことではなくて、思いついてしまったものを、いつ、どのような形で作ろうかなとその時々に考えているとかそういうことですよね。特に一つの表現だけに絞ることは今後もないと思います。


オカヤ:前は「諦めて田舎に帰る」みたいな話がよくあったと思いますけど、最近の価値観として「やればいいじゃん」みたいになってきているようにも思います。もともと創作ってそういうものだったというか。職業じゃなくてもいいよね、とみんな思えるようになってきたんじゃないですかね。


近藤:そうですね。でもそれは、美大生の頃にはわからなかったですよね。


オカヤ:うんうん。


近藤:才能がある人が周りにいて焦ったりもしますしね。四十くらいにならないと「やればいいじゃん」とは思えないかもしれません(笑)。


オカヤ:「やっちゃってる」みたいな人じゃないと続けられないようなことでもありますね。やめる選択肢がある時点で違うのかも。


近藤:やめるっていうよりは「今はやってないけどそのうちやるよ」っていう感覚ですよね。


オカヤ:「体質」みたいなことですよね。


近藤:そうそう!



今ようやく、40歳の青春を(笑)(オカヤ)
今ぐらいの気持ちでハタチを生きたかった(笑)(近藤)


――今日、お話しされてみて、お互い作品からイメージしていた像と近い方でしたか? それとも違った面が多かったですか?


オカヤ:近藤さんは……まんまと言えばまんま……? でも思ったよりこわくないと思いました。


近藤:(笑)


オカヤ:こわいというか、キモいって思われたらどうしようという緊張感があったので。


近藤:いやいやいや、全然キモくないです(笑)。


オカヤ:気さくに話していただけてありがたかったです!


近藤:こちらこそ、本当にどうもありがとうございます。オカヤさんは漫画の印象よりも、しっとりした方だなと思いました。


オカヤ:(笑)


近藤:人とお酒を飲んだりするのが好きな、お友だちの多い人っていう印象だったので……(笑)。


オカヤ:お酒飲むのは好きですけど、社交的かと言われるとそうでもないです。隣の人に聞こえるくらいの音量でしかしゃべらない(笑)。


近藤:飲み会なんてもう何年も行っていないけれど……私が飲み会に行くと私の周りからだんだん人がいなくなっていくから、向いてないんだと思います。そもそも、お酒も飲めないし、飲み会に誘われないんですよ。


オカヤ:えっ! 今ニューヨークにいるからでは。


近藤:それはあまり関係なく。本当に最近、いかに私に友達がいないを痛感しています。私、人生で一度もカラオケに行ったことがなくて。


オカヤ:へええー。


近藤:カラオケですよ?一度も誘われたことがないんです。そんな人あんまりいないじゃないですか。そのように、飲み会にも誘われない。


――ご自分からも誘わないということでしょうか。


近藤:誘わない……誘いたいという気持ちも特になく(笑)。


オカヤ:(笑) だからじゃないですか。平気そうに見えるというか。


近藤:平気そうに見え、そして実際平気だったんでしょうね。ニューヨークでもホームシックに全然ならなかったし……本当になんか、そういう人間なんでしょうね。


オカヤ:でもちょっとわかります。私もコロナ以降ほとんど人に会わないですけど、あんまり寂しくないなって思ったんですよ(笑)。


近藤:ですよね(笑)。


オカヤ:誰かと暮らしたいと思うのかなと思ったんですけど、全然一人でいいやみたいな感じです。


近藤:私も本当にそう思っていて。でも流れのままに結婚したんですけど……。


オカヤ:近藤さんの漫画って全部「居場所」の話ですよね。


近藤:あ、そうですね。「ユリイカ」に描き下ろした漫画(「ニューヨークで考え中」ユリイカ出張篇「寂しさと居場所」)には「寂しい」って書いていました(笑)、あれはまた違った寂しさですね。


オカヤ:個がまずあっての寂しさというか。


近藤:オカヤさんは、お話を聞いていると、とりあえずあまり向いていない方向に向かって行ってしまうタイプなんだなと思いました(笑)。


オカヤ:そうそう、そうなんです。墓穴に自分で入っていく。会社員だった時も、会社の意向で動くことが本当にできなくて……向いていなかったです。


近藤:それはつらそうですね。やっぱり、3年生の時に躊躇せず表現系の学科を選べばよかったんだと思います。


オカヤ:ほんとにそうですね。なんでだろう……鍛えなきゃみたいな気持ちなんですかね。


近藤:長所を伸ばすよりも短所を補うほうに目が行くタイプなのかもしれませんね(笑)。


――(笑) 本当に面白いお話をありがとうございました。最後に何か言っておきたいことはありますか?


オカヤ:あ、じゃあ、いつか飲みましょう。


近藤:日本に次帰った時は、ぜひぜひお会いしたいです。というか大学1、2年の時にお会いしておきたかった……。


オカヤ:ほんとですよね。その時、漫画の話をしたかった。


近藤:ほんとですよ。寂しかったんだから。あ、寂しかったんですね、私は(笑)。


オカヤ:仲間がほしかった。


近藤:仲間が……ほしかったんですね(笑)。


オカヤ:今ようやく、40歳の青春を(笑)。


近藤:いいですよね、おばさんになるとほんとラクチンだなと思います。


オカヤ:ほんと、どんどん楽になる。


近藤:今ぐらいの気持ちでハタチを生きたかったですね。


オカヤ:本当に(笑)。

作品紹介


『いいとしを』
著者 オカヤ イヅミ
定価: 1,320円(本体1,200円+税)


『いいとしを』

著者 オカヤ イヅミ
定価: 1,320円(本体1,200円+税)
詳細ページ:https://www.kadokawa.co.jp/product/322010000464/

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『白木蓮はきれいに散らない』
著者 オカヤ イヅミ
定価:1,320円(税込)


『白木蓮はきれいに散らない』

著者 オカヤ イヅミ
定価:1,320円(税込)
詳細ページ:https://comics.shogakukan.co.jp/book?isbn=9784091793485

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『A子さんの恋人』

著者 近藤 聡乃
詳細ページ:https://www.kadokawa.co.jp/product/321910001171/


オカヤイヅミ

1978年生まれ。東京都出身。独自の感性で日常を切り取った『いろちがい』で2011年にデビュー。著書に『すきまめし』『続・すきまめし』『ごはんの時間割1・2』『ものするひと1・2・3』『みつば通り商店街にて』ほか、人気作家へ理想の「最後の晩餐」について訊ねたエッセイコミック『おあとがよろしいようで』など。

近藤聡乃

1980年千葉県生まれ。漫画家、アーティスト。2000年にマンガ家デビュー。アニメーション、ドローイング、エッセイなど多岐に渡る作品を国内外で発表している。著書は『はこにわ虫』『いつものはなし』(青林工藝舎)『うさぎのヨシオ』『A子さんの恋人』全7巻(KADOKAWA)、『ニューヨークで考え中』1~3(以下続刊・亜紀書房)、作品集『近藤聡乃作品集』(ナナロク社)、エッセイ集『不思議というには地味な話』(ナナロク社)など。

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