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特集

『真実をつかむ』刊行記念 相澤冬樹 × 鎌田靖 対談 後編「特ダネを取ることよりも大切なこと」

撮影:小嶋 淑子 

真実をつかむ 調べて聞いて書く技術』の著者、相澤冬樹さんと鎌田靖さんとの対談の後編です。記者は情報がすべてで、情報を得るためには取材相手に信頼してもらうことが必要です。言うは易し……のこの命題を、お二人はどのように実践してきたのでしょうか。
私たちが日々、仕事をする上でのヒントもいっぱいです。

>>前編「向き不向きを超える方法」


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(左から)PHP新書『最高の質問力』、角川新書『真実をつかむ 調べて聞いて書く技術』

特ダネは必要?


――記者という仕事も、時代によって求められることが少しずつ変わってきているかと思います。先ほど、特ダネを取ることについて少し言及されていましたが、特ダネは権力者に近寄らないと取れないかと思います。一方で、黒川弘務検事長の賭けマージャンが問題になりましたが、権力者に取り込まれてしまう危険もあるのではないでしょうか。


相澤:特ダネは理屈ではないんですよね。鎌田さんも以前、言っていましたよ。逮捕だとか企業合併とかなんでもいいのですが、「『いずれは分かる話を1分1秒争っていることに何の意味があるか』というのは素人の議論だから、俺は聞きたくない」と。確か神戸のころだったと思います。

 僕自身も特ダネがほしい。特ダネを取れるかどうかがNHKも含めて大手メディアでの記者の評価基準です。今でもそうだと思います。

 それは一般的なビジネスでいえば、「この契約を取れ」とか、「この商品を売れ」というのと同じです。それがいいか悪いかではなくて。「これが給料、飯の種だからやれ」という指示だから、まずはやらざるを得ないんです。

 実際にやってみると、警察の捜査情報にしろ、検察の捜査情報にしろ、もしくは政治家の情報にしろ、権力者、権力を持っている人間に近づいて親しくならないと取ってこられません。だから関係を作ります。

 権力者と親しくなると、はっきりいって、ものすごく便利です。それを少し味わったのは、初任地の山口にいるときです。山口県知事と仲良くなったのですが、県知事が全部情報を話してくれるんです。すごく楽だ、というのがわかりました。政治部の記者というのは、これを国政レベルでやっているんですよね。


鎌田:権力者との癒着といういい方をされるわけですが。


相澤:私も偉そうなことを政治家相手に言った記憶があります。「政治家の取材、楽ですよ。警察や検察のほうがよっぽど大変ですよ」とね。

 そういうことも体験して思うのですが、はっきり言って、1分1秒を争う特ダネというのは社会的な意味はあまりないと思います。僕らが求められているのは、隠されている、もしくは当局が隠したいと思っている情報をどう取ってくるか、ということでしょう。それを考えたときに、1分1秒先の情報も取れなくて、向こうが必死に隠したいと思っている情報は決して取れないだろう、と思うんですよね。

 だから、相手側が都合の悪いと思っているものを取ってくるための、これは訓練なのだと考えたら、やっぱり意味があるのでは、と思うようになりました。

 ただマスコミというのはどうしても「特ダネ取って素晴らしい、良かったね」で終わりになりがちです。つまり、そこがゴールになってしまっている。取ったほうも、「俺、特ダネ取った。いい記者だ」で満足してしまいます。これだとその先がありませんよね。その先で、権力側が不都合だと思っているネタを、本当に世間がびっくりするネタを取ってくるというのが必要でしょう。デスクも記者も誰も、そういった意識のないままに特ダネ競争をやっている状態はよくないと、今では思っています。

 まとめますと、特ダネ競争に意味はありますが、それは訓練としてであって、それだけを目標にしてはダメ、ということです。

 こんなことを鎌田さんの前で言ってしまいましたけど、いかがでしょうか。


鎌田:記者の仕事というのは、口の堅い人話から何とか話を聞き出してくる作業です。ある程度厳しい取材経験を積んでおかないと次のステップには進めないのではないかと思います。例えば自らの責任で報じる調査報道のようなケースです。当局から情報を取ることだけが目的ではないんですよね。

 話が少し脱線するかもしれませんが、東京高検の黒川弘務検事長と新聞記者がマージャンをしていたと週刊誌で報じられたとき、AbemaTVの番組に呼ばれました。「鎌田さんも検察取材をしていたころ麻雀をしましたか」と当然聞かれるわけです。隠すつもりもないので、「もちろんやりました。ある検察幹部と囲むのは僕と読売新聞の記者だけでした」などと答えたのですが、他のゲストの方から、まあ批判されるわけです。

 ただどうも話がかみ合わない。よく聞いてみると、彼らは、取材というのは話したいと思っている人に会って話を聞くことだとイメージされているようでした。「記者さんよく来てくれました。うれしい~」というのが取材だと思っておられた。

 僕が経験してきた取材は隠そうとしている人のところに行って、なんとか話を聞き出すということが多かったので、相手と信頼関係を結ぶための一つの手法、プロセスとして麻雀をすることはあったと説明しました。


相澤:こういう議論というのは何十年も前かありますね。よく夜回りが終わってから会社に上がって、お酒を飲みながら話しました。


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(写真左から)相澤冬樹さん、鎌田靖さん


プロセスを見せる重要性


鎌田:ただここで強調しておきたいことがあります。厳しい当局取材を経験することが、よりハードルの高い調査報道に役立つ、というとことはあると思います。それは間違っていないと思うのですが、私が現役のころとはマスメディアを取り巻く環境が大きく違います。ネットメディアの進捗です。

 極端な話、かつては「犯罪にならなければどんな手法を使ってでも特ダネをとってくればいい」という雰囲気がありました。でも今は違う。マスメディアに問われているのは取材の結果だけでなくそのプロセスです。プロセスが不透明だと、記者と権力者があたかも癒着しているように見えてしまいます。政治だけでなく検察も含めて権力取材をしている記者に対するネット上での不信感というのは強いですよね。

 報道のプロセスも説明すべきだと多くの市民が思っているのであれば、やはり僕らは、それに応えていかなければいけないと思います。もちろんニュースソースの秘匿は大原則ですが。麻雀をしたのは信頼関係を得るためで、そこで取材した結果を何らかの形でアウトプットしなくてはならない。それをやらないのだったら単に取材相手と仲良くなるだけに過ぎない。


相澤:黒川検事の問題でいえば、コロナ禍にもかかわらず、情報が抜けるような形でやったというのがダメでした。もう一つ思ったのは、あの場にいたのは産経新聞の記者と朝日新聞の社員でしたけど、そこで開き直って書けばよかった。鎌田さんがおっしゃった「プロセスが大事」そのものです。「黒川麻雀放浪記」はどうですか。レートはいくらで、誰がどう勝って、一応サービスで振り込みました、と書いてもよかった(笑)。


鎌田:面白おかしく書くかは別として、きちんと書けば何も責められることはないと思います。「よく食い込んで取材したな」と大昔なら褒められたでしょう。いうまでもありませんが、賭けマージャンは違法だということはわかったうえでの話です。


相澤:この前、日本ジャーナリスト会議(JCJ)の学生さんたちの会に呼ばれて話をしたのですが、「黒川マージャン問題どう思いますか」と質問されました。そこでも今と同じことを言いました。きちんと記事を書けば良かったのに、それを書かなかったから結局何していたんだ、ということになったしまった、と。「あれを書けば問題なかった」と言い切りました。司会の会の共同通信の人も「私もそう思います」と言っていました。


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相澤冬樹さん

ファクトがないと議論ができない


鎌田:もう一点。僕はいま情報番組のコメンテーターをしているのですが、分析力に優れたコメンテーターの方が多くいます。その方ならではの見方を提示したり、説得力のある話をされたりする。ただその前提となっているのはファクトです。ある事実がないと仮定に基づいた上滑りの議論にしかなりません。誰かが情報を取ってこなくてはならないのです。

 たとえば政治部の記者たちの中には、政治家との距離感を批判される記者もいます。僕も批判的に見ています。でもその情報があるから議論になるんです。先ほども言ったように情報を取るのはしんどい仕事です。私も記者時代は慢性的な寝不足状態でした。3K職場といわれて希望者も減ってきている。でも誰かがファクトをつかむという仕事をしなければならない。

 権力者は批判的に見るべきです。ウオッチドッグが僕たちの仕事。だからこそ事実に基づいて批判すべきで、根拠のない批判は決して健全ではないと思う。その根拠となるファクトを取ってくること、これが僕の記者としての原点です。


――相澤さんは、記者の原点というのはどんなふうに考えていますか。


相澤:さきほど言ったように、入社して1年でこれは天職だなというふうに思いましたが、そこから先も一直線ではありませんでした。山口の後、神戸に行って、念願だった東京の社会部に行ったのにピンと来なくて、徳島に行ってデスクやって、大阪行って。そこでラインを外されて、会社の中で出世しないということがわかって、そんなときに東日本大震災が起きて、だったらもう記者に戻ろうと思って2012年に記者に戻ります。1年目で天職だと思って、確信できたのは2016年ですね。だから、最近ですよ。

 2016年の夏から大阪で司法取材をやりました。裁判や検察を担当して、いろいろな裁判を取材しました。司法記者は基本的に判決が出て終わりです。冤罪の取材なら、「再審無罪判決」、ハッピーエンドでよかったね、と。でもそれはおかしいのでは、と感じ始めました。その人の人生はまだ続くのに、そこの先を見ないっていうのはどうなんだろう、と。このころ、取材とは何だ、とか、仕事で大切なことは何なのか、とか気づくようになりました。本の中にも書いています。

 その時点で記者になって29年たっていました。29年たってやっと気づきました。逆に言えば、29年たたないと気づけなかったということです。司法担当になって半年して森友事件が起きて……。それも含めてね、天職だったというのは間違いなかったなというふうに思います。


仕事をする上で大切にしていること


――長く第一線で記者として活躍されてきたお二人から、仕事をしていくうえで読者にアドバイスいただけますでしょうか。


鎌田:私の本でも書きましたが、記者もそうですが、営業や接客、どんな仕事でも初対面の方の場合は緊張しますよね。そこでなるべく緊張しないように前もって準備するわけです。

 その際、相手にはこういった背景があるからこう考えるのではないかという点に思いをいたすことは大事ではないかと思います。本の中では「エンパシー」という言葉を使いました。平たくいうと相手への思いやりとか共感、でしょうか。相手に迎合するということではありません。このエンパシーがとても大事なのではないかと思います。

 たとえば相手が自分とは異なる考え、あるいは思想の持ち主だったとしても、とりあえず、その考えを全否定はせず、どういう考えでこういうことを言っているのか、想像をめぐらせながら話をするというのは、とても大事なことだと思います。


――エンパシー、大切にしたいと思います。相澤さんはいかがですか。


相澤:人には本当にいろいろなタイプがあって、それぞれにやり方がありますよね。でもなかなかそこに気づけません。特に、ある程度経験のある人間ほど自分のやり方を人に押し付けがちです。私もデスクになりたてのころは若い記者にそうしてしまいました。でもあるとき、実はそうではないんだ、ということに気づきました。だれもがそれぞれ自分のやり方があって、やっているのだから、たとえすぐに結果が出なくても、それを見る余裕が必要なんですよね。僕は、記者としていろんなこと気がつくのも時間かかったけど、上司としての振る舞いに気がつくのにもやっぱり時間はかかりました。

 今、つくづく思うんです。こういうタイプの人間が記者には向いているとか、営業に向いているとか、こういうタイプでなくてはダメだ、ということは実は違うのではないか、と。いろいろな個性の人がいて、それをしっかり受け止めることのできる上司や組織があれば、なんとでもなると思うんですよ。

 そのなかで考えるのは、成果をあげるとはどういうことなのか、ということ。記者としてネタを取ってくるとか、情報取ってくるとか、営業で成績上げる、契約を取ってくるためにはどうしたらいいのか。

 それはやっぱり、人と同じことをしていたら、人と同じことしかできないと思うんです。人と同じではないこと、かつての自分で言えば、それは夜回り朝駆けでした。ほかの人の10倍、100倍努力することによってアプローチするという手法です。それは確かに効果はあるのですが、でも今の世の中は働き方改革でできないし、今の若い人たちはついてこないと思う。ではどこで、人と違ったことをするのか。

 人と同じことは安心、安全です。だからみんなと同じことしといたらいいというところに逃げがちですが、そうせずに、乱すといいよ、ということを伝えたいと思います。人と違ったことをどうやってやるのかっていうことを考えてほしい、と思います。


鎌田:人と違ったことをやる、そしてそのことを許すような組織、あるいは社会であってほしいと思います。


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鎌田靖さん


人と違うことを許容する環境が大切


相澤:意外に皆さんに誤解されているのですが、NHKは実はそういう職場でした。だって、まず私が31年間いたんですよ。相当すごいことだと思います。よく同期に言われました、「相澤みたいなの飼ってるっていうことはNHK、まだゆとりがあるよな」と。鎌田さんも30年以上いましたよね。


鎌田:うん、36年いた。


相澤:あと、記者だけではなくて、ディレクターもそうですし、いろいろな職種がある。NHKというのはすごく包容力のある会社でした。私にとってはそうでした。


鎌田:個人的に相澤さんについていうと、NHKでは充実した思いもあっただろうけど、嫌な思いをしたことも僕はよく知っています。会社を辞めるときには少し相談に乗ったりもしました。

 その相澤さんがNHKを退職した後、森友問題も含めて社会に大きな影響を与える優れた仕事を次々にしている。いい記者になってくれたな、という思いはとても強いですね。

 若いときには家族ぐるみで一緒に旅行に行ったこともあるよね。そしてこういう形で人生が再び交錯するのかと思うと、やはり感慨深い。また、一緒に仕事したいなっていう気持ちもありますね。


相澤:実は森友問題のときに一緒に仕事していましたよね。


鎌田:情報交換したね。


相澤:私、まだNHKの記者だったのにTBSに出ている鎌田さんと情報交換しました。交換じゃないか、ほとんど吸い上げられました。


鎌田:一応、僕だって最高検の情報を提供してあげていたじゃないですか(笑)。まあいいや。

 先ほど触れた森友学園問題ですが、最大の悲劇は公文書の改ざんに巻き込まれた近畿財務局の赤木俊夫さんが自ら命を絶ったことです。ところが検察の捜査が不発に終わった後、メディアの扱いは急に小さくなり継続取材する記者も減っていったと思います。ところが相澤さんはその後もずっとこの問題に向き合い、赤木さんが残した手記を週刊文春に掲載した。あの記事で忘れられそうになっていた森友問題に再び火が付いた。そして奥様の雅子さんが国などを相手に起こした裁判が注目されている。あの記事は多くの市民の胸を打ちましたね。決定的に社会に大きな影響を与えました。

 僕は相澤さんから、前もって手記のことを聞いていたので是非、担当している番組で取り上げたいと伝えました。その番組の中で、この記事をスクープした相澤という記者は、かつて僕の部下でしたと紹介しました。とても誇らしかった。

 自分が「これ」と思ったことにとことんこだわる、相澤さんらしい仕事でした。もう僕には教えることがないな。


相澤:とんでもないです。



――今日は本当においそがしい中、ありがとうございました。

書誌情報ページ


相澤 冬樹 (あいざわ・ふゆき)

1962年、宮崎県生まれ。大阪日日新聞(新日本海新聞社)編集局長・記者。東京大学法学部卒業後、87年NHK入局。社会部記者などを経て、2012年より大阪放送局。森友事件では数々の特ダネをつかむ。18年NHKを退職、同年9月より現職場。著書に『メディアの闇「安倍官邸vs.NHK」森友取材全真相』(文春文庫)ほか。

鎌田 靖(かたま・やすし)

1957年、福岡県生まれ。ジャーナリスト。早稲田大学卒業後、81年NHK入局。社会部記者、神戸放送局デスクなどを務め解説委員に。「週刊こどもニュース」で2代目お父さん役として活躍。「NHKスペシャル」などのキャスターも務めた。2017年NHKを退職。現在は「ひるおび!」(TBS系)のニュース解説などを行う。著書に『最高の質問力』(PHP新書)ほか。

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