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特集

140字で一番心震えるTwitter文学――  呟かれては消える泡のような言葉たちの中に発見される、「いま」の気持ちとは? 『いずれ死ぬ君のために』方丈海

『いずれ死ぬ君のために』方丈海

デートで終電がなくなった私は、彼氏の家にお泊りすることになった。
そしたら、まさかの実家。
まぁいいか。
と思ってあがると、

 ↑家にあがると、何が起きるのか。それは読んでのお楽しみ。
 方丈海さんの140字小説は、いつも現実に半回転のねじりを入れる。読んでいるわたしたちはクスっと笑ったり、背筋が寒くなったり、ときどき涙目になったり。引き起こされる感情はするどくて短い。次の瞬間にはほかのことを考え始める――かのように思えて、心臓の底のほうに何かがずっと残るのだ。暗闇で光る針のように、消えずに刺さり続けるもの。
 冒頭の小説は「ホラー」の章に収録されている。最後まで読むとたしかに怖い、それでいて「こんな彼氏の実家はいやだ」的なおかしさもある。でもそれはいわゆるTwitter的な大喜利とか、うまいこと言った感じとは違う。ぜんぜん違う。
 いいホラーは、どんなに恐ろしく残虐なものでもどこか「慕わしい」のだと言ったひとがいた。全力で逃げたいのに、どうしようもなく引き付けられる。ひとをそういう気持ちにしてしまうのがホラーの本質だとしたら、この140字にはまぎれもなく、そのエッセンスがあるのだ。怖いよーといいつつ、作中の「実家」にずっと留まりたくなってしまうようなやばい吸引力。
 他のジャンル、恋愛や、家族や、憎しみや嫉妬や、犯罪や、成長物語にもみんな、短い文字列のなかに本質の針が隠されている。ずっと昔からわたしたちの中に息づいていた感情が方丈さんのスコップで掘り出される。2023年のあたらしい言葉と物語をまとって、わたしたちを魅了し、ぶっすりと突き刺して離さない。
 Tweetをつぶやきというけれど、筆者はむしろ泡に似ていると思う。タイムラインの眺めは、大小色とりどりのはかない泡粒が流れる河だ。ときおり浮かび上がって空を飛ぶ泡も、次の瞬間にははじけて消える。
 方丈さんが行っているのは、そんな泡たちの瞬間をすくいとる営みなのかもしれない。採集されたはかないものたちは、研がれたことばの針によってのみ永遠につなぎ留められる。タイトルが示すように、わたしたち自身の存在もまた、はかない。いずれ、必ずいなくなる。最後のひとりがいなくなった宇宙に、ことばだけが残る。次にやってきた者たちがそれを読むだろうか。わたしたちの「いま」を彼らはどんな気持ち(気持ち、という概念がそのときに存在すればだけれど)で受け取るのだろうか。
 と、思わず飛距離の遠い妄想を抱いてしまったりもするのだが、実はこの本にはもうひとつの魅力と仕掛けがある。毎日投稿される「海さん」の140字小説を読んでいる小説嫌いの女子と、彼女の大切なある人の物語が本編と伴走しているのだ。ここにも、もうひとつ「いま」の物語が生まれ、わたしたちの「いま」と絶妙に重なってゆく。読んでいる目の前で小説がゆらぎ、変化してゆくワクワクをぜひ味わってほしい。方丈さんとともに、そして作中の彼女とともにこの小説を完成させるのは、これから読むあなたです。

(カドブン季節労働者K)

書籍紹介



いずれ死ぬ君のために
著者 方丈 海
定価: 1,430円 (本体1,300円+税)
発売日:2023年04月24日

たった140字に込められた、驚きと感動を呼ぶ令和の”新・文学”。
小説嫌いの20代OL”瑞月”は、勧められてSNSの140字小説に出会い、読み進めながらふとある思いに駆られる。「……この人は私の父では?」 たった140字に感動を込めた、方丈海の令和”新・文学”!

詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322210001437/
amazonページはこちら


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