恩田 陸を語るうえでは外せない、第59回日本推理作家協会賞に輝いた傑作ミステリ『ユージニア』。2005年刊の単行本は、ブックデザイン・祖父江慎、フォントディレクション・紺野慎一、写真・松本コウシと、各分野の巨人が一堂に会し、作品世界を表現した先鋭的な造本は業界に衝撃を与え大きな話題となりました。
そして2025年10月、いまなお語り継がれる「伝説の本」が〈完全版〉となって登場!
当時、技術や費用の面で断念せざるを得なかった部分も含め、本来目指していた仕様をすべて実現した、まさに究極の一冊です(※小説の内容は2008年刊の文庫版より大きな変更はありません)。
本記事では、カドブン編集部が『完全版 ユージニア』の担当編集者にインタビュー!
前代未聞の造本について、たっぷり語ってもらいました。
恩田 陸『完全版 ユージニア』徹底解剖
緋紗子の「絶望」を彷彿とさせる外函
――今回は単行本版にはなかった外函がついているんですね。
そうなんです。この外函、大きく印字された「伝説の本」「完全版」の文字に「ちょっと『ユージニア』っぽくないな」と思われた方もいるのではないでしょうか。実は外函のコンセプトは「絶望の現実世界」。その中から、「目が見えない緋紗子が作り上げた世界(=書籍本体)」が出てくるという仕掛けなんです。まずはこのギャップをお楽しみいただけたら嬉しいです!
白い膜の向こうに風景が透けて見えるカバー
――ではさっそく「緋紗子が作り上げた世界」を取り出してみましょう。白い膜の向こうに夜の町が透けて見えるような……とても不思議なカバーですね。
制作中、「どんな印刷技法?」と編集部内でもよく訊かれました。実はこれ、カバーの表面に印刷されているのは、黒い文字のみ。カバー裏面にプリントされた写真や文字が透けて浮かび上がっているんです!
この仕掛け自体は単行本版と同じですが、変わったのはカバーの用紙。レイド(縞模様)をなくし、紙質を変えたことで、透け方もガラッと変わりました。さらに裏面はグロス加工を施してツルツルなんですよ! 詳しい経緯は、巻末の「ユージニアノート2025」に書かれているので、是非ご覧ください。
箔押し&空押しのダブル加工が施された本表紙
――カバーを外すと出てくる本表紙も見逃せませんね。
白の箔押しと空押しの2種の加工が施されていることにお気づきでしょうか? 目の見えない緋紗子を意識した、触って感じられる凹凸と光の反射という当初のプラン通りのデザインが実現されました! 角度によって反射加減が違うので、是非、色々なアングルで眺めてみてくださいね。
――カバーで隠れた場所にこんなことをするなんて、なんと贅沢、これこそ完全版ですね……!
「現場に残されたメモ」と前代未聞の本文デザイン
――それでは、いよいよ本を開いてみようと思います。冒頭に挟み込まれているのはもしかして……?
単行本版でもインパクト抜群だったサイズ違いの「現場に残されたメモ」が、さらに進化してお出迎えです。そしてこれまた『ユージニア』の大きな特徴でもある本文デザインも、さらに完全なものになりました。「ユージニアノート2025」から一部抜粋してご紹介させてください。
こういう本は、構造自体が、最初からいきなり壊れるのが大事。まず、「現場に残されたメモ」を、本とは違うサイズの紙に刷って一枚目に挟みこんだんです。そのメモの上の「Eugenia」のロゴが、文字をこそげとったようなのは、薬品を感じさせるため。昔の本って、インキと紙による化学変化で、次のページに文字が写りこんでたりしたんです。そんな風に、紙がタイトルの強さに負けた感じ、たとえば薬品がリトマス紙にじんわり染みたような感じに見せて、酸っぱいにおいをかがせたいなって。毒殺ですもの。
あ、皆さん、気がついていました? 単行本の本文は、時計回りに一度傾いているんですよ。でも、「て、で、に、を、は、へ」だけは、傾いてなくて、ほぼまっすぐ。「っ」や「ゃ、ゅ、ょ」は、戦前戦後の子供用の本みたいに、上の文字にくっついてるの。「、」は、横に長くって、さらに、ページの外側の行は、内側の行より一文字字が少ないの。
(「ユージニアノート2025」Ⅲ ブックデザイナー(2008)より)
実は私は、これまで文庫版でしか読んだことがなく、今回初めてこの本文デザインで読み直してみたのですが、「あれ、思っていたより普通かも? ん? なんか歪んでいる? 気のせい? 物語のせい? 本文デザインのせい? それとも――?」。
すでに文庫版で読んでいる方にも、再読を強くおススメします!
最後に
――『完全版 ユージニア』、まさにブックデザインの粋を極めた一冊ですね。
『ユージニア』の世界を150%でお楽しみいただけること間違いなしだと思います!
今回ご紹介した以外にも、作品世界に誘うためのこだわりが随所に詰まっていますので、是非実物をお手に取って、隅々までご覧いただけたら幸いです。
作品紹介
書 名:完全版 ユージニア
著 者:恩田 陸
発売日:2025年10月02日
驚異の造本で話題となった著者の記念碑的傑作ミステリが〈完全版〉に!
恩田 陸を語るうえでは外せない、第59回日本推理作家協会賞に輝いた傑作ミステリ『ユージニア』。
2005年刊の単行本は、ブックデザイン・祖父江慎、フォントディレクション・紺野慎一、写真・松本コウシと、各分野の巨人が一堂に会し、作品世界を表現した先鋭的な造本は業界に衝撃を与え大きな話題となった。
いまなお語り継がれる「伝説の本」が今年、〈完全版〉となって登場!
物体としての本の魅力が満載の、恩田 陸ファンはもちろん、すべての本好きにとって、入手必須の一冊。限定生産なのでこの機会をお見逃しなく!
◆発売20周年記念の〈完全版〉
当時、技術や費用の面で断念せざるを得なかった部分も含め、本来目指していた仕様をすべて実現した外函入りの〈完全版〉を限定生産で発売!
◆作品の魅力を引き出す唯一無二の造本
冒頭に挟み込まれる、本とは異なるサイズの「現場に残されたメモ」。
目が見えない少女・緋紗子が感じる世界を表現した、白い膜の向こうに風景が透けて見えるカバー。触覚で感じられる、凹凸のある表紙。
徐々に平衡感覚を失っていくような、ひずんだ本文デザイン。
ほかにも、見返し、扉、なんと、かがり糸にまで、作品世界に引き込むためのこだわりが随所に!
巻末の「ユージニアノート2025」では造本のこだわりポイントを解説!
あらすじ
ユージニア、私のユージニア。
私はあなたと巡りあうために、
ずっと一人で旅を続けてきた。
数十年前のあの夏、青澤家で催された米寿を祝う席で、十七人が毒殺された。その場にいた人間で生き残ったのは、目が見えない少女一人のみ。ある男の遺書によって一応の解決をみた大量殺人事件が、年月を経てさまざまな視点から再構成される。見落とされた「真実」を証言する関係者たちは、果たして真実を語っているのか? 日本推理作家協会賞受賞の傑作ミステリ!
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322504001395/
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著者紹介
恩田 陸(おんだ りく)
1964年、宮城県生まれ。92年『六番目の小夜子』でデビュー。2005年『夜のピクニック』で第26回吉川英治文学新人賞および第2回本屋大賞を受賞。06年『ユージニア』で第59回日本推理作家協会賞を受賞。07年『中庭の出来事』で第20回山本周五郎賞を受賞。17年『蜜蜂と遠雷』で第156回直木三十五賞、第14回本屋大賞を受賞する。