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特集

ファンタジー&ホラーの旗手、恒川光太郎を読むならこれだ! 圧巻の想像力があなたを包み込む、おすすめ書籍3選(朝宮運河・選)

日本ホラー小説大賞受賞作『夜市』でデビュー後、見たことがないのに何故か懐かしく感じる異界の物語を次々と発表してきた作家・恒川光太郎さん。恒川ファンタジーの一つの集大成といえる最新刊『箱庭の巡礼者たち』の刊行を記念して、書評家の朝宮運河さんに恒川光太郎おすすめ3作品の魅力を熱く解説していただきました。

▼恒川光太郎特設ページはこちら
https://kadobun.jp/special/tsunekawa-kotaro/

恒川光太郎おすすめ書籍3選

朝宮運河 (書評家)

 第12回日本ホラー小説大賞受賞作「夜市」でのデビュー以来、ホラー&ファンタジーの秀作を数多く発表し、熱烈な支持を得ている恒川光太郎。
日常の裏側に存在する“もうひとつの世界”を幻想的な筆致で描き出す恒川作品は、未知なるものへの好奇心と畏れ、そしてノスタルジーの気配に満ちており、読者の胸を高鳴らせる。
時代小説にSF要素を取り入れた第回日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)受賞作の『金色機械』や、RPG風異世界ファンタジーに挑んだ『スタープレイヤー』と一作ごとに新しい世界を拓きながら、恒川作品は進化を続けている。
ここではその15冊を超える全著作の中から、個人的に“これぞ恒川ワールド”だと感じられる代表作3冊をピックアップし、あらためて多彩な恒川作品の魅力に迫ってみたい。

恒川ワールドの原点『夜市』(角川ホラー文庫)



表題作「夜市」と「風の古道」の2作を収めるデビュー作品集。日本ホラー小説大賞の各選考委員を瞠目させた「夜市」は、次のような物語だ。大学生のいずみは元同級生の裕司に連れられ、岬の森で開かれる夜市に出かけていく。夜市とは妖怪めいた者たちが、黄泉の河原で拾った石、なんでも斬れる剣、老化が早く進む薬など、不思議な品物を売り買いしている奇妙なマーケットだった。
やがて道に迷った二人は、奇妙な少女から夜市のルールを聞かされる。一度ここに迷い込んだ者は、何か買い物をするまでもとの世界に戻ることはできないという。戸惑ういずみだったが、裕司にはある目的があった。小学生の頃、野球の才能と引き換えに売り払った自分の弟を、買い戻そうとしていたのだ……。
 鮮やかに描き出される夜市の光景(アニメか実写で見てみたい)に心を奪われていた読者は、中盤以降の予想外の展開に驚かされるはずである。現世と異界の交わりを背景に語られる、ある兄弟の切ない物語。完成されたストーリーと世界観は、発表から17年経った今でも輝きを失わない。
後半に収録された「風の古道」も現代ファンタジーの名作だ。12歳の私と友人のカズキは、生垣の向こうに延びる奇妙な道に足を踏み入れる。公園に通じているはずだったその道は、実は古道とも鬼道とも呼ばれる、神々の通い路だった。
行き交う異形の者に交じって、旅を続ける私とカズキ。その姿に一種言いようのない懐かしさを覚えるのは、“迷子”や“神隠し”にまつわるさまざまなイメージを刺激されるからだろうか。私たちの暮らす世界と重なるように存在する古道の風景は、ふいに蘇ってきた幼少期の記憶のように、私たちの胸を締め付ける。異界と旅という恒川ワールドを貫くモチーフが、いち早く表れている点にも注目だ。
書誌ページ:https://www.kadokawa.co.jp/product/200801000457/

ダークなイマジネーションが炸裂した『無貌の神』(角川ホラー文庫)



無貌の神』は6編を収める短編集。恒川光太郎の作品は光と闇、昼と夜のはざまに生まれるものを描いているが、作品によって光と闇のバランスは異なる。中でも『無貌の神』はダークサイドに傾いた作品を数多く収録しており、ホラーテイストの濃い一冊になっている。
 表題作「無貌の神」は、顔のない神を崇める集落の物語。古寺に座しているのっぺらぼうの神は、村人の病や傷を癒やしてくれるが、ときおり人を丸呑みにする。
いつからかこの村で暮らすようになった少年には、深い谷にかかる赤い橋が見えていた。アンナという女の話では、橋の向こうはもといた世界が広がっているという。しかし村人たちと一緒に神の屍を口にしたことで、赤い橋は見えなくなってしまう――。奇妙な神と共存する暮らしの怖さが、じわじわと染み入ってくる短編だ。
その他にも、理不尽な運命に翻弄される人々を描いた作品が目立つ。「青天狗の乱」は幕末の流刑地で起こった怪事件を、交易船の船員の視点から描いた時代小説。島を支配する侍たちの残忍な振る舞いが、天狗出現の引き金となる。「死神と旅する女」は世界の“絵”を描く死神に強いられて、77人を暗殺した娘の物語。「十二月の悪魔」はゾンビのような人間に支配された奇妙な町で、元受刑者の老人タカシとアカネという若い女性が“反乱軍”を結成する。いずれも恒川光太郎のダークな想像力が炸裂しており、ファンタジー系とはまた違った著者の魅力に触れることができるだろう。
といっても物語の根底には、自由に生きることへの憧れが常に描かれている。主人公が再び谷の向こうを目指そうとする「無貌の神」のラストがその典型だ。空から振ってきた少年の物語である「廃墟団地の風人」、異国を舞台にした胸躍る幻想譚「カイムルとラートリー」の2作は、特にその傾向が強い。ここではないどこかへ旅立つ者たちの姿が、恐怖や幻想とともに胸に残り続ける。
書誌ページ:https://www.kadokawa.co.jp/product/322001000223/

心揺さぶる多元世界ファンタジー、『箱庭の巡礼者たち』(KADOKAWA)



箱庭の巡礼者たち』は今年7月に発売されたばかりの最新作品集。収録されている6つの短編と5つの断片はあちこちでリンクしており、通読することで大きな物語が浮かびあがる、という構成になっている。
驚かされたのは非凡な着想力だ。『夜市』でのデビューから約17年、著者のイマジネーションにはますます磨きがかかっている。たとえば巻頭に置かれた「箱のなかの王国」だ。
100年に一度という大雨が降った翌日、がらくたに交じって大きな箱が流れ着いているのを見つけた主人公の少年は、それを持ち帰る。箱の中には小さな人たちが暮らす世界が広がっており、水害で命を落とした少年の母にそっくりの女性もいた。
複雑な家庭環境を抱える少女・絵影とともに箱庭世界の観察に夢中になる少年だったが、ある日、絵影が思いも寄らないことを言い出した。
そこから先の展開は、まさに著者の独壇場。箱庭世界というアイデアを使ってこんな物語を書けるのは恒川光太郎だけだろう。
 その他にも時間跳躍者となった姉弟の生涯を描く「スズとギンタの銀時計」、風変わりな犯罪小説「短時間接着剤」、異能者の孤独をしみじみと綴る「洞察者」、有機ロボットに囲まれた世界で王に選ばれた少年の物語「ナチュラロイド」、世界の終わりを超えて生きる者たちの壮大なドラマ「円環の夜叉」と、奇想に富んだ珠玉作揃い。
いくつもの世界が精緻なパズルのように繋がり、多様な人生の可能性を覗かせてくれる本書は、もうひとつの世界を描いてきた作家・恒川光太郎の集大成ともいえるだろう。ある登場人物が祖母から教えられたという〈自身が物語の主人公であることを自覚して人生を生きなさい〉という言葉は、多元世界を描いた物語全体と反響しながら、読者の心を揺り動かす。私たちは自由に生きているだろうか? 恒川光太郎のファンタジーは、読者にそう問いかけてくるのだ。
書誌ページ:https://www.kadokawa.co.jp/product/322104000336/

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