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特集

【『禍話n』重版記念】ホラー作家・梨氏書き下ろし禍話リライト「喪中葉書」

3月3日に発売された、『禍話n』(著:梨 取材協力:FEAR飯)。
実在する怪談ツイキャス「禍話」の幻の配信回「第n回」についての調査を、ホラー作家・梨さんがまとめた本書は、発売以来、「なにこれ怖すぎる」「責任を取ってほしい」と熱い反響をいただいています。
本書の増殖重版決定を記念し、書籍未収録の梨さん書き下ろし禍話リライトを公開します。
気になった方は是非、書籍の方もチェックしてみてください。ただし、責任は取れません。

禍話リライト「喪中葉書」 梨

ある日。
Yさんがバイト先から家に帰る途中、やけに目につく文があった。

「喪中葉書 承ります」

単にふと目に留まっただけかと最初は思ったが、
辺りを見回してみると、様々な場所に同じ文がある。

電柱、商店街の掲示板、路地の塀。
素人がワープロソフトで作ったようなビラが、
町のいたるところに貼られている。

「喪中葉書 承ります」

なんだか気持ち悪くなって、彼は速足で家に帰る。
すると、郵便受けにもそのビラは入っていた。
気味が悪くなって、それを自室ではなくエントランスのごみ箱に捨て、
その日はすぐにベッドに入った。

夜中の一時ごろ、突然の光に目が覚めた。
目を開けると、枕元のスマホが着信により点灯している。
寝ぼけ眼を擦って電話に出ると、それは飲み会の誘いで、
酔っ払った友人の声がざわめきと共に聞こえてきた。

適当に断って電話を切り、
そのまま寝直そうと布団に手をかけた、その時。

かたん、と音がした。
玄関の、ドアポストの方から。

恐る恐るドアに近づくと、そこには輪ゴムで留められた
10枚程度の喪中葉書が投函されていて。
その束の一番上には、小さなメモが添付されていた。

「ご注文 ありがとうございます」

Yさんはエントランスまで出て、先ほどのごみ箱に葉書の束を叩き込むと、
足早に部屋へ戻った。
帰宅時に捨てたビラがごみ箱から無くなっていたような気がしたが、
深くは確かめなかった。

後日。
最近、変な悪戯に困らされている、
とバイト仲間数名にこの話をしてみたところ――

「…………あの」

やけに神妙に話を聞いていた、仲間のうちの一人が、
非常に申し訳なさそうな顔でおずおずと手を挙げた。

「なに。まさかお前が犯人なの?」

「いや、違くて。俺、Yさんがそれ見たぐらいの時期、
 酔っ払って商店街を歩いてたんすよ。そしたら、
 やけに暗い顔の奴が『アンケートお願いします』って声かけてきて」

「アンケート?」

「はい。一問一答みたいな、バインダーに挟んだ紙に鉛筆で書くようなやつ。
 で、その質問内容が、なんかやけに気味悪くて」

今までで死んでいちばん悲しかった家族は誰ですか

あなたが覚えている中で最も古いお葬式の記憶は、誰のものですか

喪主を務めたことはありますか

はいと答えた方にお聞きします その時はどんな気持ちでしたか

「そんな風に、どんな意図かも全く分かんない、
 気味の悪い質問ばっかりだったんです」

「……なんだ、それ」

それで、と彼は話を継いだ。

「そのアンケートの最後に、あなたの名前、っていう欄があって。
 回答欄を滅茶苦茶覗き込まれてたから、
 そこを空欄にして帰れる雰囲気でもなくて。
 でも自分の名前を書きたくなかったから」

Yさんの名前を書いちゃったんです、咄嗟に。
彼は非常に申し訳なさそうな表情でそう言った。

後日、その葉書を印刷していた場所の住所と電話番号が分かったため、
Yさんは数名を引き連れてそこへ向かった。

そのアパートは「取壊予定」の張り紙や立入禁止のテープが張られた
ぼろぼろの建物が密集した区域にあって、
すでに住人は全員退去している様子だった。

しかし、そのアパートの奥の奥にある一室だけは違った。
その部屋は、恐らくもう人が住んではいけない場所であるはずなのだが、
どこからか色褪せた延長コードが延びていて。

所々がひび割れたパソコンやプリンターには、
「葉書用」と書かれた白いテープが貼られていたらしい。

Yさんは、ほどなくして電話番号や住所を変え、
バイト仲間とも縁を切ったという。

書誌情報



書 名:禍話n
著 者:梨
取材協力:FEAR飯(かぁなっき、加藤よしき)
発売日:2025年03月03日

そのラジオには【存在しない回】がある。最恐怪談ラジオ、完全書籍化。

SNSを中心にカルト的人気を誇る、怪談ネットラジオ「禍話」。夜な夜な禍々しい話が語られるこのラジオには、「存在しない放送回」=「第n回」がある、という噂があった。「第n回」では、過去に語られた話が、傑作選としていくつか語り直されたそうなのだが、パーソナリティのかぁなっき氏と加藤よしき氏には、そんな放送をした記憶はないという。

本書は、ホラー作家の梨氏が「第n回」を聞いたリスナーたちを取材し、その内容を一冊の書籍にまとめたものである。

「ダンボールの家」「人体模型」「キャンプの嘘話」――そこで語られたという話は、元の話とはどこか「違う」ようで……。

詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322404000859/
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