「ぷちっ」
左側に現れたのは、小さくて黒い、ひとつの丸。ほどなくして右側の方からも音がします。
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「ぷつん ぷつん」
黒い丸より少し大きめ、今度は真っ赤な丸が上下にふたつ。と、次の瞬間。
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「びゅう―――――――ん」
赤いふたつの丸がぐぐぐ―――とのびて、黒い丸をとりこんで、そのままひとつになった!?
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さらに、その赤くて長い不思議な形のものがそろそろ、にょろーり にょろにょろ 目玉をギョロリとさせて動き出したかと思えば……
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「ぱち―――――ん」
飛び散った!!
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一体さっきから何を言っているかといえば、絵本の話です。はっきりとしたストーリーはわからないけれど、確かになんだかドラマティック。言葉の響きからでも何となく絵が浮かんできます。だけどこれ、絵本といっても0、1歳の子から楽しめるあかちゃん絵本なのです。あれ、そんな小さなあかちゃんでも絵本なんて読むの?
どうなんでしょう……だってあかちゃんはまるで宇宙人、未知の生物です。その頃の記憶は残っていないし、見ていても何を考えているかわからない。視力だってまだまだおぼつかないのです。だけど、そんな0、1歳のあかちゃんも、おっぱいやママの瞳を連想させる黒い丸や変化する丸い形に反応を示すってことはわかっていて、そんなところから着想を得てつくられたのがこの絵本だというのです。とすると、この絵本にも反応をするのでしょうか。途端に気になってきますよね。
せっかくなので、まずは大人がこの絵本の世界に入り込み、堪能してみることにしましょう。目を薄めて見ても、最初に視界に飛び込んでくるのは黒い小さな丸。場所が変わったり、目玉になったりしながらも、その強い存在感に思わず目で追いかけてしまいます。それに対して、大きさや形や色を自由自在に変化させていくのが赤い丸。唐突かつダイナミックな動きをしながらページを進めていきます。さらに立体的な動きを感じさせてくれるのが画面に空いた丸い穴。丸を直接触ることもできるわけです。「ぽんっぽんっ」「ぴたぴた」「くるりん」声に出しながら読んでいると不思議なことに全ての感覚が一体化してくるような…「ぱったん!」あ、ひっくり返った! 平面的な絵が段々と粘土のような、おもちゃのような立体物に見えてきて「ぎゅ ぎゅ ぎゅ――」一緒に力を込めてみると…ああ、綺麗!! すごい、すごい。ちょっと感動したりして。感覚で絵本を読むって、こんな感じなのかな。
この摩訶不思議な絵本をつくったのは、グラフィックデザイナーとしても世界的に活躍をされている駒形克己さん。絵本の他に知育玩具など独自のモノづくりをされてきた駒形さんがあかちゃん絵本『ごぶごぶ ごぼごぼ』を手がけられたのは21年前。娘さんのためにつくられたというこの絵本は今でも大人気。やっぱり不思議な形と言葉で構成されていて、それを見ながらあかちゃんが声を出したり笑ったりするのです。そんな我が子の反応に驚き、ママの方がその様子を見たくて、観察をしたくて夢中になってしまう、という訳。
そして今作『ぎゅ ぎゅ ぎゅ――』はそれ以来、あかちゃん絵本としては19年ぶりの新作です。今度はお孫さんが喜んでくれるのが嬉しくて制作されたのだとか。だから例えばこの絵本を手に取って「何が描いてあるんだ?」「意味はあるの?」なんて思ってしまっても、とにかく試しにあかちゃんに読んでみてください。(さっきみたいに、なるべく感覚的にね)そうすると、反応するかな? しないかな? どこを見てるのかな? この言葉を言った時に喜ぶみたい、じゃあもう一回よんじゃおう! 聞いてないけど、触ってるなあ…なんて、あかちゃんを見ながら一喜一憂してしまう自分に気がつくはず。そしてその読み方が大正解だと思うのです。親子で一緒にその不思議な世界と時間に存分にひたってみてくださいね。子育てに結構「役に立つ」絵本になると思いますよ。
絵本ナビ編集長
磯崎 園子(いそざき そのこ)