ひとりで音楽を爆音で聴いてるのがいい
誰かと分かち合う隙間を作ろうとするなんてガラじゃない
それは、傷つかずに生きてゆくためのライフハックだ。自分ではない誰かの存在を想定してしまったとたん、世界は一気に残酷なものとなる。
ままならない他人のままならなさに、いちいち動揺する自分がイタい。ましてその他人を、すごく大切に思ってしまったりなんかした日には目も当てられない。相手の一挙手一投足に一喜一憂して、悲観と楽観と高揚と羞恥で前後不覚になって、混迷のあげく妄想の沼にダイヴしても当然得るものはなく、とどのつまりは自分が嫌いになって。そんなのって嫌でしょ最低でしょ。というわけでふりだしに戻る。
ひとりで音楽を爆音で聴いてるのがいい
誰かと分かち合う隙間を作ろうとするなんてガラじゃない
でも、そう思っているあなたのところにも、突然訪れてしまうのだ。世界のはじまりのような、唯一無二の出会いが――。
高校生のあやは、見た目100%のギャルだ。いつも教室の中心でキラキラと輝いているように見える彼女には、あんまり友達に共感してもらえない趣味があった。それは、ゴリゴリの20世紀ロック。NIRVANA、Black Sabbath、Blur……なのでひとりでときどきCDショップに行く。そこに気になってる人がいるのだ。カウンターの向こうにいる黒ずくめのかっこいい「おにーさん」。アンニュイに眺めているのはあやの大好きなNIRVANAのCD。音楽のセンスだってど真ん中だ。試聴中ヘッドフォンに絡んだ髪を、やさしくほどいてくれたあげくダメ押しのひと言「すいません、触っちゃって」……こんなの絶対惚れちゃうじゃないか!
同じクラスのみつきは空気みたい(であろうとして成功している)な地味系女子だ。隣の席のギャルが最近恋をしたらしい。「ホント好き~~~」という彼女の叫びになぜだか悪い汗がだくだく出る。なぜかと言えば、その対象は……他ならぬ自分だから!
勘違いの「恋」から始まったふたりの関係は、タイトルが示すとおり早々に破綻してしまう(このバレ方がめちゃくちゃに素敵なのだけど、それは読んでのお楽しみだ!)。
同級生の女子同士だとわかってから、あやとみつきはむしろ挙動不審の度合いを深める。あやに失望されたくないと逃げるみつきと、そんなみつきを臆病者と心の中で罵りながら、やっぱり声をかけられない自分だって臆病者のあや。全部なかったことにして、勘違いしていた夢の時間に戻りたい、そう思うのは、今、目の前にいる現実の相手を、本当に好きになってしまったからだと、人生のいろんな局面で身に覚えのあるわたしたちは知っている。
ドキドキしてただ楽しかった「恋」から、名づけようのなく混乱した関係に踏み出してしまった、あやとみつき。でも、お互いを大切に思う気持ちは掛け値なくほんものだ(そんなふたりの心優しい見届け人・みつきの叔父と同級生成田のナイスアシストも見所!)。
悩みながらビビりながら、手をとりあって走り始めたあやとみつきのその先を、彼女たち自身も知らない。物語はまだまだ続いてゆくからだ。爆笑したりキュンキュンしたりしているうちに、いつの間にかわたしたちも全力でふたりの後を追いかけている。男とか女とか恋とか友情とか、そんなレッテルもどうだってよくなる。目の前を疾走する彼女たちが、ただ、ただまぶしく愛おしい。頬に当たる風には、長いこと忘れていた自由の香りがする。
流れる音楽とともに作品世界を支えるのはテーマカラーの黄緑だ。黄色は「キケン」、緑は「ススメ」――誰かを心に迎え入れてしまうのは、ヤバくて危険なことかもしれない。自分が誰かの存在によって揺るがされ、変わってしまうのはおそろしいことかもしれない。それでも、勇気をもって進むのだと、この漫画は教えてくれるのだ。
(カドブン季節労働者K)