2012年に始まった静岡県内の書店員と図書館員が「静岡県民に読んでほしい本」を投票で選ぶ静岡書店大賞。今年12月5日に6回目となる大賞が発表され、同日、授賞式も開催されました。小説部門の大賞に選ばれたのは伊坂幸太郎さんの『AX アックス』。ご都合により参加できなかった伊坂さんの代わりに登壇する担当編集者のO氏とともに授賞式へ。熱気に溢れる授賞式の模様をレポートいたします。
過去最高の802名(!)が投票に参加
会場にはあふれんばかりの人・人・人。授賞式の前に行われた書店大商談会とあわせ、なんと約400名が集まったといいます。さらに驚いたのはその投票数。県内にある書店のほぼ全店が参加し、過去最高となる802名が投票。ちなみに、2017年本屋大賞の一次投票が全国446書店・564人だったことを考えると、まさに驚異の参加率と言えます。
その理由について、実行委員で同賞の発起人でもある高木久直さん(戸田書店 静岡地区エリア長)に話をうかがうと、「この賞を始める前に、参加要請のため県内の書店を一軒ずつ回りました。その際、年配の方が営む書店も多く、パソコンが使えないという声をよく聞いたので、投票はハガキでもファックスでもOKという形にしたんです。各店で投票用紙をコピーしてもらい、休憩所などに置いてもらいました。だからほとんどが手書きでの投票です。こんなにたくさんの書店と書店員が参加して決める賞は日本中どこを探してもないと誇りを持って言える。ありがたいですね」とのこと。まさに、県内の多くの書店へ出向き、さらに投票しやすい工夫をしたことが驚異の参加率につながっているのです。
伊坂幸太郎さんの手紙を代読
さて、夕刻よりいよいよ授賞式が始まり、各部門の大賞作品が発表されていきます。小説部門の受賞作として『AX アックス』がアナウンスされると、やや緊張の面持ちのO氏が登壇。実行委員から記念の盾を受け取ったO氏は、伊坂さんから預かった手紙を読み上げます。
「 『AX アックス』は5つの短編が収録されていますが、後半の2つの短編を完成させるのには1年以上の時間がかかってしまいました。どうやってこのお話を完結させたらいいのか分からなかったからです。悩んだ末に、親が子供に何かを残す話、それならば書けるのではないかと思い、このような物語になりました。完成させるまで悩みが多かっただけに、読んだ人の反応が怖かったのですが、こうして書店員の方たちに、面白い、と思っていただけて本当にほっとしています。もう少し頑張ろうと思えました。どうもありがとうございました」
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さらに、O氏が「このような賞は伊坂さんの執筆のモチベーションに繋がると思います。また、私たち出版社はよりよい本を作り、書店の皆さま、そして読者に届けたいと思います」と続けた。挨拶を終えると会場には大きな、そして温かな拍手が響きました。
伊坂さんが書いた色紙(静岡の皆さんへのメッセージと作品のモチーフになったカブトムシの絵が描かれている)をO氏から託された実行委員の山本明広さん(BOOKアマノ入野店)は、「静岡だけで開催している賞なのに、素敵な色紙まで贈ってくださって本当にありがたいし、嬉しいです。きちんと読者の方にも見せて、伊坂さんの思いを届けたいですね」と語ってくださいました。
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その他の部門の受賞作は以下の通りです。
児童書・新作部門大賞=ふくながじゅんぺいさん『うわのそらいおん』(金の星社)
映像化したい文庫部門大賞=小坂流加さん『余命10年』(文芸社)
県内図書館員が選んだ児童書・名作部門大賞=わかやまけんさん『しろくまちゃんのほっとけーき』(こぐま社)
詳細は、静岡書店大賞のHP(http://sstaisyou.eshizuoka.jp/)をご覧ください。
『AX アックス』を推した方々の熱い声
授賞式後は盛大な懇親会も開催され、出席された作家のテーブルには、サインを求める人の長蛇の列が。O氏も「伊坂さんのお手紙を見せてください!」と声をかけられたとのこと。こうして作り手と売り手が気軽に交流できるのも魅力のひとつ。また、作品の感想を直接、聞くことができるのも嬉しい。
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授賞式当日にお会いした方から頂いた声、また投票の際に寄せられた感想を以下にまとめました。熱い言葉から『AX アックス』への愛をひしひし感じます! ぜひご一読下さい。
「殺し屋の話だけど普遍的な家族の物語でもある。他人だけど家族。その距離感が心地よいです。この賞をきっかけに、普段、伊坂さんを読むことがない人が手にしてくれたら嬉しいです」(明屋書店イケヤ高林店・貝塚知香さん)
「静岡は東部、中部、西部という3つの経済圏からなり、県民性や消費者動向も異なります。それぞれの地域で老若男女からまんべんなく票を集めたのが『AX アックス』でした。誰にも真似できない伊坂さんの筆致や、温もりを感じる作風が支持された結果だと思います」(戸田書店・高木久直さん)
「恥ずかしながらこれまで『殺し屋』シリーズを読んだことがありませんでした。でも『AX アックス』だけでも十分面白かったし、予備知識がなかった分、いっそう楽しく読めました。殺し屋というくらいだから物々しい物語かと思ったらそんなことはなく、いい意味で期待を裏切られた。シリーズをさかのぼって読みたいと思います」(BOOKアマノ入野店・山本明広さん)
「恐妻家の殺し屋は、内と外ではあまりにも違いすぎるキャラだが、家族のことを思うといつまでもこの仕事をやっていられないと悩んでいる。短編だが、イッキによんでしまう伊坂ワールド」(江崎書店外商部・橋村達也さん)。
「キャラクターがとても魅力的で独特のセリフも面白く、伊坂さんの良いところがつまった作品。楽しめます」(富士市立西図書館員)
「凄腕の殺し屋なのに恐妻家。ハードな内容のはずなのに、どこかほっこりするところが好きです」(県内学校図書館員)
「人間味のあるキャラクターが織りなす物語がどんな結末を迎えるのか…。気になる一冊です」(吉見書店竜南店・大髙宏之)
「裏表のある主人公というわかりやすいエンターテインメント。『ジョン・ウィック』という映画を思い出しました」(県内書店員)
文:高倉 優子