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特集

竹林七草『警視庁呪詛対策班 出向陰陽師と怪異嫌いの刑事』刊行記念インタビュー

第六回小学館ライトノベル大賞 優秀賞を受賞しデビュー後、「お迎えに上がりました。国土交通省国土政策局幽冥推進課」シリーズで大ヒット。角川文庫からも『彼女の隣で、今夜も死人の夢を見る』で注目の作家の登場です。青春(恋愛)ホラー&ミステリ作品を多く手掛けている竹林さんの創作の裏側に迫ります。

文:角川文庫編集部

竹林七草『警視庁呪詛対策班 出向陰陽師と怪異嫌いの刑事』刊行記念インタビュー

編集部:今回の作品は初の角川ホラー文庫になります。呪いを法で裁くという斬新なアイデアですが、どこから発想されたのでしょうか。

竹林七草(以下、竹林):“呪いは犯罪にはならない”――ホラー好きであれば、誰でも一度は似た台詞を読んだり、聞いたりしたことがあると思うんですよ。私はひねくれているので、それに逆張りしてみました(笑) 実際、もし本当にわら人形に釘を打ち怪我をしたり病気になってしまったりしても、日本の法律では犯罪になりません。ですが、もし加害者が「呪ってやる」なんて口にしていたら脅迫罪に問える可能性が出てきますし、古式に則り加害者が神社の神木に釘を打っていればそれだけで器物損壊罪になりえます。呪詛そのものは罪には問えずとも、禍々しい呪詛の過程の行為は犯罪だったりすることが多いわけです。ならその盲点をついて呪詛を検挙して悪事を止める組織があったら面白いなぁと思っていたら、「呪詛対策班」なんて組織が頭の中でできあがっていました。

編集部:呪詛対策班という部署は実際にはモデルがあるのでしょうか。

竹林:厳密にモデルはありません。ですが今回、警察ものを執筆する上で警察組織をいろいろと調べてみたら、警察というのが案外にフレキシブルな組織で驚きました。警察組織の課や係というのは、各県警で自由に定めていいらしいんです。それなら独自で対策するための部署を設立していてもいいよねと思い、警視庁にはサイバー犯罪対策課があるから、だったら呪詛かなと勝手に名前だけいただきました。

編集部:今回セレクトされた「呪い」について、この呪いを選んだ理由をお教えください。

竹林:水子の「呪い」は辛くて苦しい人の心につけこみやすいからで、座敷ワラシの「呪い」はそこに簡単に人の欲望が絡むからです。犬神の「呪い」は動物の命など無視したこれぞ悪意に満ちた呪詛であり、ひどい表現ですがどれも「呪い」に振り回される人の心を描く上で適していると思ったからです。「呪い」は、ある意味で人の心が剥き出しになるものなので、これからも人を惑わして醜くさせてしまう呪詛や呪法を書いていきたいです(笑)

編集部:大庭、芦屋、楠木、小春、大釜と、魅力的なキャラクターが登場します。それぞれへの思い入れを教えていただけますか。

竹林:大庭は大柄で筋肉質でおっかない強面なのに、実は気にしいで几帳面で気配り屋でもあるところが個人的には可愛いと思っています。
芦屋は大庭の逆で物腰が柔らかいのに実は腹黒く、でも冷たそうでいても義理人情に厚く困っている人を見捨てられないところがお気に入りです。
楠木は放っておいても勝手に動いてくれるのですが暴走しがちなところが厄介で、大釜は逆に放っておくと無難に話をまとめようとしてくるのでもっと暴れろと思っています。
小春はなんというか……もっと他の者にも興味を持って物語を回してくださいと、そう思っています(笑)

編集部:それらキャラクターの中で、青春めいたというか、軽く恋愛に発展しそうなキャラクターはいるのでしょうか。

竹林:楠木に恋愛の物語のヒロインは無理です(笑) 楠木は気になる相手がいたら喧嘩してドヤ顔で論破し、家に帰ってから部屋の隅で一人膝を抱えて勝手にうじうじ落ち込むようなタイプです。ある意味で、それこそが青春である気もしなくもないですが。むしろ恋愛という観点からみたときの強キャラは小春の気もしますが……でも果たして小春の恋は実るのか? それは私も甚だ疑問です。

編集部:芦屋の背景が特に気になるのですが、陰陽師の名家出身とか? 小春との関係も注目したいです。

竹林:出身というか、タイトルに「出向陰陽師」とありますように芦屋は警視庁に請われて宮内庁から出向してきた刑事という素性です。それで宮内庁ですが……実は私、宮内庁には現在もなお“陰陽寮”があるのではないかと疑って――いや、妄想しています(笑) 日本の鎮護を担う宮中は現代でもなお多くの祭祀を日々とりおこなっています。であれば宮中の祭祀を様々な面から補佐していく“陰陽寮”が、今も密かに存在していたとしても個人的には何も不思議とは思いません。芦屋はそんな、宮内庁内の地下組織“陰陽寮”から出向してきた刑事となります。
小春は、これはもう担当さんのアイデアの賜物です。加門七海先生の近著『呪術講座 入門編』でも「猫の式神の話はほとんど聞きません。言うこときかんからですね」と書かれていましたが、それなら式神にならないはずの猫が式神になるのならそこにきっとドラマがあるはずと思い、小春と芦屋の関係ができました。ちなみに私は、式神も使役する陰陽師が猫(又)な作品でデビューした作家なので、逆に式神となった猫を書くというのはなかなかに感慨深いものがありました。

編集部:竹林さんが「怖い」と思うものはどんなものでしょうか。怖い原体験を教えてください。

竹林:私は子供の頃、家のトイレの個室のドアを閉めることもできないぐらい怖がりでした。でもターニングポイントは中学3年生のときに1年だけ住んでいた借家で、その家は夜中に水を飲みにキッチンに行くとタオル掛けが目の前で真横にぽーんと飛んでいったり、玄関の前で野良猫が死んでいた日の夜にはベッドの周りで何かがバタバタ走り回る音がしたり、階段を降りようとしたら1階に知らない女の人が立っていたのになんでか親戚の人だと思って安心したり――そんなことが日常茶飯事に起きる家でした。それらはみんな怖いんですが、なんというか妙に癖になってしまったんですね。あの家での体験が、私がホラーに惹かれる原点になったように思います。よく言われる「人が一番怖い」ってのは、人外と出逢ったことがないがゆえのロジックだと勝手に思っています(笑)

編集部:竹林さんのお好きなホラー作品について、ベスト3作品をその理由と共に教えてください。小説でも映画でも漫画でも構いません。

竹林:一つ目はホラーの金字塔、鈴木光司先生の『リング』です。もちろん角川ホラー文庫の原作小説も読んでいますが、最初に映画版の『リング』を観た衝撃は一生忘れません。映画館で二回目を観たときも、怖さのあまり頭痛がしました。もちろん貞子がテレビから出てくるシーンも震えましたが、それ以上に私が恐怖したのは主人公である浅川の息子の陽一が呪いのビデオを見るシーンです。あのとき陽一は「だって、ともちゃんが見ろって」と言うのですが、そのともちゃんというのは映画の冒頭で貞子に呪い殺された犠牲者なんですね。貞子自身ではなくて、貞子に呪い殺されたはずの女子高生が悪霊となって貞子の呪いに協力している、視えない世界のパワーバランスのようなものがたった一言から滲み出ていて、今でも強烈に脳裏に焼き付いています。
二つ目は、最近メディアワークス文庫からも新装版が出ましたが、ライトノベルレーベルである電撃文庫から出ている甲田学人先生の「Missing」シリーズです。この作品は、個性豊かな文芸部の面々が在籍する高校で、民俗学やオカルトを題材にした怪異が次々と起きます。特徴的なのは文芸部の面々はあまり怪異に対抗する手段がなく、怪異は巻が進むごとにひたすら悪化していくんです。これは甲田学人先生の作品全体の特徴ですが、登場人物たちが驚くほどあっさり死んでいくその容赦のなさと、でもそれでいてライトノベルとして成立しているキャラ立ちと読みやすさがあり、心の底から没頭した作品です。数年前、まだ小学生だったときの娘が私の本棚から勝手に引っ張り出して夢中で読んでいたことからも、年齢問わず恐怖を楽しめる作品だと思っています。
三つ目には、2022年に角川ホラー文庫より新装版が出た郷内心瞳先生の『拝み屋怪談 花嫁の家』を推します。実は私はMF文庫ダ・ヴィンチ版をまったく知らなかったのですが、あとから「怖いぞ、あれは怖いぞ」という話だけはあちこちで目にするようになっていて、角川ホラー文庫から「いよいよ出るぞ」という話を聞いたときに、だったらとそこから「拝み屋怪談」シリーズを順番通りに読んでみたんですね。……ほんと『花嫁の家』は噂に違わず震えました。収録された二編はともに気が遠くなりそうなほどに因業深い話なのですが、でも実話ならではのとんでもない生々しさがあります。面白くてたまらない作品なのですが、しかし郷内先生の作中の話を読むとこの本を手元に置いておきたくなくなります(笑) それぐらい怖いお話です。

編集部:本作を読んで竹林さんの他の作品にも興味を持った方に、自作をすすめるとしたら、おすすめの読む順番はありますでしょうか。
 
竹林:そうですね……順番というか、本作を読んで1話目を一番面白いと思ってくださった方には『ヒルコノメ』(二見ホラー×ミステリ文庫)をすすめさせていただきます。『ヒルコノメ』は死にいたる怪異から逃れるため、記紀にまつわるある秘密を暴いていくホラー作品で、1話目の民俗学的な部分を気に入ってくださった方には楽しめると思います。
2話目が一番楽しかったと思ってくださった方には「お迎えに上がりました。」シリーズ(集英社文庫)を推させていただきます。国土に居座った地縛霊を現世から立ち退きさせるという国土交通省の課に雇われた職員が主人公の作品であり、検察官としての知識と経験でもって怪事件を解決しようとする楠木の姿勢と被るものがあります。
3話目が一番好きだと思ってくださった方には『彼女の隣で、今夜も死人の夢を見る』(角川文庫)が楽しんでもらえると思います。青春ホラー・ミステリをうたった『彼女の隣で、今夜も死人の夢を見る』は神隠しが原因で怪異に悩まされる女子を、霊の死を追体験する男子が謎を暴いて助ける物語です。自意識をこじらせた二人と、それからちょっとグロめの表現があることからも面白く読んでいただけるはずです。


――大変面白いお話をありがとうございました!!

作品紹介



警視庁呪詛対策班 出向陰陽師と怪異嫌いの刑事
著者 竹林 七草
発売日:2024年04月25日

呪いで殺人は合法? 超常現象による犯罪を法で裁くオカルトミステリ!
法の上では存在しないものである「呪詛」や「呪術」は、それがどれほど悪辣なものであっても決して罪に問われることはない。だがもしも呪法や憑物、生霊といった加害者が存在する超常現象に、本当に人を害する力があったとしたら、善良なる被害者は泣き寝入りするしかないのか? そんな理不尽に対抗するため非公式に設立されたのが『警視庁呪祖対策班』--通称「呪詛対」。怪しい響きの通り、警察署でも知る人ぞしる組織だ。家屋の敷地に勝手に(呪いの)土器を埋めた者がいれば、家宅不法侵入並びに器物損壊罪。閉じ込めた蛇に共食いさせ蠱毒を仕掛ける者がいれば、動物愛護管理法違反。怪異を憎むがゆえ、霊的なものを受けつけず、怪異嫌いの堅物刑事の大場と、宮内庁より出向中の元陰陽師刑事の芦屋(と式神の白猫の小春)のバディが、「呪法の悪用」を見抜き、事件として立件!

詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322308001308/
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