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特集

今月のおすすめ文庫「ホラー小説」 『すみせごの贄』発売記念!澤村伊智が語る、ホラーの魅力一問一答!

取材・選・文:皆川ちか

毎号さまざまなテーマをもとに、おすすめの文庫作品を紹介する「今月のおすすめ文庫」。今月は日常に潜む怪異や恐怖に焦点を当てたホラー小説をご紹介!
ゾクッとするような情景描写にもぜひ注目を。
また、2024年3月22日に『すみせごの贄』を発売した澤村伊智さんに、本作について、またホラーの魅力について一問一答形式でご回答いただきました。

今月のおすすめホラー小説

『すみせごの贄』澤村伊智(角川ホラー文庫)



料理教室を営む老父がある日突然姿を消し、心配する娘の前に人気の料理研究家が現れる表題作をはじめ、大人気比嘉姉妹シリーズの短編集第3弾。中学生の少年と共に取材旅行へ赴く野崎、老舗の温泉旅館に閉じ込められてしまった琴子、バーの客が遭遇した怪異の謎に挑む真琴。短編ならではの凝縮された恐怖6編を収録。

『ぼっけえ、きょうてえ』岩井志麻子(角川ホラー文庫)



明治時代。とある遊廓で醜い女郎が寝物語に、客に乞われるがままに身の上を語る。極貧の村に生まれ、幼少期から母親を手伝い赤ん坊を間引き、ついには廓へ売られて――全てを語り終えたときに客が知る、その女郎の秘密とは? 第6回日本ホラー小説大賞を受賞した怪談小説の新たなる古典。岡山弁の語り口が恐怖を増幅させる。

『残穢』小野不由美(新潮文庫)



著者自身を思わせる作家の“私”の元に、読者から届いた手紙。そこには引っ越してきたばかりの部屋で奇妙な音が聞こえるという不思議な体験が綴られていた。それについて調べ始めた“私”は、その地域一帯に穢れが根づいていることに行き着く――。ルポルタージュの形式で恐怖の伝播を探索するドキュメンタリー・ホラー。

『独白するユニバーサル横メルカトル』平山夢明(光文社文庫)



タクシー運転手に仕える“私”ことメルカトル地図帳。実は連続殺人鬼であるご主人様は、夜な夜な女性客を殺害しては“私”のナビを頼りに死体を遺棄していた。“私”たちの蜜月はいつまでも続くかに思えたが……。地図の視点からシリアルキラー親子の顚末を綴った表題作をはじめ鬼才・平山夢明の独創性が炸裂する短編集。

『変な家』雨穴(飛鳥新社)



知人が購入を検討している中古の一軒家は、間取りがどこか変だった。謎の空間に二重扉、そして窓がない独房のような子ども部屋。オカルトライターとミステリー愛好家の設計士は、その家を調査するうち不可解な事件に巻き込まれる……。映画化もされて話題沸騰! YouTuber兼ホラー作家、雨穴の大ヒット間取りホラー・ミステリ。


『すみせごの贄』発売記念
澤村伊智さんインタビュー

 最恐にして最凶のデビュー作『ぼぎわんが、来る』をはじめ、数々のホラー小説で読者を震えあがらせてきた澤村伊智さん。比嘉姉妹シリーズの最新作『すみせごの贄』は、姉の琴子、妹の真琴、真琴の夫でオカルトライターの野崎といったおなじみの面々が様々な怪異に臨む短編集。本作の舞台裏を中心に一問一答形式でお話をうかがいました。



――民間伝承を扱った土俗ミステリ「たなわれしょうき」、都市伝説と怪談をミックスさせた「火曜夕方の客」と、いろいろな恐怖が詰まっています。それぞれの作品の舞台裏をお聞かせください。

澤村:「たなわれしょうき」……掲載誌(『怪と幽』vol.007)が民話特集をするので、それに合わせて民話を題材としました。現代の創作物とは異なる民話の手触りを創作で再現する、という無茶な試みをしてみたかったのです。

「戸栗魅姫の仕事」……メディアで顔を売る偽物の霊能者だからこそできる「正しい行い」とは何か? を考えながら書いた作品でした。

「火曜夕方の客」……有名な怪談「飴買い幽霊」の、辻褄の合わない点について考えていたらできました。間借りカレー店を舞台にしたのは、高円寺に住んでいた頃、近所にとても美味しいカレーの店があって印象に残っていたので。

「くろがねのわざ」……これも掲載誌(『怪と幽』vol.013)が特撮特集をするので、それに合わせて考えたお話です。作中に出てくる「バーで特撮談義に夢中になりすぎ、居合わせた人を閉口させてしまう」という経験は、若い頃に何度かしたことがあります。

「とこよだけ」……担当編集者に「映画『マタンゴ』(注1)をオマージュした作品を」と注文されて。執筆に当たって原典であるホジスンの「闇の声」(注2)(別題「夜の声」など)を久々に読み返したのですが、大変面白かったです。

「すみせごの贄」……料理教室を舞台にした密室劇を前から書きたかったので。作中で言及される「餅なし正月」は小学生の頃に読んだ昔話でなんとなく知っていたのですが、こんなところで小説の素材になるとは思わなくて。書いていて自分でも驚きました。


――「死んだ人をどう物語で書くかは簡単なようで難しい」と、以前あるインタビューで語られていますが、死者を描く際にどんな点を大切にしていますか?

澤村:「死者を生者にとって都合のいい存在にしてはいけない」と「死者を単なる怪物にしてはいけない」の間で綱引きをしている感じです。


――圧倒的な動じなさが頼もしい琴子。危なっかしさが魅力ともなっている真琴。比嘉姉妹を書くうえで大事にしている部分は?

澤村:「琴子や真琴の一人称の話は書かない」「霊能力(者)を万能にしない」の二点は、ずっと守っています。


――比嘉姉妹と野崎を何年も亘って書き続けていくなかで、どんなところにキャラクターの変化や成長を感じていますか?

澤村:自分ではよく分かりませんが、シリーズを通読してくださる方には『ぼぎわんが、来る』で同窓会に呼ばれることを嫌悪していた野崎が、『ばくうどの悪夢』で別の同窓会に喜んで参加し、旧友を「呼ぶ側、誘う側」になったことに変化と皮肉を感じていただけるといいな、と思っています。


――『とこよだけ』での「ギリで人の形した」や、『すみせごの贄』での「棒みたいな人」など、不気味なものを表す言葉の絶妙さに、ぞっとしました。恐怖を喚起させる表現や、恐怖の伝え方のコツというものはありますか?

澤村:毎回手探りなので、コツというものが存在するのなら教えていただきたいほどです。


――ホラーとミステリの配分や塩梅で気をつけている点、難しい点をお聞かせください。

澤村:ホラーかミステリかホラーミステリか、というジャンル分けより「怖くてびっくりして面白い」小説であることを大切にしたいと思っていますが、大切にしたいと思ったくらいで書けたら苦労はないので、毎回頭を悩ませています。


――澤村さんの作品は恐怖を通して家族や親と子の在り方、関係性について問いかけているように感じられます。

澤村:狭いコミュニティ全般が内包しがちな醜悪さには興味がありますが、特に家族について書きたいと思ったことはありません。家族はよくも悪くも使い勝手のいい題材だと捉えています。


――表題作「すみせごの贄」は、過去作『ずうのめ人形』などにも登場する料理研究家・辻村ゆかりが探偵役を務めています。この作品を表題作に選んだ理由は?

澤村:比嘉姉妹の登場する短編がある程度集まったので、姉妹の出てこないものを表題作にしました。辻村ゆかりは大変フィクショナルな人物ですが、「人間なんて所詮こんなものだろう」という私の実感も色濃く反映されている気がします。


――最後に、澤村さんにとってホラー作品の原体験となった小説、マンガ、映画などはなんでしょうか?

澤村:それぞれ以下になります。
小説:フレデリック・マリヤット『人狼』(注3)、S・H・アダムズ『テーブルを前にした死骸』(注4)の児童向け翻訳
マンガ:日野日出志『恐怖のモンスター』(注5)
映画:『バタリアン』(ダン・オバノン監督/脚本)(注6)

『マタンゴ』(注1):
豪華ヨットでクルーズを楽しんでいた若者たちは、嵐に遭遇して無人島に漂着。その島には不気味なキノコが生息していた。やがて食料が尽き、彼らはひとり、またひとりとキノコを口にしてゆき……。星新一と福島正実の原案を、『ゴジラ』の本多猪四郎監督と円谷英二特技監督の黄金コンビで映画化した怪奇ホラー。
「闇の声」(注2):
怪奇小説や海洋冒険小説で知られるイギリスの作家、ウィリアム・H・ホジスンの短編。闇夜のなか海上を漂うボートから聞こえてくる奇妙な声が語る、ある無人島での怪異とは――。ホジスン『夜の声』(創元推理文庫) 、アンソロジー『怪獣文学大全』(河出文庫)などに収録。
「人狼」(注3):
不貞を犯した妻とその相手を殺した父親に連れられ、山中で暮らす三人きょうだい。ある日、父親はトランシルヴァニアから逃亡してきた父娘を保護し、その美しい娘クリスチーナと結婚する。しかし彼女は残忍な性質を発揮して子どもたちを虐待するように……。“人狼”をテーマにした古典的名作の一つ。『怪奇小説傑作集2 英米編Ⅱ』(創元推理文庫)に収録。
「テーブルを前にした死骸」(注4):
山岳地帯での作業中、吹雪に巻き込まれた二人の測量技師。山小屋に避難するも、うちひとりは肺炎にかかって死んでしまう。残された男は相棒の遺体を埋葬するが、翌朝、その遺体はテーブルの前に座っていた……。雪山遭難ホラーの名作として名高いS・H・アダムズの代表作。『怪奇小説傑作集2 英米編Ⅱ』(創元推理文庫)に収録。
『恐怖のモンスター』(注5):
天才科学者・腐乱犬酒多飲博士が深海魚の死骸から生みだした人造人間(モンスター)。その特異な外見のために人間たちから迫害され、怒りと悲しみに突き動かされて人類に宣戦布告。東京を破壊し尽くすが……。日野日出志のワールドが炸裂した異形系ホラー。
『バタリアン』(注6):
人間の脳を求めて怪物たちが暴れまわるホラーコメディ。『エイリアン』『トータル・リコール』の脚本家、ダン・オバノンの監督デビュー作。ゾンビホラーとスプラッターとコメディを融合させ、過剰な人体破壊描写やテンションの高いストーリー、悪趣味すれすれのブラックユーモアが絶妙なバランスで調和。第5作まで製作された。

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