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特集

「食べていける芸人もそうでない芸人もみんな舞台に立ちたがる」 「ナイツ」塙宣之が語る初監督作「漫才協会 THE MOVIE 舞台の上の懲りない面々」

お笑いコンビ「ナイツ」の塙宣之が、映画監督デビューを果たす。彼が漫才コンビを結成したのは約24年前。昭和を代表する漫才師・内海桂子に師事し、「漫才協会」に入ったことで人生が変わったという塙が、協会の所属芸人を追いかけるドキュメンタリーを作った。東京・浅草にある演芸場「東洋館」を拠点として、さまざまな芸人たちがなぜ舞台に立ち続けるのかを追ったドキュメンタリー映画からは、塙の計り知れない漫才愛が感じられる。また、映画同様の熱量で著書『劇場舎人 ずっと売れたい漫才師』(KADOKAWA)も執筆した彼。今回はインタビューで映画製作への想いを聞いた。

文/松本まゆげ

「いつか大逆転する日があるんじゃないかと夢見て、舞台を辞められない」
「ナイツ」塙宣之が語る初監督作「漫才協会 THE MOVIE 舞台の上の懲りない面々」

伝えたかったのは漫才協会所属芸人のカルマ


――塙さんが映画監督をされたという一報を聞いた時は驚きましたが、まずなぜ映画を製作することになったのか、その経緯を教えていただけますか。

塙宣之(以下、塙):映画の話をもらったのは、もう2年ぐらい前ですかね。「やりませんか?」と声をかけてもらって、面白そうだったので受けることにしました。漫才師は、年をとるにつれてだんだんと題材がなくなり、漫才が作れなくなってくるんですよ。だから、ネタを作るうえでもいろんな経験をしたほうがいいんだろうなとは常々思っているんです。以前にドラマに出演したのもその一環だったんですが、今回の映画監督という経験もあとで活きてくれば面白いなと。


――ベテランから新人まで、多くの浅草芸人が登場しています。塙さんは、彼らのどういう部分を伝えたかったのでしょうか。

塙:東洋館は借りている場所なので、極端なことをいうと東洋館以外の場所でやったっていいわけですよ。だけど、浅草芸人はあの場所に惹かれるし、浅草が良いと思っている。それってきっと、浅草という街自体にパワーがあるのと同時に、東洋館の舞台がパワースポットみたいになっていると思うんです。もしかしたら、あの場にいることでお客さんよりも芸人のほうが元気になっているかもしれない。なので「なぜ東洋館の舞台に立つんですか?」を、いろんな芸人にインタビューするというドキュメンタリーにしたいと思いました。


――浅草の舞台に立つ漫才協会所属芸人さんたちの、リアルな思いが詰まっているんですね。

塙:そうですね。で、芸人を辞められなくなってしまった人たちの……末路を見ていただければ。いろんな漫才中毒の人たちがいる施設のドキュメンタリーみたいな感じですよ! なんとか辞めさせたいんですけど、辞めてくれないんで(笑)。


――そんな思いも込められていると。

塙:若手にもよく言うんですけど、やっぱりスパッと辞められる人のほうが社会で通用したりするんですよ。だけど、そううまく辞められない人もいる。じゃあなぜ辞めないのかというと、「いつか大逆転するんじゃないか」という思いがどこかにあるからなんです。だから面白い。多分……前世も師匠だった人もいるんじゃないかなと思いますもん(笑)。もはやカルマですよ。だからこの映画は「令和版カルマの法則」だと思っていただけたら。


映画にも書籍にも登場する個性豊かな師匠たち


――映画のなかでクローズアップされていた芸人さんたちの日常、とても興味深く拝見しました。出演者はどのような基準で決めたのでしょうか。

塙:映像化する際に、非日常を生きている人じゃないと印象に残らないだろうなという商業的な考えは正直ありました。たとえば右腕がなくなってしまっても舞台に立ち続ける大空遊平師匠とか、離婚してもなお元夫婦でコンビを組み続けるはまこ・テラことか、異例じゃないですか。


――たしかにいろいろな芸人がいるなと思いました。監督として、企画や編集などにも携わったかと思いますが、特に苦労したことはありますか。

塙:そもそも「漫才協会の映画って何?」と、構想段階から全くまとまらなくて大変でした。その頃ちょうど、ニューヨークが「ザ・エレクトリカルパレーズ」という芸人たちのドキュメンタリー映画をYouTubeで公開してバズッていたんです。僕も好きだったので、そのパロディとして、1960年代に活躍した漫才コンビ「晴乃チック・タック」を取り上げようと思ったんですよ。どの師匠に聞いても「一番人気があってすごかった」「最大瞬間風速が吹いていた」とか答えるんだけど、僕らの世代は当時を知らないのでピンと来ない。だからいろんな師匠にインタビューして、晴乃チック・タックを浮かび上がらせる映画にしようと思ったんです。


――最初はそこから始まったんですね。

塙:そう、だから漫才協会全体を取り上げるというよりは、昔の漫才協会にいたスーパースターを取り上げるつもりでした。ただ、当時のことを語れる師匠が少なくて、5分ぐらいの映像しか撮れなくて全然映画にならなかった(笑)。でもインタビュー素材だけはめちゃくちゃあるから「これ、どうしましょうか?」と。そこで、「じゃあ漫才協会の映画にしましょうか」という感じになりました。


――また、今回の映画公開と同時に著書『劇場舎人 ずっと売れたい漫才師』も発売されます。こちらにも、師匠たちのエピソードがしたためられていますね。

塙:僕は、テレビ番組で漫才協会の師匠のエピソードトークをよくしていますけど、師匠たちがお亡くなりになってきているので、このあたりで1冊の本にまとめる機会があったらいいなとは思っていました。映画製作と同時期の執筆で大変でしたが……今、形に残すことができてすごくよかったなと思っています。


――この本では、ほぼ網羅しているのではないかというくらい、数多くの師匠が登場しますね。

塙:そうですね。基本的には、昔の自分が言ったエピソードトークを思い出したり、昔の連載原稿を洗い出して書いています。この本を書いていた2023~2024年の自分が思っていることを、無理なくまとめるのが一番だと思っていました。僕が昔出した本に書かれている漫才の価値観と、今の価値観は全然違う。人の考えやものの見方って都度変わっていくものだから、いろいろ考えすぎずに書きました。

浅草の師匠やテレビ界の先輩から受けた影響


――ところで塙さんご自身、初めて東洋館の舞台に立った日のことは覚えていますか。

塙:いやぁ、正直何のネタをやったのか全く覚えてないですね! 持ち時間が15分あったから、5分のネタを3本やったのは覚えていますけど、それくらい。


――では、当時の東洋館周辺の印象は覚えていますか。

塙:当時はまだドン・キホーテもなかったし、今ホテルが建っている辺りなんて、昔はピンク映画の映画館があって、寂れた街でした(笑)。つくばエクスプレスも当然ないですから、浅草駅のほうは人がいるけど、こっちは人がまばらという状況。「捕鯨船」(ビートたけし『浅草キッド』にも登場する居酒屋)は当時からありましたけど、あの前の通りが今みたいにきれいに整備されていなくて、本当に誰もいませんでした。東洋館も、お客さんがとにかく少なかったんですよ。平均で5、6人しかいなくて、しかも誰も漫才を聞いていないんです。


――そうだったのですね。

塙:正直、良い印象は全くなかったです。でも、今思うとすごい人がたくさん出ていたんですよ。コロムビア・トップ師匠とか、Wけんじの宮城けんじ師匠とか。コロムビア・トップ師匠なんて、天下を獲ったのに、たった5人くらいのお客さんの前に出ていくから、当時の僕は“コロムビア・トップって誰だよ!”と思いながら舞台袖で音響をやっていたんです。でも、師匠のお葬式をした時にたくさん人が来たんですよ。元議員まで来て、本当にすごい人だったんだって、その時に初めて知りましたね。


――浅草の師匠たちから影響を受けた部分も大きいと思いますが、過去のインタビューではドリフやダウンダウンさんが好きだったとも語っていました。こういったルーツは、今ナイツさんのネタに根付いているものなのでしょうか。

塙:結局、ネタは全然別になっちゃいますね。ドリフとかダウンタウンさんを観て「お笑いっていいな」と思ったのは間違いないんですけど、それはきっかけに過ぎない。自分の骨格や考えに合わせていくと、同じにはならないんですよね、やっぱり。僕は、大学の落研に入ってから漫才のネタを作るようになったので、その時の教材になった漫才からは影響を受けているとは思います。教材は主に落研の部室にあったビデオで、くりぃむしちゅーさん(当時は海砂利水魚)とか爆笑問題さんを参考にしていました。だから初期の頃は、爆笑さんの太田(光)さんっぽいボケ方が多かった気がしますね。


塙自身が師匠になり“変化”したこと


――そして現在の塙さんは、漫才協会の会長をこなすだけでなく、お弟子さんをとっているとのこと。お弟子さんがいることで変わったことはありますか。

塙:やっぱり全然違いますよ。悩み事も増えますし。子を持つようなものですから。


――「夫婦のよう」とも言われるコンビ関係とはまた違うんですね。

塙:ですね。売れてもらいたい気持ちはありますけど、教えることがとても難しい職業なので、どうしたらいいのかなと悩むばかりです。強く言いすぎたらいけない時代ですし、若い感性も大事にしなきゃいけないし。でも、かといって何もしないっていうのが一番かわいそうなので、ネタ見せを定期的にやっています。「毎週、新ネタを5本書いてきな」と言って。最近は僕の都合で月一くらいになっちゃっていますけどね。


――週5本って、すごく多いですよね。

塙:イチロー選手がこの前、強豪校の生徒に「今の時代は周りが厳しくできないから、自分でキツくするしかない。逆に大変だよね」と話していたんです。芸人もそう。結局みんな自分に甘いから、自分で考えたルールで芸人をやっていて、追い込まないんです。ちゃんと管理する人がいないと、成長しないんですよね。だから僕も、弟子を成長させるために何をすべきかは常に考えています。週5本は確かにキツいと思うけど、本人たちはそれが嬉しいみたいです。まだ模索中ですけど、本人たちのためになればいいなと思ってやっていますね。


――お弟子さんをとったことで、ナイツの芸に返って来ているものはありますか。

塙:やはり、弟子を持つのは本当に大変だけど、その大変という思いが芸の肥やしにもなっているのかなと。面白くなっているかというと……それはまた別の話だと思いますが(笑)。もし弟子のいない生活を送っていたら、「俺は今、あんまり面白くないな」「刺激がほしいな」と思っていたかもしれないですね。


――そのお弟子さんも出演している「漫才協会 THE MOVIE」。この映画で、漫才協会の認知度はまた上がるでしょうね。

塙:もちろん、そのために映画を作りましたから! 僕、自分のことを漫才協会の会長というよりは宣伝部長だと思っていて、漫才協会の宣伝になることなら何でもやりたいんです。「M-1グランプリ」の審査員をやっているのもそうですよ。「M-1」は僕のことを“漫才協会の会長”と必ず紹介してくれるので、宣伝効果が抜群。正直、あれのためにやっているみたいなところはあります(笑)。今回の映画も、いろんな人が漫才協会を知るきっかけになったらいいなと思います。

プロフィール

塙 宣之(ナイツ)
マセキ芸能社所属。00年、ツッコミの土屋と漫才コンビ「ナイツ」を結成。内海桂子の弟子として活動。03年、漫才協団(現・漫才協会)・漫才新人大賞受賞。08年、お笑いホープ大賞THE FINAL優勝&NHK新人演芸大賞受賞。M-1グランプリでは08年〜10年まで3年連続で決勝進出。THE MANZAI2011準優勝。07年6月、史上最年少で漫才協会の理事に就任し、18年にはM-1グランプリの審査員を務める。19年には自身が考える漫才論を書いた書籍『言い訳 関東芸人はなぜM-1で勝てないのか』を出版。落語芸術協会、三遊亭小遊三一門として寄席でも活躍中。平成25年度文化庁芸術祭 大衆芸能部門 優秀賞受賞。第39回浅草芸能大賞 大賞受賞(22年度)。そのほか、文筆活動やドラマ・舞台でも活躍中。

作品情報



ナイツ 塙宣之第一回監督作品
「漫才協会 THE MOVIE 舞台の上の懲りない面々」
ナレーション:小泉今日子/ナイツ 土屋伸之
出演:青空球児・好児 おぼん・こぼん ロケット団 宮田陽・昇 たにし U字工事 ねづっち 大空遊平 はまこ・テラこ 錦鯉 他
配給:KADOKAWA 

3月1日より全国公開
https://mankyo-the-movie.com
©「漫才協会 THE MOVIE 〜舞台の上の懲りない面々〜」製作委員会

書籍情報



『劇場舎人 ずっと売れたい漫才師』
著者:塙 宣之
定価:1,760円(本体1,600円+税)
3月1日発売
https://www.kadokawa.co.jp/product/322306000291/

師匠方を時に尊敬し、時に反面教師にし、僕は「芸人」になりました――
20年前、渋々入った漫才協会で人生が変わった――。
ナイツ塙さんによる、漫才の「舞台」に立つ芸人について綴ったノンフィクション。
2023年6月に漫才協会の7代目会長に就任された塙さんは、数々のバラエティ番組にて漫才協会で出会った師匠方を紹介してきました。東洋館の寄席に出演している師匠たちはテレビに出演することがほとんどなく、さらに舞台だけで生活をしている芸人はごく一部です。また、テレビに引っ張りだこでどんなに忙しくても、新ネタを作って定期的に舞台に上がる芸人もいます。なぜ彼らは舞台に立つのか――。塙さんにしかできない、独自の視点で紐解きます。これまで出会った師匠とのエピソードをはじめ、浅草のお笑いについて、塙さんが漫才協会で行っている改革、若手やテレビで活躍している人気芸人にも触れ、「舞台の魔力」に迫る1冊です。

※画像は表紙及び帯等、実際とは異なる場合があります。


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