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特集

『魔女の宅急便』『小さなおばけ』シリーズ作者のドキュメンタリー映画「カラフルな魔女〜角野栄子の物語が生まれる暮らし〜」宮川麻里奈監督インタビュー

魔女の宅急便』の作者として知られる、児童文学作家・角野栄子の日常に4年にわたって密着したドキュメンタリー映画が公開される。さらに今月、角野栄子の人生と言葉に迫る、映画オフィシャルブック『カラフルな魔女 角野栄子の物語が生まれる暮らし』も刊行。角野作品のファンはもちろん、映画で彼女の魅力にハマった方は必携の一冊だ。
本作で、角野栄子の88歳にしてパワフルだけど気張らない生活と、かわいくてユーモアたっぷりな人柄を映し出したのは、NHKで人気番組を手掛ける宮川麻里奈監督。今回は、映画の公開&オフィシャルブック刊行に際して、その製作秘話を監督にお聞きした。

文/奥村百恵


「誰にでも魔法は1つだけはある」。映画「カラフルな魔女〜角野栄子の物語が生まれる暮らし〜」宮川麻里奈監督インタビュー

角野さんほど「撮りがいのある人」はいない


――本作は2020年から2024年にかけてNHK Eテレで全15回にわたり放送中の角野栄子さんのドキュメンタリー番組をもとに、新たに撮影した映像を大幅に加えて構成した作品になります。最初にEテレでドキュメンタリー番組を作られたきっかけから教えていただけますか。

宮川麻里奈監督(以下、宮川):30代は子育てと仕事の両立で怒涛のような日々が過ぎ、40代になってからはプロデューサー(制作統括)として「SWITCHインタビュー 達人達」という番組を立ち上げ、その後も「あさイチ」、現在も担当している「所さん!事件ですよ」など、無我夢中で番組を作り続けてきました。50歳を前に、ふと、「地に足のついた、スタイルのある暮らしを見つめる番組を作りたいな」と思い始めたんです。じゃあ誰を撮ろうかと考えた時に、角野栄子さんの顔が思い浮かびました。
10年ほど前にインタビュー記事を読んで、角野さんが1950年代のまだ日本人が自由に海外に出られなかった時代、24歳でブラジルに渡り2年暮らした経験があることを知って、なんてぶっ飛んだ方なんだろう!と(笑)、強く印象に残っていたからです。


――番組出演の相談に行かれる際にある本を読んで行ったそうですね。

宮川:『魔女の宅急便』が生まれた魔法のくらし 角野栄子の毎日 いろいろ』(KADOKAWA)という、角野さんのライフスタイル本が出ていることが分かって。手に取った瞬間、「これは絶対、番組になる!」と確信しました。あのいちご色のインテリアの家。カラフルな着こなしが、実は全部同じ形のワンピースをベースにしていること。決して高価な、ぜいたくな物に囲まれているわけではないのに、実に楽しく心地よさそうで。さりげない暮らしのディテールがものすごく素敵だなと思いました。



――実際に角野さんに会われてみていかがでしたか。

宮川:想像以上に素敵な方だなと初対面の時から感動しました。頭の回転が早くて、チャーミングでユーモアがあって……。一緒にいると本当に楽しくて、「惚れて」しまいました。長くおつきあいしてきましたが、下町っ子らしくサッパリしていて、言いたいことはハッキリとおっしゃるし、裏表がなく本当に気持ちのいい方なんです。そしてやはり作家だけあって、毎回はっとするような、心に響く豊かな言葉が飛び出してくる。こんなに撮りがいのある方はそうそういまいと、何度も思いました。


――映画化が決まった時はどのような心境でしたか。

宮川:通常、Eテレの番組であれば普通のハイビジョンカメラで撮るのですが、角野さんに関しては、最初から4Kで、しかも質感のある映像が撮影できるカメラを使って撮り始めました。頭のどこかで、「こんな素敵な人だから、いつか映画化できないかなあ」と夢想していたんです。でも、まさか本当に映画化が実現するとは思っていませんでした。映画プロデューサーの山田駿平さんからオファーをいただいたときは、夢かと思いました(笑)。
でも、いよいよ正式に映画化が決まってから、「これは大変なことになったぞ」と。というのも私自身、学生時代は映画館で年間200本くらい観ていた時期もあったくらい映画好きなのですが、映画というのは才能がある監督が作るものであって、自分が監督を務める日が来るだなんて考えたこともなかったからです。それでまずは、高齢の女性を主人公にした世界各国のドキュメンタリー映画を、片っ端から観てみることにしました。


――どういったドキュメンタリー映画をご覧になったのでしょうか。

宮川:ファッショニスタとして有名な高齢女性とか、さまざまなジャンルの芸術家、田園生活を実践する人、著名なコレクター、などなど……。どれもそれぞれに興味深く面白かったのですが、結論として、「大丈夫だ!」と思いました(笑)。何しろ角野さんは圧倒的に魅力的で、世界レベルで見てもこんな被写体は稀有だ、と思ったからです。これまで、30年間NHKであらゆる方を取材してきましたが、こんなに心から「大好き」と思えて、私自身も無理なく自然体で接することができる方と出会えたことは、幸運以外の何ものでもないなと思います。


角野さんの家を訪れてきたルイジンニョ

「ドキュメンタリー」と「フィクション」の両面を持つ劇映画が好き


――起承転結のある劇映画と違い、ドキュメンタリーはクライマックスや落としどころをどこに持っていくのかが難しく、悩まれたかと思います。今回、密着取材の期限が決まっている中でどのように着地点を決めていかれたのでしょうか。

宮川:映画について角野さんと雑談していた時、ご本人が「ルイジンニョを呼ぶのはどうかしら!?」と言い出したんです。ルイジンニョさんというのは、角野さんのブラジルでの経験をもとにしたデビュー作『ルイジンニョ少年 ブラジルをたずねて』(ポプラ社)の主人公。「最近60年ぶりに消息が分かったのよ」と聞いていましたから、再会はドラマティックだなと思いました。とはいえ、何しろ会うのは60数年ぶり、少年だったルイジンニョさんも70代半ばになっています。その後歩んだ人生によっては、角野さんの思い出の中の活き活きした少年とは全く別人のようになっている可能性だってあります。こちらで連絡を取ったところ来日を快諾してくださいましたが、予定の1か月前に病に倒れたという知らせが……。大きな手術を受けることになったと聞いて、一時は諦める覚悟をしました。本当にぎりぎりまで無事に来日できるか分からず、ハラハラし続けた結果、あの再会シーンが実現したわけです。
お会いしてみたら、ルイジンニョさんは物静かながらも、常にユーモアを忘れぬ紳士。そして必ずちょっと詩的な表現をされるんですよね。当時は11歳の少年だったとはいえ、こういう方だからこそ、後に世界的児童文学作家になる角野さんと響き合うものがあったんだなと、心から納得しました。


――作中では「もしブラジルに行かなかったら、もしルイジンニョに出会っていなかったら、私は作家になっていなかったかもしれない」と角野さんは語るほどですよね。ルイジンニョさんは角野さんと一緒に2023年11月にオープンした「魔法の文学館」こと江戸川区角野栄子児童文学館を訪れていましたが、さぞかし驚かれたのではないでしょうか。

宮川:ルイジンニョさんにしてみれば、角野さんから60年ぶりに連絡が来て「私、作家になったのよ」と言われても、ピンとこなかったかもしれません。『魔女の宅急便』がブラジルを含む世界16か国で翻訳されているとか、ジブリ映画が世界中で大人気だとか、「児童文学のノーベル賞」と言われる国際アンデルセン賞をとった、と聞いて、「へえー」とは思われたでしょうが。でも実際に「魔法の文学館」を訪れ、あの空間を目の当たりにして初めて、「こんな文学館が建ってしまうほどすごい作家なんだ」と実感されたのではないかと思います。その感動があったからこそ、本作でルイジンニョさんから「僕もこの世界観の一部だなんて信じられない」「来館した一人ひとりが栄子の一部を持って家に帰るんだね」といった名言が出てきたのではないでしょうか。



――角野さんの言葉も素敵でしたし、ルイジンニョさんの言葉も心に響きました。人間の過去と現在の姿や、その被写体の人生観がさまざまな感動をもたらしてくれるところがヒューマンドキュメンタリーの魅力でもあると思いますが、監督にとって「ドキュメンタリー映画」の魅力とは?

宮川:……最高に難しい質問ですね。実は、映画に限らずドキュメンタリーを観ると、つい「これはどうやって撮ったんだろう」「私だったらこの構成はこうするな」とか、完全に仕事モードになってしまうんです(笑)。ただ、敬愛する映画監督は、たとえばダルデンヌ兄弟(「ある子供」「サンドラの週末」などで知られる兄ジャン=ピエール・ダルデンヌと弟リュック・ダルデンヌ)とか、濱口竜介監督(「ドライブ・マイ・カー」「偶然と想像」など。まず感情をこめない本読みをひたすら繰り返すことで有名)とか……。「フィクション」と「ドキュメンタリー」のあわいに立つというか、それぞれの方法論に自覚的な監督の作品が好きかもしれません。


誰にでも魔法は1つだけはある


――先ほど『『魔女の宅急便』が生まれた魔法のくらし 角野栄子の毎日 いろいろ』の感想をお話ししてくださいましたが、角野さんの他の作品の感想もお聞かせいただけますか。

宮川:イコ トラベリング 1948-』(KADOKAWA)は、戦後の青春時代を描いた角野さんの自叙伝的な作品です。最初に読んだ時は、自分が思春期だった頃のむず痒さというか、混乱した気持ちをありありと思い出して、「どうして80代の角野さんにこんな作品が書けるんだろう」と驚嘆しました。ただ時間をおいて読み返すと、前とは違う場面や言葉がスッと心に入ってきて、50代の私が背中を押されたり……。それがすぐれた文学作品ということですよね。
6巻続く『魔女の宅急便』シリーズ(福音館書店、KADOKAWA)も、角野さんを取材しながらこの4年間、繰り返し手に取りましたが、何度読み返しても新たな発見があり、前読んだときとは違う言葉や場面が心に響くんです。角野さんがインタビューで語っていたあの言葉、角野さんがあのときふと話してくれたエピソード、まさに角野さんの人生のエッセンスがちりばめられた作品だなと感じます。いわゆる幼年童話も、「きっとこうなるんだろうな」という大人の予想、予定調和通りに進むものは一冊としてなく、驚くほど自由で、それはまさに角野さんそのものだなと思います。


角野さんと娘のりおさん


――本作を拝見して、角野さんのライフスタイルに憧れましたし、作品にもあらためて触れてみたくなりました。

宮川:多くの方から「年を取るのが怖くなくなった」という感想をいただきます。何気ない日常を生き生きとしたものに変える角野さんのあり方は、きっとたくさんのヒントに満ち溢れていると思います。そして何よりこの映画が、「こんな素敵な人が書いた作品はどんなだろう?」と、角野作品を手に取るきっかけになってくれたらと願っています。


――本作で監督を務めた経験を経て、今後の夢や目標に変化はありましたか。

宮川:本作のラストで角野さんが、「魔法とは、その人の喜び。私は書くことが大好きだと気づいて、ずっと続けてきた。そうすればそれが魔法になる。だから誰にでも魔法は1つだけはある」とおっしゃるんです。これまで仕事や日々の生活に追われてきた私ですが、自分にとって「魔法」と言えるものはなんだろうと考えさせられました。確かにTVの仕事は面白くて、飽きたり嫌になったりしたことは一度もなく、夢中で続けてきました。その先に待っていた、角野さんとの出会いを映画作品として残せるという幸運。これも「魔法」かもしれません。
ただ、私自身は角野さんの言葉をこう受け止めています。そのときそのとき、好きだと思えること、面白いと思えることを、とことんやってみる。その中から、その人にとっての喜び、「魔法」が見つかるはずだ、と。いくつになっても、自分なりに魔法を探して生きていけばいいんだと思っています。ぜひ本作をご覧になって、あなただけの「魔法」を見つける旅を始めてください。

プロフィール



宮川麻里奈(みやがわ・まりな)
徳島県生まれ。東京大学教養学部卒。93年に、NHK番組制作局に入局。プロデューサーとして「SWITCHインタビュー 達人達」を立ち上げる。「あさイチ」などを担当した後、現在はNHKエンタープライズで「所さん!事件ですよ」「カールさんとティーナさんの古民家村だより」などのプロデューサーを務めている。一男一女の母。本作で映画監督デビューを果たす。


児童文学作家・角野栄子とは
1935年生まれ、東京都出身。早稲田大学卒業後、紀伊國屋書店出版部に入社。59年に自費移民としてブラジルに渡り、『ルイジンニョ少年 ブラジルをたずねて』で70年に作家デビュー。85年、『魔女の宅急便』で野間児童文芸賞、小学館文学賞を受賞。89年にはアニメ映画も公開となり、話題となる。2000年に紫綬褒章受章、14年に旭日小綬章受章。18年に、「小さなノーベル賞」とも呼ばれる、国際アンデルセン賞作家賞受賞。19年に江戸川区区民栄誉賞を受賞している。23年11月、東京都江戸川区に「魔法の文学館」(江戸川区角野栄子児童文学館)が開館。
代表作に長年にわたって愛されている人気の『アッチ・コッチ・ソッチの小さなおばけ』シリーズなど。そのほか、自伝的要素のある『トンネルの森 1945』、『イコ トラベリング 1948-』やエッセイなど、数多くの著書がある。

作品紹介

「カラフルな魔女〜角野栄子の物語が生まれる暮らし〜」
語り:宮﨑あおい
監督:宮川麻里奈
音楽:藤倉 大
配給:KADOKAWA
© KADOKAWA

1月26日より全国ロードショー
https://movies.kadokawa.co.jp/majo_kadono/

STORY
『魔女の宅急便』の作者として知られる、児童文学作家・角野栄子。彼女の日常に4年にわたって密着したドキュメンタリー映画が公開。鎌倉の自宅では角野自らが選んだ「いちご色」の壁や本棚に囲まれ、カラフルなファッションと個性的な眼鏡がトレードマーク。一方、5歳で母を亡くし、太平洋戦争下の日本で10代を過ごしたのち、結婚後は24歳でブラジルへ。35歳で作家デビューするなど、波乱万丈な人生を振り返る。持ち前の冒険心と好奇心で幾多の苦難を乗り越えてきた角野。「想像力こそ、人間が持つ一番の魔法」と語る88歳の世界一キュートな「魔女」。その存在に迫り、老いや衰えさえも逆手にとって、夢いっぱいの物語を生み出す彼女の「魔法」に迫る一作。

書誌情報



『カラフルな魔女 角野栄子の物語が生まれる暮らし』
監修:KADOKAWA
発売日:2024年1月17日

キセキの88歳。『魔女の宅急便』角野栄子の魔法の暮らし、その秘密を大公開

角野栄子。世界的児童文学作家。88歳。
栄子さんの毎日はなんだか楽しい。
朝はだいたい8時起き。
ちょっぴり手抜きもあるけれど、自分が食べたい朝ごはんを作って食べ、夕方まで執筆。
仕事が終わるとお散歩に出かける。鎌倉の海で、とんびに話しかけたり、絵を手帳に描いたり。
まるで遊ぶように、でも大切に暮らす日々。
Eテレの人気番組が映画になりました。そのすべてがこの一冊に詰まった写真満載の公式ブック。
※画像は表紙及び帯等、実際とは異なる場合があります。


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