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特集

今月のおすすめ文庫「医療小説」 知念実希人が語る、医療小説を書くときに大切にしていること 『となりのナースエイド』発売記念インタビュー

毎号さまざまなテーマをもとに、おすすめの文庫作品を紹介する「今月のおすすめ文庫」。今月は読者からも絶大な人気を誇るジャンル、「医療小説」!
患者たちの生死に携わる医師・研修医・看護師・ナースエイド……さまざまな視点から向き合う医療の世界に、あなたも触れてみませんか。
また、2023年11月24日に最新作『となりのナースエイド』を発売した知念実希人さんに、医師の立場から見る医療小説についてお話を伺いました。

取材・選・文:皆川ちか
写真:You Ishii

今月のおすすめ医療小説

『となりのナースエイド』角川文庫 知念実希人



星嶺大学医学部附属病院の統合外科病棟に配属された新人ナースエイド(看護助手)の澪。彼女がこの職に就いたのは、半年前に起きた悲痛な事件がきっかけだった。わがままな患者や横柄な看護師に悩まされつつも、“患者に寄り添うプロ”であるナースエイドの仕事にやり甲斐を覚える。そんな彼女の前に、エース外科医の竜崎が現れて……。

『ヴァイタル・サイン』小学館文庫 南杏子



療養病棟で働く看護師・堤素野子はある日PCで、看護職にある人物のものと思われるSNSのアカウントを見つける。そこに書き込まれた烈しい投稿に衝撃を受けつつも、共感を覚えてしまう――。絶え間ない緊張とストレスにさらされる“感情労働者”である看護師の日常をつぶさに綴り、医療現場のリアルを浮き彫りにした話題作。

『神様のカルテ』小学館文庫 夏川草介



信州の病院に勤務する栗原一止は、山岳写真家の妻ハルに支えられ激務をこなす日々。大学病院の医局への誘いがきて、地域医療と最先端医療の間で心がゆらぐ……。地域医療をテーマに、現役内科医師である著者の医療観および人生観が照らしだされたロングセラー・シリーズ。映画化、TVドラマ化もされたヒューマン医療ドラマ。

『泣くな研修医』幻冬舎文庫 中山祐次郎



25歳の新人医師・雨野隆治は東京、下町の病院で研修中。交通事故で運ばれてきた重傷の男の子、生活保護を受けている高齢の末期がん患者、初めて手術を執刀することになった虫垂炎の少女……さまざまな患者と向きあい、悩み苦しみ、もがきながら医師として一歩一歩、成長する。青春小説としても評価の高い外科医師作家の人気シリーズ。

白衣の噓』角川文庫 長岡弘樹



ある末期がん患者を担当することになった内科医は、その患者に詐欺の前科があるのを知り動揺する(「最後の良薬」)。トンネルの崩落事故に巻き込まれ、片脚を失ったバレーボール選手。同乗していた医師の姉に、選手生命を絶たれた憤りをぶつけるが……(「涙の成分比」)。「教場」シリーズの著者による短編医療ミステリー。


知念実希人が最新作『となりのナースエイド』を語る

ワケありの新人ナースエイドと、傲岸不遜な天才外科医。互いに「秘密」と「トラウマ」を抱える2人はときにぶつかり、ときに共鳴しながら患者たちを救っていく――。
「天久鷹央」「祈りのカルテ」シリーズなど数多くの代表作を持つ知念実希人さんが、今回は「医療行為が許されない立場」であるナースエイド(看護助手)を主人公とした作品を発売。
現役医師としての知見とまなざしを注いだ最新作、『となりのナースエイド』についてお話を伺いました。



――知念さんはさまざまな医療系ミステリーを発表されていますが、今回はなぜナースエイド(看護助手)に焦点を当てようと思ったのですか。

知念:実は、この作品は映像化を前提にして執筆したんです。角川文庫75周年記念の企画として、TVドラマと連動した作品を書いてほしいと依頼されました。ドラマの方を手がけるのは『祈りのカルテ』(2022年10月~12月まで日本テレビ系列で放送)のプロデューサーさんなのですが、打ち合わせのときに「次は医師ではない医療従事者のドラマを作りませんか」と提案されたのです。そして女性のナースエイドを主人公にしてほしい、と。

――そのアイディアを聞いて率直なところ、どう思いましたか。

知念:作品内でも書いているように、ナースエイドは医療行為ができません。患者さんのベッドのシーツを交換したり、食事の補助や入浴の手伝いなどが主な業務。医師や看護師のように医療そのものを行うわけではないので、作劇として盛り上がらせるのは難しいかもしれないな……と思ったのですが、その条件を逆手にとってのミステリーやサスペンスを作れないだろうかとも考えました。それに、ナースエイドって看護師と同じくらい患者さんの身近にいる存在なのですが、あまり知られていない職業らしいんです。

――恥ずかしながら、私も知りませんでした。

知念:医療ものの作品でもほとんど詳しく描かれませんからね。僕は臨床医師なのでナースエイドの有り難みも、その仕事の大変さも知っているので、より多くの人にこの職業を知ってもらいたくて本作に取り組みました。

――主人公の桜庭澪は大学病院の新人ナースエイド。もう一人の主人公・竜崎は、技術至上主義の外科医師。患者に寄り添ってこそ医療と考える澪と、患者との接触は無駄としている竜崎のキャラクターが実に対照的です。

知念:澪は主人公であると同時に狂言回しでもあるので、読者が共感できる人物像としました。対して竜崎はちょっと、いやかなり極端な性格です。でもその方が二人の対照性が際立つし、やりとりにもコミカルさが生まれるのではないかと。

――竜崎は癖のある人物ですが、反面、医療に関して確固たるポリシーを持っています。

知念:彼は澪とは反対に、患者と距離を縮めるのは医師にとってむしろマイナスだと考えています。そのポリシーが正しいかどうかはさておいて、終始その信念に沿った行動をとっている。僕がキャラクターを書くうえで気をつけているのは、その人物が何を大事にしているか、どんな信念を持っているかをけっしてブレさせないことです。そこをちゃんと押さえたら、どんなに極端で変人キャラであっても、読者の方は受け入れてくれるんですよね。

――病院内での医師と看護師、そしてナースエイドの間に流れる微妙な上下関係を感じさせる描写にはリアリティがありました。

知念:医師が司令塔だとすると、看護師はそのサポートで、ナースエイドはさらにその補助役にあたります。ナースエイドである澪を見下し、きつくあたる看護師がでてきますが、ああいう看護師さんって特に大学病院にはけっこういるんですよ……。個性が強いというか、医師には負けたくない、みたいな感じの。僕もよく叱られました(苦笑)。でもそういうのは患者さんのためにならないですよね。
ちなみに医師とナースエイドは、実際には接触することはほとんどないんです。

――そうなんですか!

知念:ええ。医師⇒看護師⇒ナースエイドという流れで治療の指示を出すので。必ず間に看護師を挟むことになっている。だから医師とナースエイドは直接話をすることはないくらいなんです。互いに存在は知ってるし、仕事を見てはいるけれど。

――それで作中、澪が竜崎と接している様子に同僚や看護師がびっくりしていたんですね。

知念:そうですね、そこはフィクションであるということと、澪の抱えている「秘密」と絡めて違和感が出ないようにしたつもりです。

――知念さんは医療小説を書く際、どのような点を大切にしていますか?

知念:医療に関する部分は専門用語を使いすぎず、できるだけ普通の言葉で書くようにしています。僕は内科医師なのですが、内科医にとって患者さんに病気や治療方針を分かりやすく説明することはとても大事で、それ自体が仕事のひとつであると考えています。患者さんに説明するのと同じ感覚で、子どもの読者にも理解してもらえるような書き方、伝え方を意識しています。

――ドラマ化で楽しみにしているところと、本作品をこれから読む方に向けてのメッセージをお願いします。

知念:映像化を前提に、というかたちで作品に携わったのは初めてなので新鮮でした。澪と竜崎のやりとりをはじめ、医療シーンの数々がどのように映像化されるのか期待しています。映像だからこそ表現できることもあるので、ドラマが楽しみです。
そして本書を読んで、医師以上に患者の身近にいる医療従事者――まさにとなりのナースエイドについて知るきっかけとなってもらえたら嬉しいです。

プロフィール

知念実希人(ちねん・みきと)
内科医師兼作家。2012年『誰がための刃 レゾンデートル』で作家デビュー。「天久鷹央」シリーズをはじめとする医療ミステリーを中心にサスペンス、ホラー、児童向けミステリーなど様々なジャンルで活躍中。


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