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特集

人質は全日本国民。見えないテロ犯との闘いを描く圧巻の冒険小説 『終末のアリア』辻寛之インタビュー

取材・文:編集部

同時多発テロから20年後の9月11日、国会議事堂に無人機が墜落。
誰がなぜ、何を目的に日本の中枢を狙ったのか――。
驚愕のテロ事件をリアルに描き上げ、発売前から絶賛を受けている『終末のアリア』。
担当編集者が著者の辻寛之さんにインタビューを行いました。



前代未聞のテロ事件を通じて「平和」の意味を問いかける冒険小説
『終末のアリア』辻寛之インタビュー

かつて原稿がボツに


――ついに『終末のアリア』発売まできました。ついに、ですね。

辻:昔のメモを見ると、初めてKADOKAWAの方にお会いしたのが、2019年6月なんですよ。「小説 野性時代」に短編を掲載いただいて、その後、長編書き下ろしをと。半年ぐらいかけて500枚ほど書き上げたものがあったんですが、それがボツになって。


――なぜボツに?

辻:スケール感が足りないということでした。最後まで書き上げてからだったので、まいったなあと。


――せっかく書いていただいたのに、申し訳ありません……。

辻:当時の担当編集者さん二人から、もう一回やりませんかと提案いただいて、一から書き直すことになりました。あらためて打ち合わせをして、スケールの大きい冒険小説で、重厚なものにしてくださいというご依頼をいただいたんですが、会議が来週あるので今週中にアイデアをください、と。そう言われたのが確か、木曜日ぐらい(笑)。


――えっ!

辻:とにかく3日で書いて確認してもらって、プロットはOK、あとはタイトルということで案を出し合ったんです。「アリア」というワードが思いついて、○○のアリア、といろいろ考えるなかで出たのが「革命」。中身は全然決まってないけれど、とりあえずタイトルだけは決めようと(笑)。そうして『革命のアリア』で再スタートしたのが2020年の12月頃でした。


――そうですね、私(現・担当編集者)が見た企画書は『革命のアリア』で、冒険小説の超大作とありました。

辻:それであらためてプロット作成や取材を始めましたが、執筆を進めていきますというタイミングで担当編集者が別の出版社に転職してしまったんですね。以前から一緒に打ち合わせをしていたもう一人の編集者が引き継いでくれるということだったので、それならよかったと思い、企画の再確認をしてスタートしましょうということだったんです。が、そのすぐ後、年明けに……。


――急逝してしまったんですよね。本当に、突然のことでした。まだお若かったですし。

辻:その時はかなりショックでした。言葉がでないとはこういうことかと……。
 それから半年ほど経って、あらためて今の体制でスタートしたという経緯です。
 ただ、振り返ってみるとボツになって良かったなと思っています。そのおかげで『終末のアリア』の企画が立ち上がりましたし、やはり最初の原稿は『終末のアリア』と比べるとスケール感が足りませんでした。


――無事刊行でき、そう言っていただける段階に至って良かったです。
 先に「スケールの大きい小説」と外堀が埋まっていたというのは恐ろしい話ですが……、実際にこの壮大な物語をリアルに描ききられたというのが素晴らしいです。スリルと、読後の余韻もしっかりあって、読み終えて呆然としてしまうような大作に。

辻:ここまで来られて良かったです。


――ご自身で、上達したなという実感はありますか。

辻:再スタートの時はしっかり取材をして、時間をかけて重厚なものを作ろうと思っていました。プロット段階では書けるかどうか非常に不安だったんですが、核となる部分を何度か打ち合わせして詰めていって。


――取材というのは具体的には?

辻:主要登場人物が官僚、政治家、警察官ということで、主にその世界のことですね。登場人物の数も多いですし、冒頭はポリティカルフィクションなので、取材対象も広くて、資料の読み込みだけでも多岐にわたりました。官邸のシーンで一番参考になったのは「シン・ゴジラ」です。グランドワークスが発刊している『ジ アート・オブ・シン・ゴジラ』という分厚い設定集がありまして、かなり読み込みました。どうすればリアリティがあり、かつ面白いポリティカルフィクションを書けるかというところを研究しました。「シン・ゴジラ」はもう、20回以上は見てるんですけど、冒頭20分はほとんど会議なんですよ。それなのに面白い。もちろん、いろんな映像的な技術や演出が使われていますが、小説という形式でこの面白さをどう表現できるかというのはかなり苦心しました。


――会議室の中だけで物語を進めるって大変ですよね。

辻:そうですね。当初は群像劇のような書き方をしていましたが、エンターテイメントとして読者がスムーズに入っていけるように視点人物をある程度絞りました。防衛官僚の風間と警察官の榊原というキャラクターを立てて、二人の対立と葛藤を軸に描くことで、かなり演出がしやすくなったと思います。

情報量とエンタメ性


――改稿過程では、とにかく削ぎ落とし、削ぎ落とし……でしたよね。

辻:資料も含めてかなり取材した分、情報量が多かったと思います。ただ、情報量が多すぎるとエンターテイメントとしては読みにくい、一方でリアリティも必要なので、しっかりと設定を作り込まないといけない、そのバランスが難しい。そこでフィクションの部分をいかに面白くするかということを念頭に置いて、どうやったら読者が読みやすくなるかを考えましたよね。


――事前に書店員さんにはゲラを読んでいただきましたが、リアルさに驚いたという感想が多かったです。

辻:嬉しかったのは、エンターテイメント作品としてしっかりリアリティがありながら、かつ壮大なラブストーリーになっている、と評価していただけたということですね。打ち合わせの段階から、この物語は冒険小説であり、ミステリーであり、そしてラブストーリーであると考えていましたので。

国会議事堂に無人機が突っ込むという、前代未聞のテロ攻撃から物語の幕が上がる。
精緻に描かれる官邸の混乱、防衛省と警察の歪な主導権争いのリアリティ。そして発生する大規模なサイバーテロ。
鍵を握るのは、謎に満ちた一人のテロリスト…。
冒頭からぐいぐいと物語に引き込まれ、ハラハラしながらページをめくり(タップし)続けること止まりません。
「神の意志」の正体がわかった時は、思わず「うわぁ…」と声をあげていました。
最後のページを読み終えた後もなかなか興奮が収まらず、暫し放心。
戦争とは。平和とは。政治とは。国家とは。様々なことを考えさせられる社会派サスペンス。同時にエンタメ性あふれるミステリであり、壮大なラブストーリーでもあった…。
すごい小説を読ませていただきました。
(ブックスオオトリ四つ木店 吉田知広様)


――嬉しいご感想をたくさんいただきました。
 みなさんが書いてくださっているとおり、現実に起こりそう、いつ起こってもおかしくなさそうなお話でありながら、ただ「これがリアルだ」と伝えるだけのものでもないですもんね。

辻:前提としてエンターテイメントであるということですよね。情報量が多いだけならノンフィクションの方が優れているということになります。そのあたりのバランスが苦労しましたね。
 イラクやシリアの描写は、感覚に訴えるような描き方、現地の匂いや人の雰囲気が伝わるようにと意識しました。いろいろな映像資料もありましたが、今回は国境なき医師団の白川優子さんに取材をしました。白川さんは実際にIS支配地域で活動されていましたので、生々しいお話を伺うことができました。


――中盤のイラク・シリア編になると一気に緊迫感が増しますよね。会議室の緊張感とはまた違って、すぐそこに命の危険がある、ということがひしひしと伝わってきます。

辻:東京パートとコントラストをつけたかったので、ガラッと世界が変わるように意識しました。ここはとにかく容赦なくやろうと思っていました。


――西上心太さんの書評でも、会議室という閉鎖空間から始まる物語がグローバルに広がっていく構成の巧みさを取り上げてくださっていました。

辻:ありがとうございます。嬉しいです。
 イラク・シリア編はもっと書きたかったんですけど、あくまで短く、激しくインパクトのある仕上がりにしようと思っていました。


――原稿を読みながらもう、死ぬかと思ったシーンもあって。本気で焦ったぐらいです。

テロリスト・赤星瑛一


――登場人物について伺います。赤星というテロリストがこの物語の鍵を握っていますが、彼の人物造形がとてもいいですよね。

辻:最初の構想では、風間・榊原ではなくて赤星の方がメインキャラクターだったんですよね。ただ、それについてはネガティブなご意見をいただいて。これは原稿にして読んでもらわないと分かってもらえないなと思い、とにかく書き進めました。第三章の、赤星の過去の回想あたりまで読んでもらえれば、いけると思ってもらえると確信していました。


――日本政府、つまり風間と榊原がテロと闘う物語がベースになるものとこちらは考えていたのですが、辻さんは赤星に強い思い入れがあるから、そちらに比重が偏ってしまっているのではないか、といったことを打ち合わせで話した記憶があります。
 でも実際、回想シーンまでいったら赤星の魅力にぐっと引き込まれました。

辻:最初は謎のテロリストとして登場するので、印象は良くないですよね。事情を知るうちに感情移入するような構成にしたかったので、その試みは割と上手くいったかなと思います。
 問題は、主人公の風間と榊原をどう絡めていくかというところで。そこがちょっと、初期段階ではかなり苦労しました。


――赤星の魅力を損なわずに、日本政府側の面白さを引き上げていく過程でしたよね。最後はうまく着地できたのではないでしょうか。

辻:いいバランスになったような気がしますね。赤星が良い意味で神格化されすぎなくなったというか、彼の人間の部分がちゃんと見えて納得できる形になったかなと思います。ただ単に「信念のある人」ではなくて、彼自身の挫折の経験と、裏切られたという思い、平和に対する考え方がテーマの核になっていると思うので。真に望まれる平和というのは何か、彼に本音を語らせよう、そこは素直に書いていこうと思っていました。


――平和って簡単に言いますけど、その本当に意味するところは何なのか、ということを考えさせられました。

辻:冒頭に引用したリデル・ハートの言葉(「平和を欲するなら、戦争を理解せよ。」)のとおり、その意味をフィクションを通して描きたい、と。それを一番追体験させてくれる人物といいますか、その象徴が赤星です。


――主人公ではないものの、この物語の核となる存在です。

今後の展望


――この作品を書いてみて、さらに次はどんなものを書きたいといった展望はありますか。

辻:今回はそれなりに厚い本になっているんですが、実はたった一日の出来事なんですよね。過去の回想も入ってはいるんですけど。書いていて、手応えがあった部分として、戦争シーンというか、イラク・シリアのシーンがもうちょっと書きたかったなあという感じがありますね。


――イラクやシリアの、どんなところでしょう。

辻:今作でも断片的に戦時中の現地の様子を書いてはいるんですが、メインは日本でのテロ事件でしたのでもう少し深掘りしたかったと思うところもあります。現地で戦い、傷つき、苦しみながらも必死で生きている人たちを描きたいなと思います。

プロフィール

辻寛之(つじ・ひろゆき)
1974年富山県生まれ。埼玉県在住。2018年、第22回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞、受賞作を改題した『インソムニア』でデビュー。
他の著書に『エンドレス・スリープ』、「麻薬取締官・霧島彩」シリーズがある。

書籍紹介



終末のアリア
著者 辻 寛之
発売日:2023年08月01日

新時代のテロと、「神」に護られた容疑者。本当の敵は、どこにいる――?
2021年9月11日午前8時46分、国会議事堂に無人偵察機が墜落・炎上した。
同時多発テロから20年後のこの日、誰が何を目的にテロを起こしたのか? そしてなぜターゲットは日本なのか――。
奇しくも同じ日、アメリカが国際指名手配するイスラム過激派テロリスト・赤星瑛一が警視庁に出頭していた。このままではCIAに暗殺される、身の潔白を証明させてほしいと保護を求めてきたのだ。
警察はテロ犯の疑いをもって赤星の身柄を拘束するも、その後に次々とサイバーテロが発生、取調室の赤星は「神の裁き」だと繰り返すばかりで犯人像はまったく掴めない。
首相官邸、防衛省、警察庁は一枚岩になりきれず右往左往、具体的な対策を打ち出せないでいるうちに、東京の電力供給がストップし、国民生活にも被害が及び始める。
大混乱の最中、追い打ちをかけるように北朝鮮のミサイル発射を知らせる警報が鳴る・・・・・・。
突如訪れた国家と世界の危機に、「平和の国」日本はどう立ち向かうのか。

詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322008000198/
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