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特集

新古今和歌集の「新」って何? 「ビギナーズ古典MAP日本編」制作裏話 谷知子先生(フェリス女学院大学教授)インタビュー②

「ビギナーズ・クラシックス」シリーズ20周年記念「ビギナーズ古典MAP」公開中!





 角川ソフィア文庫の「ビギナーズ・クラシックス」シリーズ20周年を記念して公開された「ビギナーズ古典MAP」(https://kadobun.jp/special/beginners/)。
 監修を担当してくださったフェリス女学院大学の谷知子先生に、ひきつづき、MAP監修の裏側を語っていただきました。

▼古典の個性が見えてくる?! 「ビギナーズ古典MAP日本編」制作裏話 谷知子先生(フェリス女学院大学教授)インタビュー①
https://kadobun.jp/feature/interview/2fxbj69eoidc.html

「ビギナーズ古典MAP」監修 フェリス女学院大学教授・谷知子先生インタビュー②

関係性を示す矢印


――この図には、対比的な矢印をつけているところがいくつかあります。

 そうですね。作品と作品の間に矢印をつけて、関係性を示していますが、単調にならないように、バラエティを持たせています。中には対比を示す矢印もあります。そして、矢印だけでなく、関係性を示す説明をつけました。これがとても難しかったです。
 私たち研究者は、作品間の関係を「影響がある」とよく短いことばで説明します。もちろん、論文の中ではどういう影響かを詳しく説明するわけですが。今回は「影響」ということばを使わず、もっと具体的に示そうと思いました。
 影響関係を説明することばのカードはたくさんあるわけですが、その中からどのカードを出すか、しかも短くてキャッチーな言葉で表現したい。このことば選びが難しかったです。間違ってはいないんだけど、こんなこと言われても読みたいと思うかな?とかね(笑)。考えだしたらキリがなく、最後の最後まで悩みました。


――それ以外の影響関係というのは読者の方が見つけていただけたらいいですね。

 そうですね。あとは中身を読んでご自身で感じてくださったらうれしいですね。

『古事記』と『風土記』

 作品同士の関係性を示す矢印はかなり単純化したので、研究者の方々から見ると「そんな単純なものじゃないでしょ」というようなところはたくさんあると思うんです。
 たとえば、『古事記』と『風土記』について。『古事記』を「中央」、『風土記』を「地方」として、対比の矢印をつけました。そして、この二つの作品をつないで、背景に「国家のルーツ」というコメントをつけました。



 『古事記』は、その序文を信じるならば、天武天皇の時代、律令制国家が形成されていくプロセスの中でできあがった書物ですよね。序文は後世に書かれたものという説もありますけれども。
 『古事記』を「中央」に、『風土記』を「地方」にして対比させていますが、『古事記』にだって出雲(島根県)神話があるわけですし、『風土記』も地方の国司が編纂したとはいえ、国司は中央から派遣された役人で、しかも朝廷から命じられてやっているわけですよね。
 だけど、『古事記』はやはり視点は大和朝廷に、天皇家、つまり中央に集約していくもので、『風土記』は地方誌で、視点は地方に集約されていきます。そういう意味で思い切って「中央」「地方」と対比的に関係性を示し、あわせて「国家のルーツ」と定めました。

『万葉集』と『古今和歌集』

 『万葉集』から『古今和歌集』への関係性として、どうしても外せなかったので、ここは二つ書きました。
 まずは表記の変化です。万葉仮名から平仮名に変わったということ。これは文学史上画期的なできごとです。それから『万葉集』は、後世の藤原俊成たちは勅撰集と認識していたようですが、あくまでも私撰集ですよね。『古今和歌集』になって初めて勅撰集となるはずです。この二つはどうしても外せませんでした。



『古今和歌集』と『新古今和歌集』

 それから、『古今和歌集』(以下『古今集』)から『新古今和歌集』(以下『新古今集』)をつなぐ矢印には「より政治的に」と記したのですが、この二書の関係ももちろんそれだけではありません。



 『新古今集』は『古今集』をモデルにして作られていますから、タイトルだって『古今集』だし、巻数も同じとか、影響は多大です。でも、違いもたくさんあるんです。
 同じ勅撰和歌集ですが、『新古今集』の時代になると、撰者、歌人の地位が格段に上がります。たとえば、『古今集』の仮名序は従五位上木工権頭で終わった紀貫之が書いていますが、『新古今集』になると、摂政関白の家の藤原良経が執筆している。この良経は、仮名序の中で「世を治め民を和らぐる道とせり」と和歌を規定しています。たくさん想定される関係性の中で、私は「より政治的に」というカードを選ぶことにしました。
 私以外の人がマップを作ったら、また違うものができると思うんです。私は大きな時代潮流みたいなことが浮かび上がってくるといいなあと思いました。


――古典の読み手ごとに、自分のMAPをつくることができるということですね!

 このマップは研究者の方たちにも読んでほしいけど、ビギナーズの名前の通り、古典をあまり読んだことのない人にも届けたいと思い、専門用語は使わず、わかりやすいことばを使うように努めました。矢印にも、背景のグループにも。それでも、ちょっと難しいことばもあるかもしれません。例えば、「読本よみほん」という用語はあまり知られてないかもしれないけど、あえて使いました。「勅撰集」ということばだって耳慣れないかもしれません。でも、それはぜひ「ビギナーズ」を開いていただければと思います!


――地図は現地に行くためのものということもありますので、実際に読んでみてほしいです。ジャンルの話でいうと、『伊勢物語』だけツートーンになっていますね。

 そうそう。藤原俊成や定家は『伊勢物語』を歌集だと認識していたんですね。でも、一般的に言うと「歌物語」です。和歌を中核にした物語。なのでここはツートーンになっています。ちょっとマニアックですね(笑)。



謡曲と近松門左衛門

 『謡曲・狂言』と『近松門左衛門』についてもすごく悩みました。現代人からすると「演劇」というジャンルでくくられる二作品です。



 でも、お能の先生は、謡曲・狂言と歌舞伎はまったく別物とおっしゃいます。お能や狂言は神様に奉納するものだから一回限り。歌舞伎みたいに一カ月連続公演のようなことはありえないんですね。そして神様に捧げるための芸能であって、人を楽しませるためのものじゃない。
 能・狂言は二条良基などのお公家さん、有力武士などの庇護を受けて、ハイクラスの人に定着していきました。元来は、田楽のような、農耕の際の神事、お祭りみたいなところから始まっているんですけどね。
 それに比べると、歌舞伎や近松の世界というのは「かぶく」もの。人々をいかに楽しませるかを追求してきたわけですよね。お弁当を食べながら観ることもあるし、連続公演も当たり前。宙乗りとか、早変わりとか、現代の世相も取り込んで、楽しませてくれる。それが歌舞伎、近松ですから、神事としての普遍性をたいせつにする謡曲とは相当隔たりがあります。
 そういう点では、私も両者は別物だと思うんです。だけど、やっぱり「演劇」「舞台」という点では同じですよね。どちらも様々な文学作品などを演劇として、舞台で演じるわけですから。
 この二作品の関係性については、「庶民への広がり」と説明しました。様々な違いがあるわけですが、能楽堂と歌舞伎座を比べたとき、やはりこの表現が最もしっくりくると私は思います。

『平家物語』から『太平記』、そして『南総里見八犬伝』、演劇

 軍記物語の『平家物語』から『太平記』へという流れには、「仏教から儒教へ」というコメントを記しました。『太平記』も中世の作品ですから、もちろん仏教の影響は多大です。中世の作品に仏教の影響を受けていないものなんてないのかもしれません。逆に『平家物語』には儒教の影響がないかというと、もちろんあるんですけど、『太平記』と比べれば、やはり仏教色が強い。作品全体のカラーとして、仏教の『平家物語』から儒教の『太平記』へという流れをまずは理解していただきたいと思っています。



 さらに、儒教つながりで『南総里見八犬伝』をグルーピングしました。儒教をベースにした八勇士の武勇伝の物語で、とても楽しい小説です。「勧善懲悪」っていうことばで表現しようかと思ったのですが、『雨月物語』とつないで、「ベストセラー」「読本」というコメントをつけました。「ベストセラー」は現代人にもなじみのある表現ですが、「読本よみほん」という用語は、あまりなじみのないことばかもしれません。近世に大流行したこの種の小説の呼び名なので、この用語を広く知ってほしいという気持ちもありました。そして『八犬伝』は「ヒーローもの」とし、伝奇物と言われる『雨月物語』もあわせてカタカナで「ファンタジー」と表現しました。「ホラー」にしようかと思いましたが、ちょっと怖く思われちゃうかなと思いまして。
 それから、さきほどお話しした『謡曲・狂言』と『近松門左衛門』のところなんですけれども。『平家物語』は琵琶法師の語りを通じて、『太平記』は講釈師の語りを通じてと、区別しています。この演劇のところへのびる矢印は『太平記』、『平家物語』、『新古今集』、『源氏物語』、『伊勢物語』から引っ張ったんですけど、ほんとはもっとあるんですね。だけど、全部から線を引くともうごちゃごちゃになっちゃう。だから、代表的なものに絞りました。



 『西行』からも引くべきだと思うけど、『新古今集』の中に西行は含まれるから、割愛しています。謡曲は、『新古今集』の定家など、幽玄という理念を受け継いでいるので、絶対にはずせませんが、ほんと最小限なんですよね。代表的なものというふうにご理解いただけるとうれしいです。
 それから『おくのほそ道』と『小林一茶』の関係性も迷いに迷いました。一茶は矢印でつなげられないぐらいの独特の作風を持つ人ですよね。『おくのほそ道』の影響はほとんどないのかもしれないんだけど、「自由」ということばだったら包括できるかなと思って「より自由に」と表現しました。



――かなり思い切って図式化してくださったということですよね。

 そうそう。そうなんです。

「ビギナーズ古典MAP」監修 フェリス女学院大学教授・谷知子先生インタビュー③へつづく

▼ビギナーズ・クラシックス 20周年特設ページはこちら
https://kadobun.jp/special/beginners/


谷 知子(たに ともこ)

フェリス女学院大学教授。専攻は中世和歌。九条家を中心に、文学と歴史との融合分野の研究も行っている。『和歌文学の基礎知識』『古典のすすめ』(角川選書)、『ビギナーズ・クラシックス 日本の古典 百人一首(全)』(角川ソフィア文庫)など著作多数。

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