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特集

“カクヨムから生まれた新たな恐怖の語り部” 禁断の介護ホラー『屍介護』ができるまで 三浦晴海2ヶ月連続刊行インタビュー〈第1弾〉

小説投稿サイト「カクヨム」に発表したホラー長編「屍介護  ―シカバネカイゴ―」が石田衣良さんに絶讃されるなど、大きな話題を呼んだ三浦晴海さん。同作を書籍化した『屍介護』(角川ホラー文庫)が6月10日に発売されたのに続き、7月23日には早くも第2作『走る凶気が私を殺りにくる』(メディアワークス文庫)の刊行が決定しています。ホラー&ミステリー界の新星・三浦晴海とは、いったいどんな書き手なのか。その人物と作品に迫るインタビューを、前後編でお届けします!

取材・文=朝宮運河


『屍介護』あらすじ

『屍介護』あらすじ

小説投稿サイト「カクヨム」で大注目!
新たなホラーの書き手・三浦晴海にインタビュー


――まずは三浦さんが創作を始めたきっかけについて教えていただけますか。

昔から本を読むのが好きで、学生時代から「自分でも書いてみようかな」と思うようになりました。ジャンルはミステリーやホラーが多かったです。小説賞に応募したこともありますが、ただ書き始めた頃は、原稿の書き方すらよく分かっていなくて、横書きでプリントアウトしたものを送ったりしていました(笑)。今ならおかしいと分かるんですが、周囲に教えてくれるような人もいませんでした。基本的に内向的なので、一人で作業するのが好きなんです。


――カクヨムへの投稿を始めたのは2021年からですね。これはどういうきっかけだったんでしょうか。

小説投稿サイトというものの存在を知ったのが遅くて、比較的最近だったんです。ここでなら自分の小説を読んでもらえるんじゃないかと思って、使い方を勉強しました。カクヨムを選んだのは自分の作品のテイストと合っていたのと、投稿の仕方が分かりやすかったからです。


――初めて投稿した長編「屍介護 ―シカバネカイゴ―」の書籍化のオファーを受けた時のお気持ちは。

誰かに読んでもらいたいと思って投稿していましたが、書籍化をゴールに設定していたわけではないので、嬉しくもありつつ、「本当にいいのかな?」という感じです。もっとも出していただけるのなら、全力でこの波に乗るしかない、とも思っています。


――これまでの読書遍歴をざっと教えていただけますか。

ホラー系の原点は夢野久作ですね。文庫で出ているものは買いそろえて、たくさん読みました。江戸川乱歩や安部公房も好き。現代作家よりも、ちょっと昔の作家さんの方が好みに合うかもしれません。ミステリー系ですと島田荘司さんや綾辻行人さんなどの本格ミステリーが好きですね。『屍介護』に繋がる傾向としては、大江健三郎の初期短編にもびびっとくるものを感じます。


――ほう、それは意外な作家名が。大江健三郎のどのあたりにびびっときたのでしょうか。

大江健三郎に「共同生活」という短編小説があるんです。主人公の部屋になぜか四匹の猿がいて、実害はないけどすごく気になるという話です。初めてこの話を読んだ時に、なんだこれはと衝撃を受けました。血が飛び散るようなスプラッター的なホラーよりも、こういう理解できない怖さ、不条理な怖さを描いたホラーに惹かれます。


――それは『屍介護』にも通じる感覚ですね。『屍介護』は予想もつかない展開に圧倒される、お屋敷もの×介護ホラーです。着想はどこから?

最初に頭に浮かんだのは、部屋の中に死体が横たわっていて、それを主人公が見つめているという場面でした。さっきの「共同生活」とも共通するような、シュールで不条理な絵ですね。この場面が中心にくるような長編を書いてみたくて、舞台設定や登場人物、ストーリーを作り込んでいった、という流れでした。


――執筆前にプロットは完成していたんでしょうか。

できていました。最後まで構成を作ってから書き出すというタイプですね。カクヨムの連載もすべて原稿を書き終えてから、それを小分けに投稿するという形を取っています。


――看護師から介護サービス会社に転職した主人公・栗谷茜。彼女が派遣されたのは、スマホの電波も届かないほど山奥にある古めかしい洋館だった……、というのが物語の発端です。

逃げ場のない環境を作りたかったので、山奥にある洋館を舞台にしました。ホラーとしては直球ですけど、このくらい分かりやすくていいかなと。介護の仕事については、経験者の方にお話を聞いたり、インターネットや本で調べたりして、リアルな描写になるように心がけました。非常識なものを扱うからこそ、背景はできるだけ常識的にしておきたい。よく知っている現実が壊れていく過程に怖さがあると思うので、そこは気をつけるようにしました。


――主人公の茜はある出来事が原因で、病院を辞めることになったという過去をもつ女性。その過去がキャラクターに陰影を与えていますが、茜はどのように造型されたのですか。

茜は大人の女性をイメージしています。仕事をして、過去に付き合った相手もいて、という大人の女性が主人公のホラーを書きたかったんですね。性格的には、まじめで正義感のある人。それでいて独りよがりではなく、共感のしやすいキャラクターを目指しました。2作目の『走る凶気が私を殺りにくる』の主人公・千晶もそうですが、自分の中に芯を持っている人が好きなんです。


――二人の先輩とともに、広大なお屋敷で働きはじめた茜は、難病を患っているという館の女主人・妃倭子と対面します。頭から黒い袋をかぶせられ、微動だにしないその姿は、どう見ても死体で……、という対面シーンはかなりショッキングです。

ここが物語の出発点だったので、力を入れて描写しました。ホラー映画だと効果音や音楽を使って、ショッキングな場面を盛り上げることができますが、小説は言葉しか使えません。その分、形容詞などにこだわって、茜が直面しているものの異様さを伝えられるよう努力しました。


――秘密めいた屋敷の中でくり広げられる、常軌を逸した介護の数々。茜はそんな仕事に疑問を抱きながらも、じわじわと奇妙な日常に搦め捕られていきます。

ホラーでも怪談でもいちばんいい解決法は、その場から逃げることなんです。普通だったらこんなお屋敷、一日で逃げ出しますよね(笑)。でもそうなると話が終わってしまうので、茜が屋敷に留まらざるを得ないような状況を、あの手この手で作り出しました。主人公を逃げさせないための工夫は、ホラーを書くうえでは大事なポイントなのかな、と思っています。


――物語の後半では、この家の秘密が明らかにされます。些細な違和感や手がかりが、予想外の真相に繋がっていくというひねりのある構成は、ミステリーとしても完成度が高いですね。

最後まで不条理なままで終わるホラーもいいんですが、自分の好みとしては「そういう話だったのか」と納得できるものにしたかったんです。そのうえでさらに恐怖を描くことができたら理想的かなと思います。前半は「理解できないから怖い」、後半は「理解できたけど怖い」という構成を目指しました。うまくいっているかどうか自信はないですが、ミステリーの納得感とホラーの怖さが両方味わえる作品になっていればいいなと思います。


――ネタバレになるのでここでは言えないですが、後半で「そういう話だったのか!」という事実が明らかになりますよね。この部分はすんなり浮かんだのでしょうか。

わたしは基本的に怖がりなんですけど、中でも〝あるもの〟が本当に苦手で、怖いからこそ気になってしまうんですね。屋敷の秘密にあたる部分は、その苦手なものについて調べているうちに、思いついたアイデアだったと思います。読んでいただくと、三浦晴海はこれが苦手なんだなということが分かっていただけるはずです(笑)。


――カクヨム掲載時から大反響だったようですが、読者のコメントで印象に残っているものはありますか。

全部のコメントが嬉しかったですが、「怖かった」と言ってもらえたのにはほっとしました。わたしが怖いと感じるものが、他の人にとっても怖いかどうかは、作品にしてみないと分かりませんから。それと石田衣良先生が読んでくださっていたと知って、本当にびっくりしました。


――では、これから『屍介護』を手にする読者にメッセージをお願いします。

「屍介護」は私の思うホラーの怖さと面白さをたくさん詰め込んだ作品です。
ホラーがお好きな方も、そうでない方も、主人公・栗谷茜になった気持ちで理不尽な世界を体験して、彼女の恐怖に共感してもらえたら嬉しいです。
どうぞよろしくお願いします。


――ありがとうございました。

(近日公開のインタビュー第2弾『走る凶気が私を殺りにくる』に続きます)


『屍介護』書店店頭パネル

作品紹介



屍介護
著者 三浦 晴海
定価: 748円(本体680円+税)
発売日:2022年06月10日

この人はもう、死んでいるのでは――? 新人介護士が経験する恐怖の介護。
看護師から介護業界に転職した栗谷茜は、山奥の屋敷で、寝たきりの婦人をヘルパーとして住み込みで介護することになった。しかし、妃倭子というその婦人は、なぜか頭に黒い袋を被せられ、肌は不気味に変色し、言葉を発することも動くこともなかった。新人がゆえ、全力で職務に向き合おうとするも、茜の胸にはじわじわ疑念が広がる――これは、もう死んでいるのでは? 先が読めない、ひたすら怖いとネットを戦慄させた、禁断の介護ホラーが登場!

 石田衣良氏も推薦!
「介護×ホラーのミスマッチが生み出した異次元の邪悪なデビュー作。母の愛と母の愛が命がけで壊しあう!」 石田衣良

詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322110001163/
amazonリンクはこちら


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