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特集

中華ファンタジー×検屍の斬新にして骨太なミステリ! 『後宮の検屍女官』刊行記念 小野はるかインタビュー

第6回角川文庫キャラクター小説大賞〈大賞〉〈読者賞〉をダブル受賞した『後宮の検屍女官』が今月発売! 中華後宮×検屍という斬新な設定にして、骨太なミステリ。選考委員・書店員の絶賛を受けた作品がついに刊行されます。著者・小野はるかさんに、担当編集者が創作秘話などをたっぷりと伺いました。

受賞作が生まれるまで


――第6回角川文庫キャラクター小説大賞〈大賞〉〈読者賞〉のダブル受賞おめでとうございます! 応募作「後宮の検屍妃」が生まれたきっかけはなんだったのでしょうか。


小野:ありがとうございます。

公募への挑戦を考えたとき、まず、大好きな中華ファンタジーを書きたい! という思いがありました。しかし、ラブストーリーをメインとして書くことにはあまり得意意識がありませんでしたので、恋愛要素はありつつも、ヒロインの『お仕事』であるとか、そういった恋愛以外でのなにかをメインにした物語をつくりたいと考えていました。

それに、「新人賞はアイデア勝負!」という、どこかで聞きかじった、本当か嘘かわからないアドバイスが頭にこびりついていたのもあります。

題材選びに悩んでいたなか、とある時代劇を見て驚きました。ヒロインが事件を解決するために、死体を調べるシーンがあったのです。それはほんの一回だけだったのですが、可愛らしいヒロインが死体に触れ、その知識で真実を暴く姿にとても面白さを感じました。そしてこのときふと、中国には古代より検屍術があったことを思い出したのです。何年か前にそれを知ったときに、好奇心から資料のメモをしていたことも……。これだ! と思いました。


――まさに、検屍というお仕事要素と中華ファンタジーの組み合わせが独創的で、その点は選考会でも高く評価されていました。中華後宮という舞台設定にはこだわりがあったのでしょうか。


小野:じつは、作品を立ち上げる段階では、中華にするか韓流にするかで悩みました。というのも、先の質問で出てきた時代劇というのが、韓流時代劇だったからです。以前、角川ビーンズ文庫さんで韓流ファンタジーを出させていただいたこともあり、後宮モノを書くのならば韓流でもよいな、という思いがありました。中国で生まれた検屍術は、李氏朝鮮でも使われていたからです。

おなじく、舞台を後宮にするか否かでも迷いました。市井のほうがなにかと自由が利くのですよね。ただ、ぼんやりと思いついた初代タイトル、「後宮検屍姫」がいい感じにキャッチーだったので、やはり後宮で、ということになりました。

中華か韓流か……は最後まで悩んだのですが、どうせ公募にチャレンジをするならば好きなことをやろう! と決めて、漢王朝をベースとすることにしました。中華ファンタジーといえば唐の時代をベースとするのが最近の潮流だったこともあり、漢ベースにするなんて、投稿作じゃないとできないかな、と勝手に考えました。


――緻密な下調べのうえで執筆されているようにお見受けします。調べ物は苦ではないほうですか?


小野:調べ物は好きです。興味がないことにはとことん興味がないのですが、一度興味を覚えたり、気になったりした物事を調べるのは大好きで、何時間でも没頭できます。ただ、学生時代は学業にまるで興味がなかったので、当時の勉強不足がいま思うと悔やまれます。もっと勉強していれば、こんなに調べ物に苦労しなかったのになぁ、と(笑)。


――その後悔は皆が抱くものかもしれないですね(笑)。しかし「検屍」と「中華後宮」の双方について、読みながらそうなんだ、知らなかったなと思う情報がたくさんあって、一人の読者としてお得な気持ちでした。ほかに、本作のご執筆時に苦労されたことはありますか?


小野:プロットをつくらずに書きはじめたので、矛盾がないようにするのに苦労しました。じつは書きはじめた段階では、二話目で殴傷の検屍をする、四話目ですべての謎を解決する、というざっくりとしたことしか決めておらず、「すべては明日の私がなんとかしてくれる(はず)!」というかなりギリギリの戦いをしていました(笑)。

妊娠中だったのでパソコンの前に長時間座れず、しかも上の子たちがコロナ禍ということで家にいてドタバタとしたなかだったので、あまり時間が取れなかったというのが原因なのですが。いま思うと、なんと無謀なことを……と思います。


――妊娠中にあのお話を書き上げるとは! 非常に根気が必要だったことと想像します。大変ななか書き上げて応募いただけて、担当者として本当に嬉しいです。



キャラ立ち抜群、愛すべき登場人物たち


――普段は寝てばかりの「ぐうたら」でありながら、検屍には情熱を注ぐ桃花というキャラクターが非常に魅力的です。彼女はどのように生まれたのでしょうか。


小野:じつは設定段階では、「冷たく非情なタイプ」という案もありました。それが検屍になると、一変して温かな情を見せる……というような。けれども、延明のキャラはすでにできあがっていましたので、ペアを組ませるとなると、もっと温かみのあるキャラクターのほうがよいかなと思いました。

とはいえ、すぐにあのぐうたらな桃花が誕生したわけではなくて、書きはじめた段階では、ちょっとのんびりしている子、くらいのキャラクターでした。けれども一話を書ききったあたりで、これではキャラクターがぜんぜん立っていないなぁ、と。キャラクター小説なのに、キャラクターが立っていないのではダメですよね……。気がついたところで一度寝かせ、のちに全面的に書き直しました。ぼやっとしているのは眠いから、眠いのは、現実逃避をしているから? 現実逃避をしているのは……と、桃花の過去を掘り下げることにもつながったので、書き直しはもったいないという思いもあったのですが、やってよかったと思っています。


――もう1人のメインキャラクターが宦官である延明。宦官をメインキャラクターに持ってくることには難しさもありますよね。


小野:中華後宮といえば、男性のメインキャラクターは皇帝か皇太子。これが定番です。私も大好物なのですが、ずっと、後宮にはまだ男がいるじゃないかと思っていました。それが宦官です。彼らは性を切り取られてはいますが、だから男でなくなったかといえば、そうではないと、私は思います。そもそも、心の性と肉体の性は、かならずしも一致するものではないですよね。精神は男でありながら、男どころか、人間ですらないという扱いをされてしまう彼らの内面を、ぜひ主要人物として掘り下げたいという思いもありました。ただ、やはり微妙な立場の彼らですので、どこまで描写してよいのかという難しさは、たしかにありました。けれどもそこはもう、自由に書ける『公募』ですので、思い切って好きに書くことができました。

特殊な生き方をしている、あるいは、せざるを得なかった宦官という存在の魅力を、少しでも読者のみなさまにお伝えできればと思います。



大好きな小説のこと


――本作は後宮を騒がせる謀殺の噂と幽鬼騒動の真相を解き明かすミステリでもあります。ミステリもお好きなのでしょうか。


小野:好きです!

まず私の母がミステリ好きでして、学生時代、母の本棚から勝手に拝借して読んだのがきっかけで、その魅力にはまりました。忘れもしませんが、有栖川有栖先生の『月光ゲーム』です。目から鱗が落ちたというか……。それまで抱いていたミステリのイメージとはまったく違うものでした。

ラストの解決編で「あ、そういうことだったのか!」「あー! この伏線、気がつけたはずなのに悔しい!」と思わず声を上げたくなるようなミステリは、やはり最高のエンタメだと思います。


――ご自身の好きな本を教えてください。


小野:ミステリですと有栖川有栖先生の『孤島パズル』。ファンタジーですと妹尾ゆふ子先生の「翼の帰る処」シリーズ、小野不由美先生の「十二国記」シリーズ。少女小説ですと永瀬さらさ先生の「精霊歌士と夢みる野菜」シリーズ、糸森環先生の「花神遊戯伝」シリーズ。ホラーですと小野不由美先生の『営繕かるかや怪異譚』。キャラクター小説ですと白川紺子先生の「後宮の烏」シリーズ、糸森環先生の「椅子職人ヴィクトール&杏の怪奇録」シリーズなどです。もっと挙げたいです。


――守備範囲が広い!! 止まらなくなりそうなのでこのあたりで(笑)。普段の執筆スタイルを教えてください。


小野:育児をしながらなので、なかなかまとまった時間はとれず……。家族が寝静まった夜中か未明くらいにコソコソと、リビングのテーブルにノートパソコンを置いて執筆しています。デスクもあるのですが、だいたいいつも資料が散乱していて使えません。

いよいよ刊行


――完成した文庫を見ての感想を教えてください。


小野:表紙のラフをいただいた時点で、これはすごいのができるのでは!? と思っていたのですが、完成したイラスト、扉などのデザインが順次届くにつれて、その予想以上の美しさに感動しました。とにかくすべてが美しいので、ぜひとも多くの方に実物を見ていただきたいです。


――ぜひこの物語の続きが読みたいです。今後の展開はどうなっていくのでしょうか。構想はありますか?


小野:構想というほどのものではありませんが、作中で使ってみたい検屍方法はまだあります。延明と桃花の関係にも、もうすこし変化を描けたらと思います。


――意外な検屍方法や昔ならではの工夫も、本作の読みどころですよね。まだ新しい検屍方法があるようで、今後も楽しみです。そして延明と桃花はどうなっていくのでしょう……。待ちきれません!

作品情報『後宮の検屍女官』



後宮の検屍女官
著者 小野はるか
定価: 660円(本体600円+税)

後宮にうずまく疑惑と謎を検屍術で解き明かす、中華後宮検屍ミステリ!
「死王が生まれた」大光帝国の後宮は大騒ぎになっていた。
謀殺されたと噂される妃嬪の棺の中で赤子の遺体が見つかったのだ。
皇后の命を受け、騒動の沈静化に乗り出した美貌の宦官・延明えんめいの目にとまったのは、
幽鬼騒ぎにも動じずに居眠りしてばかりの侍女・桃花とうか
花のように愛らしい顔立ちでありながら、出世や野心とは無縁のぐうたら女官。
多くの女官を籠絡してきた延明にもなびきそうにない。
そんな桃花が唯一覚醒するのは、遺体を前にしたとき。彼女には、検屍術の心得があるのだ――。
後宮にうずまく数々の疑惑と謎を検屍術で解き明かす、中華後宮検屍ミステリ!
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322012000507/


小野はるか

福島県在住。「ようこそ仙界! 鳥界山白絵巻」で第13回角川ビーンズ小説大賞〈読者賞〉を受賞してデビュー(刊行時『 ようこそ仙界!  なりたて舞姫と恋神楽』に改題)。「後宮の検屍妃」で第6回角川文庫キャラクター小説大賞〈大賞〉〈読者賞〉をダブル受賞。

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