インタビュー 「小説 野性時代」2018年2月号より
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脚本家、映画監督、そして小説家。“三足のわらじ”の男が挑む、小説でしかできないこと『弱虫日記』
取材・文:編集部
『百円の恋』『14の夜』……今や若手映画監督としても注目される足立紳さん。そんな足立さんが手がけた三作目の小説『弱虫日記』が刊行されました。少年たちの葛藤と前進を描いた最新青春小説についてお話を伺います。
── : 脚本家であり、映画監督でもありますが、小説を書かれたきっかけは何だったのでしょうか。
足立: 僕が脚本を担当した『百円の恋』を観た編集者から、「小説を書きませんか?」と連絡があったのがきっかけでした。映画でボツになったものがあれば見せてもらえないかと言われて、その中の一本がデビュー作『乳房に蚊』です。ボツになったプロットを小説用に書き直しました。
── : 小説を書かれてどうでしたか?
足立: 初めは書き方がわからなかったので、三十枚くらい書いて一度見てもらいました。そこから直しながら何とか最後まで書ききったという感じですね。とにかく書きづらくてしょうがなかったです。こういう感じの小説にしたいと思って、何冊か本も読みました。でも短篇を一本写してみてわかったんですが、自分が目指す作品の内容と、その作家さんの文体は全然違ったんです。「こういう感じだったら自分でも書けるかな」というものを真似して、でもうまくいかなくて、結局全然似ていないものになりました。
── : 脚本執筆に比べてどんなところが難しかったですか?
足立: 地の文ではあまり苦労しなかったんですが、場面の飛ばし方がよくわからず苦労しました。脚本だとワンシーンワンシーン、次の場面にどういうシーンを持ってきたら良いかがわかるんですが、それが小説だとよくわからなくて。ワンシーン書いて、次はどんな場面まで飛ばして良いのか、そのさじ加減が難しかったですね。
── : 小説じゃないとできないこと、小説だとできないことはありますか。
足立: 小説の方が余分な描写をガンガン入れていけるので、脚本より書いていて楽しいです。ただ脚本ばかり書いてきたので気づくと台詞のやりとりばかりになっていて、台詞じゃない文を意識的に入れるようにしました。シナリオライター仲間と話していると「台詞ばっかりの小説ってバカっぽいよ」と冗談で言われたりしますね(笑)。
── : 『弱虫日記』は主人公の瞬が、友達の隆造らと交流する中で、もがきながらもたくましく前に進んでいく姿が印象的です。本作を書くことになったきっかけなどあったのでしょうか。
足立: 原案を書いたのは20年近く前なんです。当時、14歳だった酒鬼薔薇聖斗が世間を賑わせていた時期で、子どもに対する世間の空気にすごく違和感があって。だからやんちゃな子どもたちが何人か出てきて、悪いことばっかりしまくるっていうシナリオを書いたんです。当時「14歳」に焦点を当てた作品が続きましたが、どれもいまいちピンとこなくて、自分なりの「子ども像」を描きたくて書いた感じですね。
── : 本作では前作『14の夜』に通じる「思春期の男子」を描かれています。
足立: 映画でも小説でも子どもが主人公だったり、子どもの話が好きなんです。子どもは予期せぬ動きをするので、見ていて飽きない。映画のシナリオを書く時も僕は子どもを入れたくなるんですけれど、それは子どもが一人入っているだけで物語が急に生き生きしてくるから。子どもを見ているのは面白いですね。
── : 書く上で苦労されたところと、面白かったところを教えてください。
足立: シナリオから小説にする時に、一度まったく違う形で書き上げたんですが、それは「映画として面白い」ものになってしまっているなと思って。もう少し小説的にしたいと大幅に変えました。この作品は瞬の一人称で進んでいきますが、最初、瞬はもう少しバカな主人公、という設定だったんです。でも書いてみて、バカなやつは自分の気持ちをこんなに言葉で説明できないよな、こいつバカじゃねえなって気づいて。でもバカなやつの一人称で書くのは難しかったので、主人公を自分で自分をわかってるやつにしました。逆に、隆造が、どうして自分がこんなにかっこつけてるのか、一生懸命振る舞っているのかを吐き出すシーンは、「ああ、ここ映画だったら超見せ場だな」と思いながら書いていましたね。書いていて一番気持ちよかったです。
── : 今後、小説として書いていきたいテーマは?
足立: 難しいことは考えていなくて、基本は「ウケ狙い」です。今までの作品にも言えることですが、常に笑えるものを書いていきたいですね。最近「キネマ旬報」で小説の連載も始まりました。才能の全然ない人たちの〝トキワ荘モノ〟という感じで、こちらも元々考えていたシナリオが原案になっています。