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特集

【「小説屋sari-sari」&「最善席」プレゼンツ】 角川文庫『俳優探偵』 佐藤友哉インタビュー

撮影:島本 絵梨佳  取材・文:おーちようこ 

常にカウンター側に身を置き作品を発表する佐藤友哉さんが「舞台」と、そこに集う俳優の葛藤と希望を描く、異色の舞台ミステリ『俳優探偵 僕と舞台と輝くあいつ』(角川文庫)を上梓されました。発売を記念し、その誕生のいきさつを語っていただきました。

全員、俳優という生き物だから、青春が動機の犯罪になりました

──『俳優探偵 僕と舞台と輝くあいつ』は『舞台男子』2ndシーズンと同時期に連載されていた小説です。
 
佐藤:『舞台男子』2ndシーズン開始にあたって、舞台を題材とした小説の執筆依頼をいただきました。もともと舞台は好きですし、お話を伺って、率直におもしろそうな仕事だとも思いました。

編集:『舞台男子』という連載を迎えるにあたり、「sari-sari」の読者に向けてなにか連動企画をやりたいと思っていたんです。そこで、普段、カウンターの側にいる佐藤さんの描く、「独りよがりの思い込み」とか「純度」というか「純粋さ」みたいなものが、ひたむきに舞台にかける若さみたいなものとリンクして、俳優さんたちの独自の世界が描けるのではないかと、考えました。

──そこで佐藤さんから、私が取材を受けることになりました。私事で恐縮ですが佐藤友哉さんはデビュー時の初インタビューからのおつきあいで、文庫で解説を書かせていただいたこともあり。
 
佐藤:おーちさんには、これまでに何度も取材をしていただき、関わりも多かったけど、舞台の話はあまり伺っていなかったので、これを機会にいろいろお聞きしよう、ということになりました。

──普段は取材する側なので、珍しい体験をさせていただきました。果たしてお役に立っていたのか……。
 
佐藤:生々しいエピソードや暴露話を知りたかったわけではなく、役者を取り巻く状況や空気感を知りたかったので、そこを聞けたのは大きかったです。舞台を観にくるお客さんたちが、役者を好きになるきっかけや、その好きな役者を見切ってしまう瞬間があるのか、あるとしたらどういうときなのか……といった話とか。
 あと、取材の一環として、楽屋裏に挨拶に行かせてもらったりしたときの周りの空気みたいなものはすごく参考になりました。

──よかったです。なので、タイトルに「探偵」とあり「ミステリ」と謳っていますが、嫉妬からの殺人といった殺伐とした事件ではなく、いずれも若さゆえの自意識過剰さや焦燥ゆえの起こってしまった事件を紐解く物語になっていて、うれしかったです。
 
佐藤:僕はそんなに作風に幅はないのですが、できる限り、角川文庫の青春ミステリとして店頭に並んでいる、という佇まいの小説を目指しました。
 絶対に守ろうと心がけたのは、「人を殺さない」ということでした。舞台に立つ若者たちの連作を書くのに、毎回、たくさん人が死ぬという設定はあまり現実的じゃない、と。あと最近は「日常の謎」系のミステリが流行っているので、人を殺さなくてもミステリとして認知してもらえますし。ただ「日常の謎」には、殺人がないからといって、悪意ある人間が罰せられない話が多くて……罪を問われることはないのに、悪意だけが浮き彫りにされてしまう話は読後感がよくないし、今回の題材には合わないし、なにより僕がそういうの苦手なんですね(笑)。なので、被害者と加害者がいるというのではなく、人々の思いを謎にして、それを読み解く話にしました。

──だからこそ、それぞれの動機を知ると、切なくなります。
 
佐藤:謎が解かれたときに、主人公といっしょにざわざわしていただけたらいいかなと。事件の動機が青春に通じているというか。動機が物語の根幹に関わっていくことを意識して書いたので、おそらく厳密に言ったらミステリではないのでしょう。
 結局、僕は、先ほども話にありましたが、王道ではなくカウンター側にいることが多いので、そういう意味でも僕らしい小説になったと思っています。

──確かに事件を解決するだけでなく、登場人物それぞれがなにかを見つけます。
 
佐藤:クリエィテビティで競う話にしたかったんですね。全員が、俳優という生き物だから、そうなった……という話を書きたかった。

2.5次元舞台の置かれた状況すら、書くそこに意味があると思いました

──改めて『俳優探偵』について説明すると、登場するのは、18歳の決して売れているとはいえない俳優、ムギ君ことの麦倉。そして同じ事務所の同期で「王子」と称される人気俳優の水口たちの舞台を巡る物語です。
 収録された物語は三篇。第一幕「舞台上で消えた役者」では、人気漫画の舞台『オメガスマッシュ THE STAGE』初日に起こった事件。第二幕「殺人オーディション」では新進気鋭の劇作家が初めて挑む2.5次元舞台作品『舞台版 ヴァンパイア・ドライブ』出演オーディションでの事件。最後の第三幕「観ると死ぬ舞台」ではその『舞台版 ヴァンパイア・ドライブ』が千秋楽を迎えるまでの事件が描かれます。ことにこの三幕目が「作品の完成とはなにか?」を問う物語で驚きました。

 
佐藤:この第三幕は、文庫では最後に掲載されていますが、連載時では最初に発表した話なんです。手探りだった部分も大きく、まだ距離感もつかめていなかったので、結果的には、いちばん「佐藤友哉」の濃度が濃い小説になりました。
 これは僕の手癖みたいなものなんですが、最初にいちばんガツン、と来るものを持ってきて、そこから話を展開していくという形が好きなんです。今回は、書籍化するにあたり、話の順番を組み直しました。これは担当編集者の提案で、さすがだなと思ったんですが……でも、僕は最初、それはいやだったんですね(笑)。
 
編集:えっ! そうだったんですか……ごめんなさい。
 
佐藤:書籍化に向けて直していくうちに、まずは2.5次元舞台についての説明があって、実際に役者が演じるシーンを描くのが親切だということに気づきました。第三幕を最後にもってきたことで、話がわかりやすくなりました。

──第三幕「観ると死ぬ舞台」は佐藤友哉さんテイスト満載で、麦倉のどうしようもない駄目さ加減もさることながら、物語全体に関わる大きな謎も解かれます。同時に「物語の完結とはなにか?」が問われ、驚きました。
 
編集:ひとつお伝えすると収録の並びがかわることで、佐藤さんの持つ作品世界が損なわれるとは思っていませんでした。むしろ、構成を変えることで、より美しいコード進行で、佐藤さん独特のメロディや濃度の変化をきちんと伝えられるんじゃないかと。
 
佐藤:今はとても感謝しています(笑)。

──そのなかで、2.5次元舞台を題材に選んだ理由も気になります。
 
佐藤:舞台の起源を辿っていくなかで、今、もっともカウンターの側に立っていると思ったからです。それと、俳優を描いた小説は多いけれど、2.5次元舞台を題材にした小説はまだどこにもないだろうと思ったからというのもあります。
 あとは、やっぱり僕の立ち位置として、ついカウンターを題材にしてしまうというか……たとえば新本格ミステリでは『クリスマス・テロル invisible×inventor』を、純文学でも『1000の小説とバックベアード』と言った、本流にあらがったような物語を書いてしまうという癖(へき)が……(笑)。といっても『俳優探偵』は、一般的な演劇に対するカウンターを書いているのではなく、2.5次元舞台というカウンターのなかでどう生きるかという話ですけども。

──確かに、『クリスマス・テロル invisible×inventor』は衝撃的で当時、問題作として話題となりました。作家を目指して書き続ける男の話ですが、次第に著者である佐藤さんの当時の状況がリンクしていき、ある意味、完結を放棄した、作家の慟哭のような物語でした。そして、『俳優探偵』でも麦倉自身が2.5次元舞台の位置付けや、自分たち若手俳優が置かれている状況に思い悩みます。実は、うわー……これを書いてしまうのか、と思いました。
 
佐藤:主人公が十代でけっこうひねくれているので、あれこれ否定していますが、それは憧れや嫉妬も含めた葛藤であったりもして。だから、主人公は2.5次元舞台が嫌いなわけではないし、むしろ、そこで輝きたいと思っている。
 演ずる役者が悩み、新たな文化として勢いもある2.5次元舞台というジャンル自体が置かれている状況を描写することで、『俳優探偵』という本そのものがカウンターになる、と考えました。



※インタビューは、まだまだ続きます。続きは、観劇サイト「最善席」をご覧ください。
「最善席」
http://saizenseki.com/



佐藤 友哉

1980年生まれ。2001年『フリッカー式 鏡公彦にうってつけの殺人』で第21回メフィスト賞を受賞しデビュー。『1000の小説とバックベアード』『デンデラ』など著書多数。

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