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特集

創作の衝動は死なない 綾崎隼『君を描けば噓になる』Twitterインタビュー

取材・文:編集部 

​感動の声がやまず重版が決定したアート青春小説『君を描けば嘘になる』。​1月26日(金)18時、カドブン編集部は​本作を​刊​​​​行​​したばかりの綾崎隼さんにTwitter上で突撃インタビューを行いました。綾崎さんにとっての「天才」とは? 「創作」とは? 再構成してお届けします。

── : 今作の題材はアートです。まずはこのテーマで書こうと思われたきっかけを教えてください。

綾崎: 最初に担当編集から言われたのが「綾崎さんの考える天才を書いて欲しい」ということでした。今日はサッカーの話をしちゃダメだよと釘を刺されているので、天才がテーマになった理由は話せないんですけど、とにかく天才について書いて欲しいと。その後、アートを題材にしませんかというのも担当編集から提案されました。僕は芸大出身なので、アートと本気で向き合っている人たちを若い頃に沢山見ていたんです。サークルの同輩に実際に美術家として生計を立てている子もいます。そんなところからスタートしました。

── : 芸術大学で、実際の美術作家さんをご存じだったことが、作品作りの上でも大きかったのですね。作中では、美術教室やコンクール、名画のエピソードが盛りだくさんですが、どのような取材をされましたか?

綾崎: 箱根や美術館など、登場する舞台には、ほぼ取材に行っているんですが、特に印象的だった場所が二ヵ所あります。  一つは美術コンクールで、損保ジャパン日本興亜美術財団さんが主催されている「FACE展」です。本編を最後まで書いた後、雑誌と単行本の担当編集と一緒に取材に行きました。広報さんにお話を聞き、想像で書いた部分を修正していったんですが、やはり内情を知ることで浮かぶアイデアも多く、本当に役に立ちました。補足になりますが、作中ではコンクールの負の側面も描いているんですけど、そこは取材前からプロットで組んでいた物語上の演出なので、FACE展とは関係ありません。取材後、実際に美術賞展を見たんですが、率直に言って「これ、本当に新進作家のためのコンクールなの?」という感想を抱きまして。世の中に天才って、こんなに沢山いるのか! と圧倒されました。今年も新宿で2月末から開催されるので、『君を描けば噓になる』を読んで、コンクールに興味を持った方はぜひ見に行って欲しいです。本当に、衝撃的なので。今年も絶対に見に行こうと思っています。  もう一つは作中にも登場するミュシャ展です。国立新美術館で去年開催されましたよね。65万人以上の来場者数があったらしいですし、見に行った方も多いと思います。入館して最初の一枚を見た瞬間に、圧倒されて。気付いたら涙が溢れてきて。一枚の絵が、こんなにも心を揺さぶるのかと、言葉を失いました。執筆期間に『スラヴ叙事詩』が日本にやって来てくれたって、何だか運命的なものを感じてしまいます。

── : 美術作品は生で鑑賞すると印象が違いますよね。アートの世界が好きな方やアート業界の方には『君を描けば噓になる』は、すごく楽しんで読んでいただけると思います。さて、主人公は才能あふれる二人の画家です。一人は天才肌の瀧本灯子、もう一人は優等生の南條遥都。彼らはどのように生まれたのでしょうか。二人のキャラクターについても教えてください。

綾崎: 二人の「天才」を書く。男女にする。異なるタイプで描く。という場所からスタートしました。<自分が畏怖を抱くタイプの天才>が灯子で、<自分に今の10倍くらい努力する才能があったら届くかもしれないなと思うタイプの天才>が遥都です。「灯子」という名前が気に入っていて。登場人物は子どもなので、いつも人と違う名前をつけてあげたいなって思うんですけど、彼女は一瞬で「灯子」という名前が浮かんで、もう絶対に「灯子」だという確信もあって。この子は自分の名前まで引き寄せる力があるのかと驚きました。

── : 灯子は天から授かった名前ですね。名前といえば、綾崎さんの超人気シリーズに登場する、あの一族の名前も『君を描けば噓になる』にチラリと出てきますね。

綾崎: 舞原さん家のあの子ですね。興味のある方は、ぜひメディアワークス文庫から発売されている『ノーブルチルドレン』シリーズを。

── : 南條遥都には一つ下の妹・梢がいます。彼女はアートの天才たちに囲まれながら、漫画家を目指しています。彼女の心情はどうやって描かれたのでしょうか?

綾崎: 僕自身の感情が一番投影されているのが、梢なんだと思います。彼女は一つ年上の天才をずっと間近で見ていて、夢を叶えられない自分に葛藤しています。僕は小学4年生の時に小説家になりたいと思ったので、9歳かな。それからデビューまでに20年近くかかっていて、その間に、次々と同世代の天才たちが作家として世の中に登場しています。十代の後半からそれが始まって、二十代になっても続いて、のたうち回って、苦しんで、新人賞の審査員を恨んで、落ち込んで、みたいな。敵わないって何度も思って、でも、諦めようという気持ちになったことだけはなくて。小説を書くことが大好きだから。報われるかも分からない道の上で、とにかく書き続けていました。だから梢と一緒なんです。天才を天才だって気付ける程度の視力はあって、自分の実力もだんだん分かってきて、でも、衝動は死なないし、やめることも絶対に出来ないんです。彼女は漫画で、僕は小説でしたけど、そうだったよな。苦しいよな。と、胃を痛くしながら書きました。デビューしたらしたで同期に一つ年上の天才がいて。野﨑まどって言うんですけど。凡人は努力の量とか執念で戦うしかないんだなと思っちゃいます。仲良いんですけど。あ、天才って普通にやばいんだな。と、会う度に、梢のように思っています。

── : 綾崎さんにそこまで言わせる野﨑まどさん、いったいどんな人なんでしょう……。それはともかく登場人物の中で創作者・綾崎隼に一番近いのは梢なんですね。次はいよいよ最後の質問です。自分の才能に向き合う若者たちの青春小説であり、これまでの綾崎さんの作品とは違うアプローチで「愛」のあり方を問う小説でもあると思います。今回の試みはいかがでしたか。

綾崎: 本当に素敵な小説を書けたので、三人の担当編集にとても感謝しています。というのも、自分からナチュラルに出てくることはない「愛」の話を書けたからです。僕、結局、恋愛小説を書いちゃうんです。本格ミステリを書いても、SFを書いても、スポーツ小説を書いても、呼吸をするように恋愛要素が主軸に絡むんですけど、男の子と女の子の恋愛の形って、そこまで多くあるわけじゃないというか。これまでに25冊書いてきて、様々な恋愛小説に挑戦させてもらいました。でも、『君を描けば噓になる』には師弟愛や兄妹愛、様々な愛が登場しますけど、今回、根幹で描いた一つの愛は、今までに書いたことがないものだし、少なくとも僕は読んだことがないし、天才を描いたこの小説でしか成立しない、生まれないものだったので、本当に書けて良かった! と、強く思うんです。だから、きっと、この『君を描けば噓になる』は、綾崎隼を知らなかった人たちに手に取ってもらえる本だと思うんですが、それを期待してもいるんですが、今まで僕の本を好きでいてくれた方たちにも読んで欲しいです。本当に、心から。

── : 『君を描けば噓になる』が描きだした愛のあり方、たくさんの方に知っていただければと思います! インタビューはこれにて終了です。綾崎さん、本日はありがとうございました。

綾崎: こちらこそ、ありがとうございました! 楽しかったです!(編集者に言われたことを忠実に守るタイプの作家なので、サッカーの話題を禁じられ、ロシツキーとモドリッチの天才性について言及出来なかったことだけが残念です)


綾崎 隼

1981年新潟県生まれ。2009年『夏恋時雨』で第16回電撃小説大賞・選考委員奨励賞を受賞。翌年、同作を改題した『蒼空時雨』でデビュー。本作は初の文芸誌連載作品。

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