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特集

ダ・ヴィンチの秘密をめぐる、少年とナポレオン軍の攻防! 歴史冒険小説。

撮影:ホンゴ ユウジ  取材・文:タカザワ ケンジ 

秘密の場所に隠されたレオナルド・ダ・ヴィンチの「ノート」。主人公の少年ジャンは、
ナポレオン率いるフランス軍や謎の修道女を相手に数々のピンチを切り抜けながら、ノートの行方を追っていく——。
新境地である歴史冒険小説を書き上げた真保裕一さんに、お話を伺ってきました。

<本インタビューは単行本刊行時、「本の旅人」2015年3月号に掲載されたインタビューを転載したものです>

大人から子どもまで

── : レオナルド・ダ・ヴィンチが残したノートをめぐって、ナポレオン率いるフランス軍と、ダ・ヴィンチの末裔である少年ジャンとその仲間たちが戦う……。スケールの大きな冒険小説です。作品が生まれた背景から教えてください。

真保: 『ホワイトアウト』という作品が映画化されて、幸いにも大ヒットしたおかげで、映像化の企画を手伝ってほしいというお話をたびたびいただくようになったんです。ただし、映像化といっても『アマルフィ』のように実現した企画は少なくて、頓挫した企画がかなりあるんですよ。『レオナルドの扉』もそのひとつで、オリジナル長編アニメを作りたいのでシナリオを、という依頼がきっかけでした。

── : 真保さんは作家になる前はアニメーターをされていて、『笑ゥせぇるすまん』などの演出も担当されていたんですよね。作家になってからも、劇場版の『ドラえもん 新・のび太の宇宙開拓史』や『鋼の錬金術師 嘆きの丘の聖なる星』などの脚本を書かれています。

真保: ええ。でもシナリオを書き上げたものの、アニメの企画がなかなか進まなかったんですよ。マンガにするという話もあったんですが、それも進まず。幸い僕は小説が書けるので、原作があればこれは面白い、という人がいるのではないか、とシナリオを元にして書くことにしたんです。

── : 真保さんはこれまでミステリを中心とした作品をお書きになってきています。意外なことに大人から子どもまで、という幅広い読者層を意識した作品は初めてですね。

真保: 乱歩賞を受賞してデビューしたあと、編集者にこういうのもあるんですよ、とミステリ以外のいろいろなアイディアを出したんです。しかし、思った以上に受賞作の評価が高かったこともあって、いまはよそ見をしないで読みごたえのあるミステリで攻めようよ、と編集者に諭されまして(笑)。もちろん、ミステリが好きで乱歩賞に応募したので、それでよかったんですけどね。ただ、最近は時代ものを書いていたりもしていて、そろそろこういうものを書いても良いだろう、と思ったんです。

── : ミステリにも共通するのがストーリーテリングの巧みさだと思います。『レオナルドの扉』では、主人公たちに難問が次々に降りかかり、それをどう切り抜けるかが読みどころのひとつになっています。

真保: 胸高鳴る二時間をすごせるような冒険映画が作りたかったので、シナリオの段階で難問をひとつずつクリアする構成にしていました。主人公のジャンたちが、ダ・ヴィンチのノートにあるアイディアを使い、問題を解決することで一丸となっていくわけです。いまアニメで真っ正面から冒険ものをやっているものって意外とないんですよね。『ドラえもん』の劇場版がやっているくらいで。オリジナルでそれをやりたいというのが今回のねらいだったんです。

ダ・ヴィンチのノート

── : 偉大な芸術家であり、科学者でもあった天才ダ・ヴィンチが残したノートという設定もワクワクさせてくれます。

真保: 子どもから大人までを対象にした場合、子どもは主人公といっしょにいろんな冒険の旅に出るだけで十分楽しんでくれると思うんです。問題は大人。そこで思いついたのがレオナルド・ダ・ヴィンチでした。そういえば昔、ダ・ヴィンチのノートが出てくる話を書こうとしていたな、と。作家になる前にマンガ原作を書いていた時期があって、その企画のひとつにあったのを思いだしたんです。映画のプロデューサーたちに、こういうのがあるけどどう? と見せたら、これならきっと大人も子どもも楽しめるような作品ができるだろう、と乗ってくれたんです。

── : ダヴィンチのノートは実在するんですよね。

真保: ええ。日本では「ダ・ヴィンチ手稿」と訳されています。僕はもともとアニメーターだったこともあって、美術館でよくデッサンを見ていたんです。そのおかげでノートの存在を知ることができた。しかもその半分以上が見つかっていないと言われているというので、これは使える、と思ったんです。

── : ダ・ヴィンチ以外にも、ミケランジェロのエピソードや、ジャンの時代の為政者、ナポレオンなど歴史上の人物も登場します。

真保: ナポレオンがイタリアの貧乏貴族の生まれだと知ったときには、この物語のために用意されたようなものじゃないか、と小躍りしましたね。しかも最初はイタリア語しかしゃべれなくてパリで苦労したという逸話もあったと聞いて「ああ、それで最初にイタリアに攻めていったんだ」と納得しました。

── : 敵役でも、ナポレオンのような権力者から実際にジャンたちを追うバレルのような人物まで、キャラクターが個性豊かなのもこの作品の魅力になっています。

真保: ナポレオンはさすがに上の人すぎて、身近な存在じゃないんですよね。もっと地べたを這うような視点が欲しくて、バレルという人物に代表させました。彼を貴族にしたのは、ある程度上の階級で命令を下す人物にしたかったから。当時、フランス軍は連戦連勝だったんです。なぜ強かったかというと、金で雇われた兵隊だけでなく、志願したり徴兵に応じたりして市民が実際に戦ったからなんです。ナポレオンのためといいつつ、実際は家族のために働いている人が多かった。バレルのような人物が、迷いながら戦争をしているというところを書きたかったんですよ。子どもにも、視野を広げていろんな物語を楽しんでもらえればと思います。

── : いまの子どもたちが楽しんでいるアニメやマンガの主流は、完全なファンタジーで別世界のお話が多いですよね。『レオナルドの扉』は実在の人物も出てくるし、現実味のある冒険小説になっているのが特徴だと思います。

真保: とくに自分の場合、ミステリというロジックが必要なジャンルで物語を書いてきたので、魔法でもなんでもアリの世界はちょっと書けないですね。それでは納得してくれない読者がすでにいるので(笑)。ダ・ヴィンチのノートについてもかなり調べて、スケッチに残されているものを元に、科学的な要素を加えたりしました。

── : ダ・ヴィンチが残したアイディアがジャンによって現実になっていく。それも夢がふくらむ展開ですね。

真保: ダ・ヴィンチは本当の天才で、建築や医学など、あらゆることをやっていたんですよ。ダ・ヴィンチがミラノに行ったのは、音楽家としてだったという話もあります。自分で楽器をつくって、その演奏者として行くのが主な目的だったという説です。それも自分を売り込むためであって、売り文句のひとつに武器もつくれます、というのもあった。調べれば調べるほど、これも書きたいあれも書きたいと、面白いことがたくさん出てきました。

シナリオと小説の違い

── : ジャンたちがイタリアからパリへと旅し、地下水道やノートルダム寺院、ルーヴル美術館などで活躍します。舞台設定も華やかですね。

真保: アニメでは美術の力、背景の力がすごく大きいんですよ。背景に絵になるシーンがないとスケール感がダウンしてしまうんです。ですから、どこで何をさせるかがとても重要。実際、この作品も名所・世界遺産巡りみたいなところがあります。実写では、なかなかそういうところではロケができないですよね。アニメなら美術の人に一生懸命書いてもらえばできるので、そういう場所で人物を動かしたら楽しい冒険ものができるなあ、という発想でした。

── : シナリオから小説へ、ということですが、両者の違いについてはどうですか。

真保: もともと自分の小説の書き方が、映画をつくるのによく似ているんですよ。まずプロットを入念につくって、着地点を決めるんです。そこに行くためにはこのシーンが必要だ、と逆算して組み立てます。ただ、小説の場合、人物の気持ちの流れに納得がいくようにすることはより強く意識しますね。映像で見ている限りは多少飛躍があっても受け入れてもらえるんですが、小説は読者が立ち止まって考えることができるので、不自然に感じられないようにエピソードが多くなります。それと視点の問題。シナリオだとどんな視点からでも書ける。それによって、登場人物の心情を外側から描くことができるんですが、小説の場合はあまりたくさんの視点が出てくると読者が混乱してしまう。視点人物を絞る分、小説のほうが登場人物についての情報量は多くなりますね。

── : お話を伺っていると真保さんの監督でアニメ化された作品を見てみたいなあ、と思うのですが、いかがですか?

真保: 僕は監督をやらせてほしいって言ったんです。でも、アニメの仕事をしていたときの僕を知っている人は、お願いだからそれはやめてくれ、と(笑)。こうしたい、というイメージをはっきり持っている分、譲れないところがあるからなんでしょう。

── : なるほど。今回、小説というかたちでひとつの完成形ができたわけですから、ぜひ多くの人に読んでもらって、アニメ化を期待したいですね。

真保: そうですね。二時間たっぷり楽しめる作品になると思いますね。


真保 裕一

91年『連鎖』で江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。著書に『ホワイトアウト』『奪取』『遊園地に行こう!』など。

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