写真/橋本龍二 構成・文/UNCHAIN
主人公・一条文華を演じた小芝風花さんインタビュー
テレビ画面から這い出て、呪われた者を死に至らしめる、白い服に長い髪の“貞子”。その強烈なホラーアイコンは、日本のみならず世界に大きな衝撃を与え、現在でも絶大な人気を誇る。
最新作『貞子DX』は、SNSで拡散される貞子の呪いを24時間以内に解明するために奔走する主人公たちを描いた超体感型≪謎解き≫ホラーサスペンスだ。主人公のIQ200の天才大学院生・一条文華を演じた小芝風花は、本作が本格ホラー初挑戦。どんな思いで、貞子シリーズに向き合ったのか。
「本当にホラー?」と疑うほどポップな掛け合い
――本作で、貞子の呪いと真っ向から戦う一条文華を演じた小芝さんのひたむきな存在感が素敵な作品でした。本格的なホラー映画のご出演は初めてだそうですが、オファーがあった時はどんなお気持ちでしたか。
小芝:まずは、たくさんの人に愛される貞子シリーズに携われるというのが素直に嬉しかったです。でも、登場人物の会話の掛け合いがテンポ良く進むシーンも多かったので、〝いま本当にホラーを撮ってるのかな?〟という感覚が撮影中もずっとあって。ホラー映画の撮影は怖いというイメージがあったのですが、楽しく撮影させていただきました(笑)。
――小芝さん演じる一条文華は、貞子の呪いを24時間以内に頭脳で解決するという、IQ200の天才です。この人物を、どのように解釈して演じられましたか。
小芝:IQ200なんて想像できないところがありますよね。だから、ひたすら台本を読んで文華の心情を読み解くことに時間を費やしました。文華は、「呪いは怖い」という周囲の人たちとは真逆で、怖がらずに真っ向から呪いを否定します。ただ逃げるだけではなく、呪いに立ち向かっていくというのは、これまでの貞子シリーズになかったものだと思いますし、新鮮に感じました。
最初に台本を読んだときは、何が起きても表情を変えない落ち着いたイメージで、冷たく見えてしまうような印象があったんですけど、撮影現場で木村ひさし監督がセリフを追加してくださって、どんどん人間味が増していったと思います。
――クールで淡々とした口調ですが、家族を想う優しさが、文華の言葉の端々から伝わってきました。
小芝:私は普段、喜怒哀楽が激しい役柄を演じさせていただくことが多いと思います。でも今回は、絶対そっちに引っ張られちゃいけないと思って。そこは、どう反応していいかの加減が難しくて、悩みながら演じていましたね。文華は冷静で頭もいいんだけど、ちょっとズレている可愛らしさや、家族への想いの強さみたいなものは、現場で足していただきました。ちょっとした動きや、とっさに出てしまった言葉が採用されることもあって、監督が新しい要素をどんどん足していかれるのが面白かったです。
――ポスターにもある、耳の後ろに親指を当てるポーズもかなり印象的ですね。
小芝:実はこのポーズも、現場で急きょ言われたものなんです。あれは、文華が耳の後ろのツボを押して、血流をよくして方程式を解いたり、記憶を辿ったりしているという表現なんです。監督の細かいこだわりもあって、「もうちょっとゆっくり手を動かして」とか「角度はこのくらいで」とか、しっかり指導を受けながらやっていました。
――川村壱馬さんが演じる自称“王子様”占い師の前田王司と、文華のやりとりが、軽妙で思わず笑ってしまいました。川村さんと初めて共演されてみていかがでしたか。
小芝:男らしいカッコいい感じの写真を拝見していたので、〝怖い方だったらどうしよう〟と(笑)。でもお会いしてみると、共通点が多くてとても話しやすかったです。学年は川村さんが1つ上ですがほぼ同い歳ですし、大阪出身なのも一緒なんです。
――常に冷静な文華と、キザでナルシストなのに終始怖がっている王司がバディとなり、貞子に立ち向かう本作ですが、二人の対比も面白かったです。
小芝:実は、川村さんご自身のキャラクターと、演じられた王司の役柄は真逆なんです。川村さんは話し方や声も落ち着いているのですが、普段のご自分とかけ離れているようで悩まれていました。そのなかで、すごく真面目で熱い方なんだなと、いろんなシーンをご一緒して感じましたし、演技に対する姿勢に刺激を受けました。
――お芝居について、お二人で話されたりもしたんでしょうか。
小芝:王司には大きな感情の波があって、私が演じた文華にはほとんど波がない。なので、「二人のこのアンバランスさが面白いと思うから、お互いに振り切ってやったほうがきっと面白いよね」という話は現場でしていましたね。
怖がりだけど、見たがりでもある
――小芝さん自身は、ホラー作品はお好きでしたか。
小芝:私は怖がりの見たがりというか…。家族がホラー映画が大好きで、子どもの頃にリビングで『リング』を観ていて。私も、怖がりながら恐る恐る観ていましたね。
――好奇心旺盛だったんですね。『リング』をご覧になって、貞子の世界観をどう感じましたか。
小芝:もう、トラウマです。しばらくトイレに一人で行けなくて、夜は寝ている母を起こしてトイレについてきてもらいました(笑)。その強烈な恐怖体験が記憶に残っているので、〝撮影で呪われたらどうしよう〟という不安もありましたが、無事に撮り終えることができてよかったです。
――今回演じた文華と、ご自身に共通点はあったりしますか。
小芝:それが…ないんですよね…。IQ200ももちろんないですし(笑)。もし家族がピンチになったら全力で助けたいとは思うのですが、呪いに対してだけは、どうしていいかわからないです。文華は基本的に「全ては科学的に解明できる」というスタンスですが、私は呪いってあるんじゃないかと思ってしまうタイプなので。
――ご自身はオカルトを信じているほうなんですね。
小芝:信じています! だから絶対に心霊スポットには行きません。呪われに行くようなものですからね! でも…誰もいない実家で、モノが勝手に動いてたりっていうのはありましたね。
――えっ!? モノが動いてたんですか。
小芝:そうなんです。大阪に住んでいた頃、家族全員が1階にいた時に、2階の子供部屋から大きな音が聞こえたんです。それで見に行ったら、消しゴムケースが落ちてたり、タイヤ付きの子ども用の椅子が動いたり…。そこは、引っ越した当初から玄関にお札が張ってあるような家で、霊道が通ってたらしいんです。母は2回ぐらい、不思議なモノを実際に見ていますね。
――それはスゴイ経験ですね。もし、小芝さんが本作のように呪われたら、どうすると思いますか。
小芝:私は絶対に、好奇心で呪いのビデオを見ません! もし見てしまったとしたら、何もできず、怯えながら呪われてしまうと思います(笑)。きっとてんやわんやで、「どうしよう!」と焦りながら死んじゃう気がします(笑)。
――本作も「呪いのビデオ」がSNSで簡単に拡散されてしまうというお話ですから、油断しているとSNSでつい観てしまいそうですよね。
小芝:たしかにそうですね。今作では、現代社会に現れた新しい貞子が描かれます。VHSの時代からSNSに変わり、拡散力が強くなっていて、呪いの広まり方は今までの比じゃないんです。ホラーエンターテインメントとして、すごくリアリティがあるんじゃないかなと思います。
それから、今までの作品だと「貞子の呪いからどう逃れるか」がテーマだったと思いますが、今回は貞子との真っ向勝負なんです。方程式や科学を駆使して戦うクールな文華を演じることは、私自身にとっても、刺激的な挑戦でした。貞子との勝負の行方を、ぜひ劇場で見守っていただけたらと思います。
プロフィール
小芝風花 (こしば ふうか)
1997年生まれ、大阪府出身。2011年に「ガールズオーディション2011」でグランプリを受賞。翌年、ドラマ『息もできない夏』(フジテレビ)で俳優デビュー。『魔女の宅急便』(2014年)で主人公・キキを演じ、第57回ブルーリボン賞新人賞、第24回日本映画批評家大賞新人賞に輝く。2022年は、ドラマ『妖怪シェアハウスー帰ってきたん怪ー』(テレビ朝日)で主演。6月には劇場版『妖怪シェアハウスー白馬の王子様じゃないん怪ー』が公開された。現在放送中の日本テレビ日曜ドラマ『霊媒探偵・城塚翡翠』に千和崎真役にて出演中。
映画情報
『貞子DX』
監督:木村ひさし
脚本:高橋悠也
音楽:遠藤浩二
世界観監修:鈴木光司
出演:小芝風花
川村壱馬(THE RAMPAGE) 黒羽麻璃央 八木優希 渡辺裕之
西田尚美 池内博之 他
配給:KADOKAWA
10月28日(金)より全国公開
(C)2022『貞子DX』製作委員会
STORY
「呪いのビデオ」を観た人が、24時間後に突然死する事件が全国各地で発生した。IQ200の天才大学院生・一条文華(小芝)は、テレビ番組で共演した人気霊媒師のKenshin(池内)から事件解明の勝負を挑まれる。「すべての事象は科学的に説明できる」と呪いの存在を否定する文華は、“自称”占い師の前田王司(川村)と事件を解明するために立ち上がったが、仮説は次々と崩され、24時間のタイムリミットが迫ってきてしまうが……。
小説「リング」とは……?
https://www.kadokawa.co.jp/product/199999188001/
1991年に発表された鈴木光司によるホラー小説。一本のビデオテープを観てしまった少年少女4人が、なんと同じ日の同時刻に死亡してしまう。しかも恐怖に慄いた表情で……。雑誌記者の主人公が、その事件に興味を持ち、「呪いのビデオ」を作った「山村貞子」の過去を調べる。禁断のビデオには、井戸から這い上がる長い髪で白装束をまとった女性の姿が映っていた。ジャパニーズ・ホラーの金字塔と呼ばれる傑作ホラー小説。
貞子とは……?
鈴木光司の小説を実写化した映画『リング』(98年)の中で、「呪いのビデオ」に出てくる長い髪で白装束姿の女性。クライマックスでは、テレビ画面から這い出てきて呪い殺すというショッキングな姿が話題となり、社会的ブームにもなった怨霊である。『リング』シリーズはハリウッドリメイクも果たし、いまや世界的認知度を誇る。2022年は、3月にYouTuberデビューを果たし、世界的ホラーゲーム「Dead by Daylight」にも登場。10月には、伝統芸能・歌舞伎とのコラボ「日本怪談歌舞伎(Jホラー歌舞伎)貞子×皿屋敷『時超輪廻古井処』」が実現した。