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特集

家に帰らず2カ月間! 寝床探しから災害の恐怖まで 『ルポ路上生活』著者・國友公司 インタビュー

取材・文・写真:藤中一平

ホームレス=貧困のボトムではなかった

「ホームレスになってしまうことが私は怖い」(書籍本文より)。
「ホームレス」という言葉から、皆さんは何を思い浮かべるだろうか。
「貧困」「不潔」「お腹が空いていそう」。しかし、現実とイメージは全く違うようだ。その実態を、自ら路上生活を営んで取材したルポライター・國友公司さんに聞いた。

※本記事は、「ダ・ヴィンチ3月号」に掲載されたインタビューを転載したものです。


ルポ路上生活
著者 國友 公司
定価: 1,650円(本体1,500円+税)
発売日:2021年12月27日


「ホームレスは物書きになれたら、いつか書きたいと思っていたテーマでした」

大学の卒業論文では、新宿都庁下のホームレスを研究していた國友公司さん。前作『ルポ西成七十八日間ドヤ街生活』(彩図社)では、大阪・西成の飯場やドヤのスタッフとして実際に住み込みで働いた日々を記録し、鮮烈なデビューを果たした。新進気鋭のルポライターだ。
昨年末に上梓した新作『ルポ路上生活』は國友さん自身がホームレスとなり、文字通り路上生活をした2カ月間を記録したルポルタージュだ。東京都内西部、東部、河川敷の3カ所を中心に、ホームレスと共に生活を見つめ、そこで出会った強烈な個性との交流を綴っている。

「ホームレスのことを書くのは、会社を辞めてまっさらな状態になったらやろうと自分の中で温めていた企画でした。もっと先のことだろうと思っていたんです。今回出版社さんからお話をいただいて、通るわけないと高を括っていくつか企画案を出した中に、試しにホームレスの案をいれてみたら、通ってしまった。いざやるとなると会社を辞める勇気はなく、どうしようと。そしたらだんだんやりたくなくなってきた。いつやるかを決めないとダメだなと考え、東京オリンピック開幕に合わせて無理矢理はじめたという感じです」

路上生活の実態はイメージと180度違う

路上生活をはじめてみると、側から見るのと当事者として生活するのとでは、かなりのギャップがあったようだ。

「ホームレス=貧困のボトムと思っていたのですが、全然違いました。まず都内は炊き出しが充実している。多い日には一日七食の『炊き出しツアー』を組んでいる人がいて、メニューを選り好みできるほどです。衣料や生活用品の配給、区役所の無料のシャワー、ボランティア団体から少額のお金がもらえることさえあります。もちろん仕方なくホームレスになってしまった人もいますが、生活保護など抜け出せる仕組みもある。支援が充実している素晴らしい国だと心から思いました。ホームレスの世界は入れ替わりが早く、私が取材した2カ月という期間も長いほう。長くホームレスをやっている人ほど、社会の集団生活に馴染めず、あえてこの生活を選んでいる傾向があるようでした」

路上生活者は場所によって、年齢層や人の気質も大きく違うと國友さんは続ける。



「東京西部の新宿は、都庁下など屋根があり雨風が防げる場所に拠点となる寝床を確保でき、年齢層も比較的若い。もし路上生活をはじめるなら新宿一択です。上野駅周辺、隅田川高架下などの東部は年齢層が高く、生活保護と路上生活をいったりきたりしている人、年金や貯金があるのにあえて家を借りない人がいます。高級スーパーの成城石井で買い物するお金持ちホームレスには驚かされました。総じて今を生きるというか、先のことを計算して考えない人が多かった。そして河川敷は、路上生活界の中においても異世界。ホームレスレベルが高く、個性的な人たちが暮らしている聖域のような場所でした。私の気質に合っているのか、河川敷は居心地が良かった。ホームレスをするなら私は河川敷。しかし、いざとなれば河川敷のホームレスで良いとまでは、流石に思えませんでした」

本書は、路上生活の終わりが決まっていた者の視点だからこそ書ける淡々とした文章が、路上生活の実態をよりリアルに感じさせてくれる。内容とは裏腹に、心地良く文章が読み手に届き、通り過ぎていく。

「ホームレスと言っても一括りにできず、個々で状況が違う。故に支援の難しさを取材で感じました。だからと言って現状の支援をとやかく言うとか、社会問題としてのホームレス全体をなんとかしたいとかいう気持ちはありません。今回の取材で出会ったホームレスの人には、個人レベルで何か手助けしたいとは考えています」

作品紹介『ルポ路上生活』



ルポ路上生活
著者 國友 公司
定価: 1,650円(本体1,500円+税)
発売日:2021年12月27日

「ホームレスは一体、どんな生活をしているのか?」。
著者が長年の疑問を解くべく、自ら路上生活を営んで取材したルポルタージュ。2021年夏に、東京都西部、東部、荒川河川敷を中心に2カ月間にわたり取材を敢行。そこで出会った人たちの、異質な価値観とは。我々のイメージを180度覆す一冊。
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322106000320/
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國友公司(くにとも・こうじ)

1992年生まれのルポライター。栃木県那須町出身。筑波大学在学中よりライター活動をはじめる。

大学を休学し、自転車で東南アジアを放浪中、甘酸っぱい出会いや海外での沈没生活を経験。

デビュー作は2018年に大阪・西成のドヤ街生活を綴った『ルポ西成 七十八日間ドヤ街生活』(彩図社)。趣味は銭湯巡り。キックボクシング経験者。

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