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特集

鹿鳴館に招待された女学生たちが、ホームズ片手に科学捜査!?『明治乙女物語』

明治21年。東京・御茶ノ水の高等師範学校女子部(女高師)に通う女生徒たちが、
鹿鳴館の舞踏会で巻き込まれた事件とは——。
『明治乙女物語』で第24回松本清張賞を受賞した滝沢志郎さんにお話をうかがいました。

── : ずっと小説家を目指してきたということですが、初めて小説を書かれたのはいつ頃でしたか。

滝沢: 高校生のときに田中芳樹(よしき)さんの影響を受けて書いたのが最初でした。その頃から歴史物を書いていましたね。十九世紀のヨーロッパの架空の国を舞台に、新聞記者が国王暗殺を企むテロリストを追う、という内容でした。

── : はじめから歴史物を書かれたのですね。それ以降はいかがでしたか?

滝沢: 社会人になってしばらくは小説から離れていたのですが、久々に書いたのが琉球王朝を舞台にしたものでした。当時、田中芳樹さんの事務所「らいとすたっふ」の小説塾の塾生だったのですが、その作品を褒めていただきまして、ちょうど公募している短編の賞があるということで応募しました。その短編の新人賞には三年連続で応募し、三回とも最終選考に残ったのですが、受賞はかないませんでした。ただ、最終選考に残ったことは自信になりましたね。改めて長編を書こうと思い、明治時代に良いテーマを見つけたので清張賞に応募したんです。取材と執筆には二年ほどかかりました。

── : 『明治乙女物語』は鹿鳴館時代の明治を舞台に、女生徒が活躍する小説です。書いてみていかがでしたか?

滝沢: 生徒たちを書くのはそれほど難しくなかったんですよ。難しかったのは女高師の生活、制度をいかにリアルに書くか、という点でした。苦労しましたが、女高師の史料やお茶の水女子大学に所蔵されている当時の生徒の回想録などに当たり、校則や校舎の配置まで調べて書きました。

── : シャーロック・ホームズや野球など、小道具の使い方も印象的でした。

滝沢: 緋色(ひいろ)の研究』は実際に作品の舞台となった年の前年にイギリスで刊行されているんです。そこでイギリスの友達に送ってもらい……という設定で登場させることにしました。当時、日本の警察には科学捜査の概念はあまりなかったようです。生徒に科学捜査的な推理をさせるためにも、ホームズは必要な小道具でした。  また、野球に関しては、回想録によれば女高師でも普通にプレイされていたようです。テニスやクリケットも広まっていたようで、かなり活発な生徒たちだったようですね。

── : 当時の世相なども含めて、相当深く調べられていると感じました。

滝沢: 全く知識が無かったので、まずは大学受験の参考書からはじめました。大掴みに時代の位置づけを知り、それから通史を読んで、と徐々に深めていきました。当時、日本を訪れた外国の方がいろいろと書き残しているのですが、日本人だと当たり前のことだからと書かないことでも、珍しいものとして記録するんですよね。そういう資料は非常に役に立ちました。

── : 調べられた歴史的事実を巧みに物語に組み込まれていると感じました。難しかった点はありますか?

滝沢: 史実に影響を与えてはいけない、という点ですね。具体的にいうと鹿鳴館で大きな事件があれば歴史に残ってしまうわけですよね。それをどう秘密裏に収めるか、いかに後世に残さないかということに腐心しました。  また、どうしても調べたことを書きたくなってしまうので、手直しをする際にかなり削りました。登場人物の設定に関わるものもありましたが、説明しなくても物語に影響を与えないところはどんどん削っていきましたね。

── : 小説を書く際、どういうところから着想を得ることが多いですか?

滝沢: 歴史物を書くことが多いので、歴史の本を読んで、そこで知ったエピソードから広げられないかな、と考えることが多いです。今作も、鹿鳴館の舞踏会に女生徒が招待されたという史実を知り、あまり書かれていない時代だということもあって取り組むことにしました。明治、大正、昭和前半など近代に興味があって、これらの時代を舞台にしたものを書きたいと思っています。他に書いている人のいないテーマ、場所、時代を開拓していきたいです。

── : 最後に、どのような作家になりたいか、お聞かせください。

滝沢: 売れる売れないは置いておいて、歴史小説が好きという人よりも、あまりなじみの無い人、むしろ小説自体あまり読まないという人にも楽しんでもらえる作家になりたいと思っています。初めて読んだのが私の本で、それをきっかけに小説って面白いなと目ざめてくれたら嬉しいし、光栄なことだなと思います。


滝沢 志郎

1977年島根県生まれ。東洋大学文学部史学科卒業後、テクニカルライターとして活動。2017年、「明治乙女物語」で第24回松本清張賞を受賞。

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