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特集

ミステリーズ! 新人賞受賞作を含む連作短編集。歴史小説にして本格推理小説、堂々登場。『刀と傘』

取材・文:編集部 

ミステリーズ!新人賞の受賞から三年、受賞作を収録した初単行本『刀と傘 明治京洛きょうらく推理帖』の完成度の高さが話題の伊吹いぶき亜門あもんさん。
会社勤めをされながら執筆に励む気鋭の新人にお話をうかがいました。

── : 初めて小説を書かれたのはいつ頃ですか?

伊吹: 完成したものを書いたのは、大学一回生のときです。大学に入学してミステリ研究会に所属して、そこで初めて最後まで書き上げました。

── : それ以前からミステリを書こうと思っておられたのですか?

伊吹: 中高生の頃はノートに設定を書いたりしていました。元々母親がミステリ好きで、家の本棚には古典・海外を含めたミステリの蔵書が結構ありました。リビングのTVには、ポワロやホームズのドラマの録画が流れているといった環境でした。

── : その頃に読んでいた作家・作品はどういうものですか?

伊吹: 横溝正史など戦前の探偵小説に惹かれて読み漁りました。現代物では、綾辻行人先生や有栖川有栖先生の新本格作品を読んでいて、大学進学後は、ミス研の先輩に教えてもらった連城三紀彦作品にハマりました。

── : ミステリーズ!新人賞に応募されたきっかけは?

伊吹: 大学四回生のときにミス研の会誌に掲載するつもりで「監獄舎の殺人」を書き上げました。ただ卒業も近かったので、在学中に一度ぐらいは賞に出してみようと思い、同賞に応募しました。受賞後に、続きが気になるという感想をいただき、連作構想を練り始めました。

── : 幕末・明治の京都を舞台にしたのは理由があるのでしょうか?

伊吹: 子供の頃から新撰組が好きで、幕末は好きな時代でした。長じて山田風太郎の明治物などを読むうちに明治もいいなと思うようになり、大学進学を機に京都住まいとなり、大路小路を歩くようになると街に愛着も出てきました。自然と幕末・明治の京都を舞台にしようという構想が浮かびました。

── : 江藤えとう新平しんぺい鹿野かの師光もろみつ、二人を探偵に据えたのは?

伊吹: 山田風太郎の「首の座」で江藤新平の変わった人物像を知り、探偵役に据えると面白いのではと思いました。師光は以前の習作で探偵役に使っていた、架空の人物です。

── : 収録された五つの短編すべてで、一つの事件に対し、江藤と師光の視点の違いによる二つの真相が描かれます。

伊吹: ミステリの面白さは真相が明かされる瞬間にあると思うのですが、そこでさらにもう一つ、違う真相があると、より驚くというか面白いんじゃないかという考えがあって、こういった構成を思いつきました。

── : 五作品それぞれに、それまでの世界が反転する面白さがあります。

伊吹: 今まで見ていた世界が実は全然違うものだった、というネガポジ反転の驚きを最初に味わったのは大島弓子先生の『Fフロイト式蘭丸』を読んだときです。騙されるって面白い、自分もこんな風に騙せたらと思いました。そこから、謎の行動と背後の動機が結びつく瞬間を書こうと思うようになりました。

── : 各話それぞれの作り方は?

伊吹: 最初は情景を思いつきます。例えば四話の「桜」では、夕暮れの廊下での江藤と師光の対決シーンが浮かんで、そこに行きつくためにトリックを考え、その後でストーリーを組み立てていくという順番で作っています。

── : 個々の短編は、倒叙ありハウダニットありの本格ミステリですが、全体を通してみると、ある歴史の謎に対するホワイダニットにもなっています。全体を構成する上で意識された点は?

伊吹: 史実に基づく話なので、極力史実に背かないことを大前提にしました。その上で、ミステリを書く際は、動機面に力をそそぎたいと思っているので、作者の都合で犯人や登場人物の動機を歪めないという点を意識していました。

── : 動機へのこだわりはどこから?

伊吹: 読む場合でもホワイダニットがすごく好きなんです。そこだけ取り出すと異常に思える動機や論理が、物語の中で特定の文脈や背景を介して語られる分においては腑に落ちる、という作品に惹かれます。

── : 江藤と師光、二人の異なる正義が、事件を通じてぶつかり合います。

伊吹: 師光の正義に関しては、もう少し書き足すことも考えたのですが、人の心に起因することは、書き過ぎてしまうとバランスが崩れてしまう懸念もあったので、あえてこのぐらいの描写にとどめることを選びました。

── : 次作以降で描きたい題材は?

伊吹: 今書いているのも幕末の京都が舞台のミステリです。ただ他の時代や現代を舞台にしたものも、いずれは書いていきたいと思っています。


伊吹 亜門

1991年愛知県生まれ。同志社大学法学部卒。2015年、「監獄舎の殺人」で第12回ミステリーズ!新人賞を受賞。18年、同作を含む連作短編集『刀と傘 明治京洛推理帖』でデビュー。

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