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特集

昔話の逆の道筋を辿る――企みに満ちた本作を語る!『遠巷説百物語』刊行記念 京極夏彦インタビュー

取材・文=杉江松恋 写真=首藤幹夫

闇の仕事師たちが化け物譚を武器に世間の悪人と渡り合う。京極夏彦の人気シリーズ、11年ぶりの単行本刊行となる第6弾『遠巷説百物語』はなんと『遠野物語』の世界が舞台だ。〈民話の里〉を京極夏彦はどう描いたのか。

最新刊『遠巷説百物語』刊行記念 京極夏彦インタビュー

「昔話」を「世間話」に戻してゆく


――11年ぶりの新刊となる〈巷説百物語〉シリーズ、第6作は東北地方の遠野が意外にも話の舞台となりました。京極さんには柳田國男の名作を現代に蘇らせた『遠野物語remix』『遠野物語拾遺retold』というご著作もあります。今回の『遠巷説百物語』にはその『遠野物語』を読んでいると楽しい箇所も多々ありますね。

京極:けっこうリンクさせてますね。遠野は民話の里として知られていますが、『遠野物語』は昔話や伝説、世間話など雑多な話が無造作に載っていて、いわゆる民話じゃないんです。民話の素ですね。で、江戸期の遠野は鍋倉城の城下町ですが、独立した藩ではなくて盛岡藩、旧南部藩の一部です。農民の他、武士や商人など多彩な階級が暮らしている。そうした史実があって、それが『遠野物語』になって、民話になるわけでしょう。ならその逆はできないかというのがそもそもの発想でした。世間話の骨子を磨いていくことで昔話はできあがるわけですが、逆の道筋を辿ったらどうなるかなと。冒頭に昔話を一つ入れて、その話が醸成されていく過程を、風聞、当事者の語り、仕掛けの暴露の3段階で現実に戻してみようと。でも、このシリーズは「お化け縛り」があるので、そんな都合のいい昔話はないんです。なのでオリジナルの「なんちゃって昔話」を作っちゃったんですが。


――過去の『続巷説百物語』で視点人物を務めた山岡百介に対応する登場人物、宇夫方祥五郎が登場します。遠野の街で起きた出来事を遠野南部家に報告するという役回りですね。その昔話が誰かによって語られる必要があったからでしょうか。

京極:そうですね。各話、関係者視点のパートがあれば小説は成り立つんですけど、この場合は「話」にしなくちゃいけない。事件を外側から観ている人物、そして能動的に語らざるを得ない人物が必要になるんですね。お殿様へのご報告義務があるんだけど、いろいろ知っちゃうとそのまんまは語れないという。密偵なんですが、スパイ然とするとかっこよすぎるので人の良い腰抜けにしました(笑)。



新しいことに挑み続ける矜持


――御行の又市などの世間の闇で生きる者たちが暗躍し、化け物を使った物語で現実の出来事を塗り替えていくというのがこのシリーズの基本構造です。今回中心となるのは『前巷説百物語』に登場した長耳の仲蔵を中心とするチームですね。シリーズとはいうものの、毎回趣向が変わるのが〈巷説百物語〉の魅力でもあります。

京極:最初の『巷説百物語』は「怪」の創刊0号から連載してるんですが、「怪」はすぐ廃刊になると思ってた(笑)。でも1冊にまとまっても終わらなくて、続けろといわれたんですが2巻、3巻と続けていくのは嫌だったんです。それぞれで完結した1冊にしたい。そこで『続巷説百物語』は、それまでの多視点から視点人物を山岡百介に固定した別作品にしてみたんですね。これ、あまり変わりがないようですが、書き方は全然違うんです。ミステリーには寄せやすい。1作目と時系列を入れ子にすれば連作として成立するだろうと。ところが「怪」が廃刊しない(笑)。だから次で最後にするといって、後日譚の『後巷説百物語』を書いたんです。しかしこれも普通に続きは書けない。そこで過去の事件が今の事件を解決するヒントになるという二重構造にしました。しかも回想部分も裏と表を作るというややこしい構造で。


――実に手の込んだ物語ですよね。

京極:面倒くさいんです。短編を2本用意して、それを材料にして1話を書くもので、とても非効率的でしたね。ところが幸か不幸かこれが直木賞をいただいちゃったので、最終作案が却下されてしまった(笑)。仕方がないので〈エピソード0〉、前日譚を書きました。この『前巷説百物語』で初めて又市を視点人物にしました。仕掛ける側視点ですね。それでも許してくれない。次の『西巷説百物語』は、舞台を変えただけじゃ芸がないので、ターゲットになる相手の視点で書いてみようかなと。〈百鬼夜行〉シリーズの『邪魅の雫』のスタイルを応用してみようと。


――『邪魅の雫』も事件当事者の視点ですね。この『西巷説百物語』で柴田錬三郎賞を受賞されます。

京極:これでもうお役御免だろうと(笑)。安心して別の作品を連載していたんですが、なんと「怪」と「幽」が廃刊して「怪と幽」が誕生しちゃった。そこで記念に別の新シリーズを立ち上げるか、〈巷説〉を再開してくれという。再開といっても、ここまでくると意地でも前と同じことはできないでしょう。たとえ失敗作と言われようが何か違うことをやらないと〈巷説〉の矜持が保てないだろう、と。


――なんと面倒な“作家の業”ですこと。その結果生まれたのが待望の『遠巷説百物語』ですが、実は「怪と幽」では『了巷説百物語』の連載が始まっています。タイトルからするとこれは……。

京極:シリーズの最終作です。本当の終わりですね。この連作は竹原春泉『絵本百物語』をモチーフにしているんですが、「丁度一冊分だけお化けが残っているんですけど、どうするんですか」と痛いところを突いてくる某社の偉い人がいて、うっかり(笑)。


――残っている妖怪の面子を見ると、いろいろ想像が膨らんできます。そちらも実に楽しみです。

『遠巷説百物語』主要人物相関図


※2021年8月刊行予定の「怪と幽」vol.008に、本インタビューの完全版を掲載します。



書誌情報



『遠巷説百物語』
京極夏彦
定価:2,530円(本体2,300円+税)

遠野は化け物が集まんだ。咄だって、なんぼでも来る――。市井の噂話を調べる祥五郎のもとに、奇異な「咄」が舞い込む。江戸末期の遠野を舞台に「化け物退治」が幕を開ける。「巷説」シリーズ、11年を経て再始動!
https://www.kadokawa.co.jp/product/322009000361/


京極夏彦(きょうごく・なつひこ)

1963年、北海道生まれ。94年『姑獲烏の夏』でデビュー。2004年『後巷説百物語』の直木賞をはじめ受賞多数。『魍魎の匣』『巷説百物語』『続巷説百物語』『オジいサン』『虚談』『虚実妖怪百物語』『ヒトごろし』『今昔百鬼拾遺 月』など著書多数。

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